去る5月29日、「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2019 in 大阪」の特別講演にて、『コールセンターのパフォーマンス評価 “8つの禁じ手”』というタイトルで話をしました。 講演のスライドは、こちら からご覧になるか、ダウンロードすることができます。 筆者は通常、講演のプレゼンテーションのスライドには細かな説明文を書きません。 そのため、今回の講演のスライドを読むだけでは誤解を生じる心配があるため、このコラムで補足の説明をすることにしました。 まず、8つのタイトルですが、これらはすべて“禁じ手”を書いています。 例えば、1. の場合、「サービスレベルを1日平均で評価してはいけない!」と言っているわけです。 決して、「1日平均で評価しよう」というわけではありませんので、くれぐれもご注意を。 それでは、以下、講演のスライドと合わせてお読みください。 1. サービスレベルを1日平均で評価 サービスレベルの本質は、すべての時間帯で目標を達成することにあります(注1)。 1日単位の平均値で評価すべきではありません。 スライドの事例のように、1日の単純平均では目標(80%以上)を達成していますが、大幅に目標を下回った午前中の惨憺たる実態が包み隠されてしまっているからです。 ただし、業績評価や経営レベルへの報告などを、時間帯別におこなうのは現実的ではありません。 そこで、1日以上の単位で実績を表す場合は、スライドの事例に示すように、「絶対値方式」による平均値を使います。 ただし、絶対値方式で目標達成するには、恒常的に安定稼働ができている成熟したセンターでなければ困難です。そうでない場合は、「加重平均方式」による実態に近い平均値を使ってください。 それぞれの計算式は次の通りです。 絶対値方式: 目標達成時間帯のコマ数÷全時間帯コマ数 ※スライドの事例:(6コマ÷9コマ)×100=67% 加重平均方式: コール数比率で重み付けしたサービスレベル実績の合計÷コール数比率の合計 ※スライドの事例:(((65%×0.201)+(70%×0.176)+・・・・・・+(90%×0.069)+(95%×0.066)) ÷(0.201+0.176+・・・・・・+0.069+0.066))×100=77% 2. ファンの声で顧客満足度を評価 世の中には、“おかげさまで顧客満足度ナンバーワンを獲得!”といった広告があふれています。 不思議なのは、同じ業界で競合企業である筈なのに、どの企業も“ナンバーワン”を叫んでいるケースが少なくないことです。 何故そんなことが起こるのでしょうか。 乱暴な言い方をするならば、顧客満足度の高評価を得るのは簡単だからです。 その“やり口”を二つ紹介しましょう。 ひとつは、いわゆる顧客満足度調査のアンケートの質問数を20も30も設けたり、回答形式をほとんど記述式にするなど、とにかく“面倒で時間がかかる”ようにすることです。 一見、顧客満足を重視する企業との印象を受けそうですが、こんな面倒なアンケートに“普通の人”がしっかり回答してくれるでしょうか。 もうひとつは、自社のファン(高度利用者や上得意客など)を対象に、個人あるいはフォーカスグループのインタビューをおこなうことです。 ある企業では、社長自ら顧客を訪問し、その意見を伺うという活動をおこないました。その社長曰く「すべての顧客が我が社のコールセンターを高く評価している」だから「我が社のセンターは質が高い」というものでした。ところが、そのセンターは、外部の調査機関から「根本から改善を要する」という最低レベルの評価を受けていたのです。社長に改善施策を提案しようとしていたセンター長は頭を抱えてしまいました。社長の直接訪問にどんな顧客をお膳立てしたのか――推して知るべしでしょう。 3. 単純二択のポスト・チャット・サーベイ ライブチャットの応対が完了すると、お約束のように、「私たちの対応に満足いただけましたか」と聞かれ、「満足」「不満足」の二者択一による回答を求められます。それがポスト・チャット・サーベイです。 その結果は、ほとんどすべてが、限りなく100%に近い満足度となります。 もし、あなたのセンターが90%を下回るようなら、極めて強い危機感を持ち、直ちにその原因を特定し、改善策を講じてください。 なぜなら、ポスト・チャット・サーベイには、100%近い満足度が得られるという以下のような必然性があるからです。
つまり、ポスト・チャット・サーベイを受けるタイミングでは、満足した顧客しか残っていないということです。 このことを踏まえて、単純二択のポスト・チャット・サーベイの結果をどう評価すべきか、どう扱うべきか、良く考えなければ、大きな勘違いをすることになるでしょう。 4. 稼働率は高いほど良い エージェントの稼働率を、ホテルの客室稼働率や飛行機の座席稼働率などと混同してはいけません。 ホテルや飛行機の稼働率は、高ければ高いほど良いのですが、エージェントの稼働率は、高ければ高いほど、顧客サービスやエージェントの心身の状態の悪化を招きます。 エージェントの稼働率が高いということは、具体的には次のような状態であることを表します。 コール数が増加する ⇒ エージェントが絶え間なく応答している ⇒ エージェントはトイレにも行けず、とにかく忙しい ⇒ 電話がつながりにくくなる ⇒ キューが溜まる ⇒ 平均応答時間が長くなる ⇒ サービスレベルが悪化する ⇒ 顧客はイライラする ⇒ 放棄が増える その結果、顧客の不満が高まり、多くの顧客を失うことになります。 また、エージェントは疲労困憊します。その状況が常態化すると、エージェントの不満が高まり、バーンアウト(燃え尽き)を招き、最後は会社を去ることになります。 稼働率を重要な生産性評価指標と決め付け、その高さを評価するようなセンター管理者には、即刻退場を勧告します。ブラック化を推進してるのと同じことですから。 稼働率は、エージェントの忙しさや心身の状況を測る目安に過ぎません。そもそも、稼働率の数値を見ないと、それがわからないこと自体が、センター管理者として失格ですね。 5. 応答率でつながりやすさを評価 日本企業のコールセンターのガラパゴス状態の象徴である応答率。 いまだに、それが最重要KPIであると盲信するセンターが圧倒的多数であることは、世界の常識からすると、あまりにも恥ずかしいと言わざるを得ません。 普通の人は、30分待たされた挙句につながったコールセンターのことを、“つながりやすい”とは評価しません。 でも、応答率は30分待たせても、最終的につながればOKなのです。 応答率とは、「つながったか、つながらなかったか」を示すに過ぎないからです。 「応答率が高い=つながりやすい」と考えている方は、今すぐにその考えをあらためてください。 繰り返しますが、応答率でつながりやすさはわかりません。 したがって、応答率で顧客満足や顧客経験(CX)のケアなんてできません。 「当社のセンターのKPIは応答率です。そして、今年の最重要課題はCXの向上です。」というあなたの発言が、まったくつじつまの合わない“なんちゃって宣言”であることを自覚してください。 それ以前に、そもそも応答率という概念は、世界のコールセンターセンター・マネジメントの常識には存在しないことを知ってください。 6. 現場の声は顧客の声 「現場の声は顧客の声を映す鏡だ」などと真面目に言うセンター管理者は、ほとんど現場のことを知らない人に違いありません。おそらく、日頃、オペレーションの現場を歩いたこともなければ、エージェントと本音の会話を交わしたこともない人でしょう。 現場(エージェント)の声は顧客の声ではありません。 確かに、エージェントは社内で最も顧客に近い存在ですが、顧客とのコンタクトから生じるさまざまな労苦に直面するのもまた、エージェントです。 そのため、エージェントは、社内外に対する不平不満や被害者意識を持つことになります。 そんなエージェントが代弁する顧客の声には、彼/彼女たちの強いバイアスがかかっています。 現場を歩けばわかります。 多くのエージェントは、たった1件の顧客の苦情を、あたかもすべての顧客の苦情のように表現します(注2)。 センター管理者やマーケティング、あるいは経営者は、本当に顧客の声を活用したいのなら、エージェント任せにしてはいけません。 マーケターが、自分が手掛けたプロモーションの効果を確かめるために自らフィールドウォッチングをするのと同様に、顧客の声は自分の耳で聞くべきです。 7. ライブチャットの効果でコール数削減 ライブチャットを導入するコールセンターのほとんどが、「電話をチャットに置き換えてエージェント数とコストを減らす」ことを目的としています。 しかし、ライブチャットの導入によりコール数を減らすことはできません。 電話による顧客とのコミュニケーションを、ライブチャットに置き換えることはできないからです(注3)。 ライブチャット導入の本質的な目的は、チャットを好む新しい顧客や、チャットにフィットする新しいマーケットを獲得することにあります。つまり、顧客とのコンタクトは減るどころか増えることになります。このことは、こちらの記事 に書きました。 ところが、多くの場合、ライブチャットを導入するとコール数が減ります。 何故なら、問い合わせの起点となるWebサイトで、ライブチャットを利用するように誘導あるいは強制するからです。 これがWeb起点の顧客サービスの、企業側にとっての大きなメリットです。Webサイトの作り方ひとつで、顧客を思い通りに操ることができるのですから。 でも、これは、あくまでも企業側の恣意的な操作であり、顧客の選択ではありません。 つまり、コール数が減ったのではなく、減ったように見えるだけです。 もしかしたら、電話を好む顧客は不満を抱いているかもしれません。 ライブチャットでは埒が明かない問題を抱える顧客を憤慨させているかもしれません。 そんな顧客は、黙って競合他社へ乗り換えることになります。 ライブチャットは電話を置き換えるものではなく、電話と共存する(使い分ける)ツールであり、そこに顧客にとっての大きなメリットが生まれるのです。 8. 予測の正確性を誤差率で評価 コール数などの予測はセンター・マネジメントのはじめの一歩です。 それがなければ、コールセンターの活動は何も始まらないし、その精度いかんで、コールセンターのパフォーマンスに大きな影響を与えることになります。 したがって、「フォーキャスト正確性」はセンター管理者にとっての必須のKPIのひとつです。 ところが、大半のセンター管理者が、その正しい測り方を知らず、予測と実績の誤差の割合(これを「誤差率」と呼びます)で見てしまいます。 スライドの事例をご覧ください。フォーキャスト正確性の目標値は5%とすることが多いので、誤差率-3.4%という結果を“精度が高い予測”と評価してしまいます。 ところが、この-3.4%は、時間帯別に見た場合の、目標から大きく乖離した実績が、“平均のマジック”によって相殺されてしまっており、実態を表していません。 時間帯ごとの正確性は誤差率で構いませんが、1日以上の期間で見る場合は、「絶対誤差率」を使います。 絶対誤差率とは、実績値から正負の符号を取り去った絶対値を%で表したもので、その1日平均のことを「平均絶対誤差率」(MAPE)と呼びます。 絶対誤差率の計算式は、次の通りです。 絶対誤差率=(|実績―予測|÷実績)×100 ※||は||内の数値が絶対値であることを示します。 また、スライドのもう一つの事例では、予測のバラツキを評価する「標準偏差」(数値が小さいほど精度が高い)と、予測と実績の関係性の強さを表す「相関係数」(1.0に近いほど精度が高い)を紹介しています。 左右の表を1日平均の誤差率で比べると、右表の3.5%に対して-0.6%の左表の方が精度が高いように見えます。 しかし、時間帯別に見ると、右表の方がバラツキが少ないことがわかります。これを標準偏差と相関係数で見るならば、いずれも右表の方が精度が高いという結果になります。 このように、正しい方法を知らないことは、真逆の評価をしてしまうことになるので注意が必要です。 以上、8つの禁じ手に対する簡単な説明をしましたが、これらはすべてセンター・マネジメントの基本です。 さらに詳しいことは、『コールセンター・マネジメントの教科書』で解説していますのでご覧ください。
注1: サービスレベルが登場する以前、世界中のコールセンターは、放棄率と平均応答時間の二つを最重要評価指標としていました。しかし、いずれも平均値のため、1日単位で見た場合に、目標を下回った時間帯の実績が、目標を上回った時間帯の実績に相殺されてしまい、真のサービスの実態が見えなくなってしまうという反省から生まれたのがサービスレベルです。したがって、サービスレベルは時間帯ごとの実績を評価するのがあるべき姿なのです。
注2: もちろん、すべてのエージェントが、あるいは、すべてのケースにおいてバイアスがかかるわけではありません。 注3: 単純定型的で正解のある問い合わせなど、ライブチャットにフィットするものは置き換えることが可能です。 熊澤伸宏(文/Vol.25)
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コールセンターだからこそ、絶対にこだわりたいもの――それは「ことば」です。 コールセンターだからこそ、「最も美しい日本語」を使いたいからです。 私たちは毎日、顧客と大量の「会話」を交わしています。 最近では、チャットやメッセージング・アプリなど「テキスト」によるコミュニケーションも急増しています。 また、顧客とのメールや、業務マニュアル、トーク・スクリプトなど「文書」の作成も大量におこなっています。 そのいずれも「ことば」で成り立っています。 したがって、質の高い「会話」や「文書」の作成のためには、「ことば」そのものを学ぶことが必要です。 以下に、そのための必携図書を紹介します。 まず、「話しことば」を学ぶには・・・・・・ 『NHK ことばのハンドブック 第2版』 NHK放送文化研究所編 NHKによる放送の「ことば」は、日常使われる話しことばの一つの規範(注1)として、国民の絶大な信頼を得ていることに疑いの余地はありません。 新人エージェントのトレーニングで、「NHKのアナウンサーの話し方を学びなさい」と指導するコールセンターも多いのではないでしょうか。 そんなNHKの放送用語委員会が、「ことば」の選択や使い分けの目安となる点をまとめ、放送関係者のみならず、「ことば」に関心を持つ多くの人たちに向けてわかりやすく編集(注2)したのが本書です。 エージェントのコミュニケーション・スキルのトレーニングやコーチング、トーク・スクリプトやQ&Aの作成などのために、コールセンターに必ず備えておくべき1冊です。 なお、本書のほかに、発音やアクセントについてまとめた 『NHK 日本語発音アクセント辞典』 も合わせて備えておくと良いでしょう。 次に、「書きことば」を学ぶには・・・・・・ 『記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集』 共同通信社編著 本書は、「分かりやすくやさしい文章、言葉で書く」「できるだけ統一した基準を守る」という原則のもと、「社会一般の文章表記に役立つ」(注3)ことを目的とし、新聞記者はもちろんのこと、ライターや編集者など、すべての文章作成に関わるプロフェッショナルの必携本として確固たる地位を築いています。 「ことば」の使い方や表記法というだけにとどまらず、実用的な文章を作成するために必要な、ありとあらゆるノウハウや情報が満載で、それらを読むだけでも、社会一般のさまざまな知識が得られる百科事典的な機能も持ち合わせています。 「分かりやすくやさしい文章、言葉」「統一した基準」は、コールセンターの業務マニュアルなどを作成するための大前提です。 そこが揺らいでいると、使い手であるエージェントにとっての読みにくさや使いにくさが生じ、マニュアルとしての機能や価値の低下、ひいてはオペレーションの品質の低下にまで発展します。 加えて、顧客との「テキスト」によるコミュニケーションが今後ますます増えることを考えれば、「書きことば」を学ぶための本書も、コールセンターに必ず備えておくべきでしょう。 なお、肝に銘じておくべきは、単純に「ことば」だけを学び、正しい使い方をしたところで、それは「マニュアル・トーク」に過ぎないということです。 例えば、『NHK ことばのハンドブック』 で学び、NHKのアナウンサーと同等のクオリティーで顧客と「会話」をしたらどうなるでしょう。 不自然です。 アナウンサーによる放送のトークと、コールセンターのエージェントによる顧客との「会話」は別物だからです。 つまり、今回ご紹介した図書は、「ことば」の使い方のルールを知るためのものであり、それだけで顧客とのコミュニケーション・スキルを学ぶことはできないということです。
注1:村神 昭 『NHK ことばのハンドブック 第2版』 はじめに より
注2:村神 昭 『NHK ことばのハンドブック 第2版』 はじめに より、筆者が一部改変 注3:共同通信社 『記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集』 まえがき より 熊澤伸宏(文/Vol.18) 「変化」「変化」「変化」・・・、コールセンターの上下左右をこの2文字が飛び交っています。 今に始まったことではなく、いつの時代にあっても、常に「変化」がトレンド・ワードであるのがビジネスの世界です。 時代によって多少の強弱はありますが、コールセンター周りを見るならば、近年は圧倒的に「AI」「人手不足」の二大用語とタッグを組んで、「すべてが取って替わる」「だから変化しなきゃいけない!」と危機感煽りまくりの“変化大合唱”時代の真っ只中にあるように思います。 その大合唱をリードするのが、メディア、コンサル、ITベンダーの三者でしょう。
そうすることで新たなマーケットを開拓し利益誘導しようとするのが彼らのビジネス・モデルですから、決して文句を言われる筋合いはないのですが、時折出現する「地に足のついていない」「現場知らず」の論調を見聞きすると、さすがにムムム感を覚えることがよくあるのも事実です。 一方、彼らがそうしてくれることで、多くのコールセンター・マネージャーに気付きを与え、新しい提案やツール、先進事例などが業界を進化させてくれることもあるので、短絡的に悪者扱いするつもりもありません。 しかしながら、最近の大合唱においてお約束のように語られる、 「これまでのコールセンターは効率一辺倒の処理部門に過ぎなかった・・・」 「単に受注や苦情の処理をするだけで顧客に対する関心は低く・・・」 といった論調には強い違和感、いや、「冗談じゃない!」と憤りすら覚えるのです。 でも、そのようなことをもっともらしく語るのが、当時はいなかった、現場のオペレーションの経験がない(代行業者の経験は含みません)人たちがほとんどであり、上記のような論調にすることで、わかりやすいストーリーが描きやすいからだろうなと、無理やり納得して何とか矛をおさめているところです。 声を大にしてハッキリ申し上げます。 「これまでのコールセンターは、顧客満足一辺倒でした。」 かつてのコールセンター=顧客応対の仕事に対する認識は、「顧客に対していかに丁寧に、親切に、感じ良く、間違いなく応対する」という程度でしかありませんでした。 そもそも効率性とか生産性とか、言葉は知っていても、それが自分たちの仕事という発想がなかったのです。 ましてや、そのためのマネジメント手法など、未だに諸外国にくらべて大きく立ち遅れている日本のコールセンターなのですから、その当時に知る由もありませんでした。 確かに「顧客満足一辺倒」と言っても、その考え方や手法は、今の時代に比べれば大変幼稚なものであったのは当然です。 しかし、やり方は素朴でも、1人ひとりの顧客に生身の「人」として真摯に向き合い、心を込めて顧客への尽くし方を一生懸命考え実践していたのが「これまでのコールセンター」でした。 翻って、「これからのコールセンター」。 「これからのコールセンター」とは、「変化の大合唱をリードする人たちが言うところの、これからあるべきコールセンターの姿」という意味合いです。 その「これからのコールセンター」ですが、どう考えても「圧倒的に効率性を先行」しているとしか思えません。 AIにしろロボット化にしろ、いかに仕事を自動化し、人手に頼らない正確で迅速なビジネスを実現するかを追求するものです。 その結果として、顧客にとっての利便性や快適性が向上し(それが優れた顧客体験とかカスタマー・ジャーニーのことですね)、ひいては顧客満足の向上につながるというわけです。 この一連のロジックを採り上げて、「だから、これからのコールセンターは顧客ファーストだ」と言われても納得できないのです。 彼らは、顧客をデジタルでとらえ、プラットフォーム上でいかに自在に操るかに腐心しているのであり(それが彼らの言うところの顧客戦略でしょう)、顧客の1人ひとりに生身の「人」として向き合ってはいないからです。 まとめるならば、「デジタル技術による「超効率化」の追求が、生身の「人」とのコミュニケーションを超える満足を結果的にもたらす」ということになるでしょうか。 だから――「これからのコールセンター」は「超効率至上主義」なのです。 誤解を避けるために申し上げておきたいのは、 だからと言って「これまでのコールセンター」を今後も礼賛し続けるわけでは決してないということです。 今でも国内コールセンターのほとんどは、「これまでのコールセンター」のままであるのが現実です。 科学的で合理的な世界標準のセンター運営の基本すら知らない旧態依然としたコールセンターのままで良いはずがありません。 「これからのコールセンター」へ向けての大きな変化を乗り切るためにも、すべてのコールセンターが、洗練された運営知識とノウハウを習得し実践する必要があることに議論の余地はないのです。 熊澤伸宏(文/Vol.16) 総合職、一般職などのように、「職能」(注1)で区別をつけたがる日本の企業では、「ジェネラリスト」か「スペシャリスト」かということがよく話題になります。 例えば、どちらが出世に有利なのか、どちらのタイプの人材を採用すべきかといったことです。 では、センター長、マネージャー、スーパーバイザーといったコールセンターのマネジメント(以下、コールセンター・マネージャー)の仕事についてはどうなのでしょう。 「コールセンター・マネジメントの仕事は企業経営の縮図だ」「センター長は中小企業の社長のようだ」と言われるように、コールセンター・マネージャーには「広範な守備範囲」が求められます(注2)。 また、他の一般事務系オフィスワークと比べるとコールセンターのオペレーションは極めてユニークであり、そのマネジメントには「高度な専門性」が要求されます(注3)。 このことから、コールセンター・マネージャーの仕事を「職務」(注4)の観点で考えると、そこにはジェネラリストとスペシャリストの両方の要素が含まれることがわかります。 ところが、日本の企業ではコールセンター・マネージャーは議論の余地なくスペシャリストと決め付けられます。 なぜなら、職能で考える日本の企業では、スペシャリストのことを「特定の部署や業務の専門性を極めた人」と定義するからです。 コールセンター・マネージャーの仕事は、一朝一夕に高い成果を挙げることはできません。 それを極めるには多くの時間がかかるため、必然的にコールセンターに長期間留まることとなり、そのことが、「特定の部署に長く留まる人=スペシャリスト」という決め付けとなるのです。 コールセンター・マネージャーを担うことで、中小企業の社長のような広範な業務を経験することができても、決してジェネラリストとは言われません。 あくまでも、コールセンターという“狭い世界”の専門家という評価を超えることはできないのです。 では、日本の企業におけるジェネラリストとは、どういう人たちのことを言うのでしょうか。 一般的な定義としては、「幅広い分野の知識を持ち組織全体を俯瞰してみることのできる能力を持つ人」となりますが、 ここでいう幅広い分野とは、自社内のさまざまな組織や業務のことを意味します。 つまり、ジョブ・ローテーションにより短期間で社内の多くの部署を経験し、仕事の知識やスキルは広く浅くに留まるものの、協調性やコミュニケーション能力に長け、顔が広く、根回し上手で人望が厚いといったイメージです。 伝統的な日本企業では、このような人、つまりジェネラリストを有能と評価する一方、スペシャリストは、視野が狭い、オタク、わがまま、協調性がないなどネガティブな評価をされる傾向にあります。 スペシャリストと決め付けられるコールセンター・マネージャーも、日本企業においては後者として見られがちなのは残念なことです。 しかし、一歩、会社の外に出るとどうなるでしょう。 社内では有能とされ、出世コースの“日本的ジェネラリスト”は、社外では評価されません。 笑い話にもありますが、「部長やってました」は他社では通用しないのです。 一方、社内では色眼鏡で見られるスペシャリストは、その専門性が大きな武器となり、社外では高く評価されます。 ジェネラリストとしての広範な守備範囲と、スペシャリストとしての高度な専門性を併せ持つコールセンター・マネージャーは、“どこへ行っても役に立つ”有能な人材として、高い評価を得ることができるのです。 つまり、職務を基準に考える労働市場や諸外国では、センター・マネジメントにおける広範かつ豊富な知識、経験、スキル、見識を有するコールセンター・マネージャーこそ、特定の企業や組織に限らず、“どこへ行っても”その能力を発揮し貢献することができる人材と位置づけ、そのような人材のことをジェネラリストと呼びます。 その観点から考えると、“日本的ジェネラリスト”は、特定の企業内でしか役に立たないスペシャリストと定義づけることができそうです。 ちなみに筆者は、8つの企業でコールセンター・マネージャーとして従事しました。 日本企業的観点からは“転職を繰り返し・・・”とネガティブな意味合いで言われましたが、筆者にはそのような感覚はまったくありません。 なぜなら筆者は、30年超にわたって一貫してコールセンター・マネジメントを職とし、一度たりとも“転職”をしていないからです。 そんな経験から声を大にして申し上げたいのは、コールセンター・マネージャーはジェネラリストであり、その知識や経験、スキルは、世の中に広く大きな価値を提供できる仕事であるということです。
注1: 職能 = 仕事をするための能力。日本企業では、純粋な意味での能力よりも、年齢、学歴、経験年数、肩書といった個人の属性を能力判定の基準とする傾向にある
注2、注3: 『コールセンター・マネジメントの教科書』 序章参照 注4: 職務 = 仕事そのもの、またはその内容 熊澤 伸宏(文/Vol.12) Google Trendsによるコールセンターとコンタクトセンターの検索ワード人気度比較(2004年1月~2018年8月) 左上から時計回りに日本、全世界、イギリス、アメリカ合衆国 Googleで検索されるワードの人気度(注)を見ることができるGoogle Trendsを利用して、コールセンターとコンタクトセンター、Call CenterとContact Center(イギリスの場合はCall CentreとContact Centre)の比較をしてみたところ、興味深い結果が得られたので紹介します。 コールセンターやコンタクトセンターの当事者たちの大方の予想(?)を裏切って、コールセンターの圧勝です。 私が調べたおもな20カ国の中では、オランダがそろそろ逆転しそうな傾向を見せている以外は、イギリスを除くすべての国でコールセンターがコンタクトセンタ―を上回っています。 英語以外を母国語とする国の影響も多少はあるかもしれませんが、全体的な傾向は表しているでしょう。 唯一の例外であるイギリスは、2011年8月を境にコンタクトセンター(Contact Centre)が上回るようになり、2015年以後はその差を拡げていることがわかります。 ちなみに2013年6月にコールセンター(Call Centre)が派手にスパイクしていますが、これはBBCが「The Call Centre」という番組を放送したことによるものです。 アメリカは驚きです。 言うまでもなく、コールセンター/コンタクトセンターの最先進国であり、アメリカ発の各種メディアの表記は、圧倒的にコンタクトセンター(Contact Center)で占められているからです。 日本の場合は、何か裏付けとなるデータがあるわけではありませんが、世間一般的には、コールセンターが圧倒していることは感覚的に理解できます。 とは言え、日本でも“業界的には”、コンタクトセンタ―の露出が急増しているはずですが、検索ワードではコールセンターがいまだに増加を続けているのに、一方のコンタクトセンターは2012年ころを境にそれまでよりも減少し、その後増加する気配はありません。 一般に、電話が圧倒的にメインのコンタクト・チャネルである場合はコールセンター、Eメール、チャット、SNSなどマルチ・チャネルの場合はコンタクトセンターと定義されています。 ITベンダーなど、それにこだわって両者の使い分けをしている企業も見られますが、チャネルの種類による区分は、多分に業界寄りの発想である気がしないでもありません。 世間一般的には、チャネルはどうあれ(そもそも一般消費者がそんなことを意識しないでしょう)、企業や組織の顧客コンタクトの窓口のことをコールセンターとするという単純明快な認識なのではないでしょうか。 さまざまな理由で、コールセンターとコンタクトセンタ―のどちらにするかを検討する機会があるでしょうが、GoogleTrendsのデータは、今後もしばらくの間、業界の当事者の悩みの種となりそうです。
注:人気度の数値は、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索インタレストを相対的に表したものです。100 の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50 の場合は人気度が半分であることを示します。0 の場合はそのキーワードに対する十分なデータがなかったことを示します(Google Trendsより)。
熊澤 伸宏(文/Vol.10) 2018年5月30日、『コールセンター・マネジメントの教科書』を発刊しました。
624ページにおよぶこの本に一貫して書かれているのは「基本」です。 私たちは、「基本」という言葉を日常生活のあらゆる場面でごく普通に使いますが、そこには大まかに2つの意味合いがあるように思います。 ひとつは「最も重要なもの」、もうひとつは「初歩的なもの」というニュアンスです。 類語辞典を検索してみると、「起点」「本質」「核心」「真髄」「最重要」といった前者に近い言葉と、「入門」「初級」「初歩」「イロハのイ」といった後者に近い言葉が混在しています。 コールセンターのマネジメントの場面においてはどうでしょう。 筆者の経験からは、圧倒的に後者の意味合いで使われることが多いように思います。 それが最も如実に表れているのが、トレーニング(教育・研修)の分野でしょう。 ほとんどの場合、「基本」と名がつくトレーニングは、新人など経験の浅いスタッフを対象としています。 コールセンター業務の経験がない新任の管理者が受講することはあっても、センター長やマネージャーと呼ばれるポジションの人たちが、「基本」のトレーニングを受けることは極めてまれです。 では、そんなセンター長やマネジャーの人たちには、「基本」がしっかりと身に付いているのでしょうか。 以下は、いずれもコールセンター・マネジメントの「キホンのキ」を理解していない事例ばかりです。 これをお読みのセンター管理者の皆さん、ダイジョーブですよね?
② 500コール × 90%=450コール・・・・・・応答すべきコール数 ③ (450コール × 300秒) ÷3,600秒=37人・・・・・・フル稼働の場合のエージェント数 ④ 37 ÷ 85%=43人・・・・・・稼働率を考慮に入れたエージェント数
いかがでしょう。「基本」を理解している人なら、これらすべてがナンセンスであることをおわかりのはずです。 もしこれらに違和感を感じなければ、あなたのセンターは、顧客、エージェント、企業のいずれにとっても、ハッピーな存在ではないかもしれません。 「基本」の理解や徹底が十分でないことは、正常なセンター運営の妨げとなるからです。 センター・マネジメントにおける「基本」は、決して「初歩的なもの」として軽んずべきものではなく、「最も重要なもの」であることに気付いてください。 確かに時代は大きく変化しています。しかし、時代がどれだけ大きく変化しようと、環境がどれだけ異なろうと、マネジメントの「基本」は普遍であり不変です。 「新しいやり方」は「基本」の上に追加されていくものであることを忘れないでください。 そんな「基本」の重要性について、来たる7月11日、国内屈指のセンター長経験者4名が語ります。 ご興味のあるかたはこちらへ。 熊澤 伸宏(文/Vol. 1) |
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