クラウドやモバイルといったテクノロジーを活用すれば、コンタクトセンターの「在宅勤務化」は可能です。それどころか、緊急時の対策だけでなく、ここ数年、コンタクトセンターの成長の足かせとなってきた問題を一掃し、今後の進化を加速させる大きな可能性があります。 前回の記事では、コンタクトセンターを在宅勤務化することによって、享受できるメリットを紹介しました。 いわゆるエッセンシャルワーカーなど、業務の形態や性格から在宅勤務のしようがない職種も多い中、コンタクトセンターは在宅勤務に良くフィットし、それが企業、顧客、従業員といったステークホルダーのすべてにメリットをもたらすのです。 しかしながら、現状、欧米諸国のように在宅勤務化が進まない理由として、「社内システムアクセス」「安全性」「エージェント管理」「執務環境」「現状維持バイアス」の5つが考えられます。これら5つの課題を克服し、在宅勤務化を推進するためのポイントについて説明します。 (1)社内システムアクセス: これは、エージェントが、電話やメールなどの顧客コンタクトプラットフォームや、CRM、社内の業務システムなどに、自宅からどうアクセスするかということです。 前者については、「クラウドサービス」を利用することに尽きると言って良いでしょう。PBXなど従来の「オンプレミス」型のプラットフォームに比べて、はるかに簡単で迅速かつ安価に導入できます。ちなみにオンプレミス型のプラットフォームでも、携帯電話などへのルーティング機能を提供している場合があるので、あきらめずに確認しましょう。 後者についても、第一選択肢としては「クラウド」化を図ることです。そうでない場合は、「VPN」接続サービスなどを利用して安全に接続する環境を構築することになるでしょう。 (2)安全性: 在宅勤務に踏み切らない最大の“言い訳”が「個人情報」です。しかし、これは在宅勤務ができない理由にはなりません。自宅からのアクセス、ましてや非正規社員のアクセスを禁じるなどという規定はどこにもありません。もしそれがダメというなら、業務委託先のドライバーが運転する宅配便のトラックに、個人情報を貼付した荷物が山積みであることを、どう説明するのでしょうか。事の本質は、個人情報に限らず、各種の機密情報に社外からアクセスする際の安全を担保するための「安全管理措置」がしっかりとられているかどうかにあるのです。 (3)エージェント管理: 在宅勤務を嫌がる理由として、上司にとって部下の管理がしづらい、という声が多く聞かれます。しかし、電話とメールくらいしか通信手段がなかった頃ならまだしも、チャット、SNS、Web会議、LINEなど、さまざまな「コミュニケーションツール」が存在する今となっては、 これも言い訳の域を出ないでしょう。目の届く範囲、声の聞こえる範囲に部下を集めて、“ながらコミュニケーション”に頼ってきた管理者には、コミュニケーションを「意図して」「計画的に」「積極的に」おこなうよう努めることが必要です。 また、部下の「モチベーション」や「孤独感」に対するケアも重要です。業務上のパフォーマンスについては、クラウドサービスから出力されるパフォーマンスレポートやダッシュボードを活用することができます。 (4) 執務環境: 在宅勤務を行うためには、自宅における「ワークスペース」の確保、必要な「IT機器やツール」の装備、そして「育児や介護」への配慮などが求められます。日本の住宅事情から、特に電話応対業務が困難なケースが少なくありません。その場合、自宅から徒歩や自転車で通える範囲に「サテライトオフィス」(シェアオフィスやホテルのデイユースの利用)を設けて、エージェントが無理なく業務ができる環境を提供するという方法もあります。 ノートPC、Wi-Fiルーター、ヘッドセット、電話をルーティングするためのモバイル端末などの提供は必須です。健康管理のためには外付けのディスプレイ、ワイヤレスのマウスやキーボードなども有効です。 育児や介護は、業務の妨げと考えるのでなく、両立できるよう配慮します。その結果、スケジューリングの柔軟性やエージェントのモチベーション向上をもたらすことも期待できます。 (5)現状維持バイアス: ここでいう現状維持バイアスとは、コロナ禍収束後は“元に戻る”ことを前提に、在宅勤務化から目を背けるコンタクトセンター長やマネージャーの態度のことです。ひとつでも“できない理由(言い訳)”があれば、在宅勤務を全否定する、まさに思考停止状態にあると言えます。このような管理者の存在が、在宅勤務化を妨げる最大の要因と言えるかもしれません。 ◆ “ツールや仕組みがない”という言い訳は、もはや通用しない これら5つの課題を通して言えることは、具体的なツールや技術については、すべて解決済であるということです。しかもそのほとんどが、従来よりもはるかに簡単、迅速、安価に導入できるので、“ツールや仕組みがない”という言い訳は、もはや通用しません。 また、運用上のノウハウについても、今回のコロナ禍の経験で、世界中のコンタクトセンターから膨大な知見が寄せられました。“やり方がわからない”という言い訳も通用しないということです。 コロナ禍による緊急時対策としてスタートした在宅勤務ですが、もはや緊急時対策を超えて、コンタクトセンターの新しい在り方、すなわち「New Normal」として確立していくのは確実です。 ツールもノウハウも整った今こそ、在宅勤務を核とした新しいコンタクトセンターの構築にリーダーシップを発揮することが、今後のコンタクトセンター長に課せられた最大のミッションと言えるでしょう。
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
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日本のコンタクトセンターは、ここ20年の間に、コンピューター2000年問題(1999~2000年)、H1N1新型インフルエンザ(2009年)、東日本大震災(2011年)と、3つの大きな災害に見舞われました。その経験から、BCP(業務継続計画)やDRP(災害復旧計画)の策定、複数拠点化などの備えを施してきました。 ところが、今回の新型コロナウイルスのパンデミック(以下コロナ禍)には、それらの経験や備えがほとんど役に立ちませんでした。 しかし、幸いなことに、この間のクラウドやモバイルといったテクノロジーの進化が、私たちに「在宅勤務」という切り札を与えてくれました。 さらに、在宅勤務には、コロナ禍という緊急時対策だけでなく、ここ数年、コンタクトセンターの成長の足かせとなってきた諸問題を一掃し、今後の進化を加速させる大きな可能性があることもわかってきたのです。 この記事では、そんなコンタクトセンターの在宅勤務化がもたらす可能性を探り、その構築のポイントについて2回に分けて解説します。 ◆ コロナ禍で一気に現実化したコンタクトセンターの在宅勤務 在宅勤務は、コンタクトセンターにとって20年来の課題でしたが、その優先順位は低く、最近になって「働き方改革」の一つのオプションとして話題になる程度に過ぎませんでした。 それが、今回のコロナ禍によって、突然、しかも半ば強制的にその実現を迫られることとなったのです。なぜなら、典型的な「3密職場」であるコンタクトセンターにとって、感染症対策の最大の目的である「健康と安全」を確保して業務を継続するには、在宅勤務以外の選択肢がないからです。 そのため、多くのコンタクトセンターが続々と在宅勤務を進めていますが、統計上、日本の現状の実施率は30%程度(顧客サービス関連職種の場合)に留まっており、70%を超える欧米諸国には遠く及びません。また、すでに在宅勤務を実施しているコンタクトセンターのうち、コロナ禍収束後もその継続を明言するのは、欧米諸国の70%超に対して、日本では10%にも満たないと見られているのは興味深いところです(注)。 注:在宅勤務の実施状況に関する統計は、調査によって結果のバラツキが激しいため、政府、地方自治体、日本テレワーク協会、パーソル総合研究所等の報道資料から筆者が推計した。 このことから言えるのは、日本企業のコンタクトセンターにとって、在宅勤務は、あくまでもコロナ禍対策という一過性のイベントに過ぎず、それが収束すれば“元に戻る”ことを前提としているということです。それは、コロナ禍期間中の国内コンタクトセンター関連業界の話題が「3密対策」に終始していることからもうかがわれます。 しかし、次項で述べるように、在宅勤務には、コロナ禍対策だけに留まらない多くのメリットがあり、だからこそ諸外国のコンタクトセンターは、一斉に在宅勤務の恒常化に舵を切ったのです。もはや彼らの関心は、単なる緊急時対策から、在宅化によるコンタクトセンターの変革と新たな成長へと移っているのです。 日本のコンタクトセンターも、この機会をみすみす逃して良いはずがありません。次項で述べる数々のメリットを確認して、ぜひ、在宅勤務を核とした新しいコンタクトセンター作りを進めてください。 ◆ 在宅勤務化がもたらす、これだけのメリット まさに“ぶっつけ本番”で始まった在宅勤務ですが、その壮大な実験が、以下に示す数々のメリットを気付かせてくれるきっかけとなりました。 (1)緊急時対策: 在宅勤務は、コロナ禍以前のBCP(業務継続計画)やDRP(災害復旧計画)で策定したどんな施策よりも、業務の継続性における最も高い効果が期待できます。どんなタイプの災害にも有効であり、在宅勤務化を図ること自体がBCP/DRPだと言っても過言ではありません。 (2)人的リソースの拡大: 地理的な制約がなくなることで、優れた人財を世界中から確保することができます。家族の転勤や育児・介護、通勤苦による離職が減り、仕事を辞めずに好みのリゾート地に移住することもできます。求職者が増加する一方、離職率は減少し、人手不足の解消につながります。広範な地域に人財を確保していれば、不測の業務量変動に柔軟に対応でき、緊急時対策もより強化できます。 (3)スケジューリングの「超」柔軟性: 通勤する必要がないことで、「スプリットシフト」(朝と夕方など1日の中で勤務時間を分割)、「フレックスシフト」(特定期間における合計勤務時間の範囲内で、1日の勤務時間の長短を変動)などが可能になります。突発的なスケジュールの変更や残業の要請に対応しやすくなり、始終業時間や休憩時間、ランチタイムも柔軟に運用できます。これらの効果で、エージェントのスケジューリングの効率性が格段に向上し、リソースの利用効率も上がるので人件費の削減にも寄与します。時間や場所の制約を受けない多様な働き方の実現は、まさに「働き方改革」を体現するものと言えるでしょう。 (4)ワークライフバランス/ウェルビーイングの向上: 特に都市部のセンターの勤務者にとって、通勤苦からの解放はあらゆる面において多大な効果をもたらします。柔軟なスケジューリングは、従業員のプライベートや育児・介護などと仕事の両立がしやすくなります。ストレスの軽減や病欠の減少にもつながり、心身両面における生活の質の向上が図られます。 (5)顧客サービスの向上: 柔軟なスケジューリングや人財リソースの拡大により、コンタクトセンターの営業時間の拡大が可能となります。地域や時間を問わず優れた人財を確保していれば、優秀なエージェントが間断なく顧客応対することができるようになり、サービス品質の向上が期待できます。 (6)生産性向上: 例えば、2013年の米スタンフォード大学の調査によれば、在宅エージェントの生産性が13%向上したことが報告されました。これは、病欠と休憩時間が減少(9%)し、その分、時間あたりの応答数が増加(4%)したことによります。このように欧米のコンタクトセンターにおける多くの調査では、総じて在宅勤務による生産性向上効果が報告されていますが、日本の場合は、逆のケースが少なくないのも事実です。これは、集中困難な居住環境や、在宅勤務に対するネガティブな報道の多さなどが影響していると言えそうです。 (7)コスト削減: オフィススペースの縮小による不動産コストの削減は、在宅勤務による最も短期的かつ具体的に表れる効果です。オフィス賃料をはじめ、家具、什器、備品、保険、管理費、通勤費、住宅費、社宅費などの節減が期待できます。例えば東京23区における一人あたりの月間の平均賃料は7万円前後であることから、単純に言えば、50名のセンターの半数が在宅勤務化すれば、不動産コストだけで年間2,100万円の節減となります。この他、オンプレミスのシステムのクラウド化、人的リソースの利用効率向上などもITコストや人件費などの削減に寄与します。 (8)環境負荷の軽減: 道路混雑の緩和などを通じて二酸化炭素の排出削減などに貢献します。NASAの衛星データによると、今年3月の二酸化窒素による大気汚染レベルが、2019年3月に比べて30%減となったことが報告されています。また、通勤しないことで、新型コロナウイルスの感染拡大防止に貢献することは言うまでもありません。 以上8点がコンタクトセンターを在宅勤務化するメリットですが、実際に在宅勤務化を進めるに当たっては、いくつかのポイントに注意する必要があります。次回は、在宅勤務化の課題と構築のポイントについて紹介します。
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
日本中の企業が人手不足に苦しんでいます。コンタクトセンターのそれは特に深刻です。 「コールセンター実態調査2019」(リックテレコム)によると、調査対象企業の半数以上(51%)が、スタッフの採用や定着率など人材確保に関する事項を、“最も深刻な運営上の課題”として挙げています。 労働集約型ビジネスの代表格であるコンタクトセンターだからこそ、そんな時代の大波をもろに受けて・・・と言いたいところですが、このような事態に陥ったのは、それだけが原因ではありません。 なぜなら、人手不足がメディアを賑わすようになる数年前から、コンタクトセンターの雇用環境は、採用難や離職率の高さなど、すでに悪化の一途をたどり始めていたからです。 本稿では、その原因を明らかにし、コンタクトセンターが成すべき課題や対策について考えます。 なお、マネージャー、スーパーバイザー、トレーナー、ビジネスコントローラーなど、コンタクトセンターの管理・支援スタッフも一様に人手不足の状況にありますが、話がややこしくなるので、ここではエージェントに絞って話を進めます。 ◆ エージェントがコンタクトセンターを選択する条件 エージェントが「働く場所」としてのコンタクトセンターを選択するときに求めるのは、「働きがい」と「働きやすさ」です。 具体的には、表1に示すように、就職時の視点として「賃金」「雇用形態」「イメージ」、継続時の視点として「スケジュール」「報酬」「トレーニング」が重要な選択条件であることが、さまざまな調査などからわかっています。 これらに関するエージェント側のニーズと、コンタクトセンター側の取り組みがマッチしなければ、エージェントはそのコンタクトセンターを選択しないことになります。 ◆ コンタクトセンターが人手不足に陥った本当の理由 コンタクトセンターの雇用環境が、“時代に先駆けて”悪化した本質的な理由は、以下の3点にあります。 1つ目が「『基本』をおろそかにしたプアなマネジメント」です。 国内のコンタクトセンターのマネジメントは、その大多数が「自己流」「勘と経験」でおこなわれています。 そのため、やり方が間違っている、やっていることの質が低い、そもそもやるべきことをやっていない、といったことが起こります。そんなことでは、表1の選択条件に応えることは困難でしょう。 2つ目が「エージェントを『コスト』扱い」することです。 すべてのコンタクトセンター長は、異口同音に、“エージェントは「人財」だ”と言います。しかし、その言葉通りにエージェントをケアし、マネジメントしているでしょうか。残念ながら、ほとんどの場合、最終的な判断は、目先の金銭的な「コスト」のみでなされるのが現実です。 しかも、「適正なコスト」を求めるのならまだしも、その判断基準は「いかに安いか」「いかに減らすか」の一辺倒です。これでは、「雇用は非正規」「時給は安く」「ケアは必要最小限」とならざるを得ないでしょう。 3つ目が「コンタクトセンターに対する『ブラック・イメージ』」です。 全国に先駆けて10年近く前から雇用環境の悪化が始まった沖縄県では、教師や親御さんから、合言葉のように“コンタクトセンターだけはやめておけ”と言われるようになってしまいました。プアなマネジメントやエージェントのコスト扱いが、結果として、就職先としてのコンタクトセンターに対するブラックなイメージを植え付けてしまったのです。 一方で、表1の選択条件にマッチする質の高いマネジメントをする一部のコンタクトセンターには、応募者が集中するという状況が見られました。 今、日本では、人手不足が大きく騒がれていますが、人がいないわけではありません。労働力人口は過去最大を更新し続けている上に、一般事務系職種は、深刻な人余り状態にあります。デジタルトランスフォーメーションによる省力化が、「人減らし」「人いらず」を進めているからです。 にもかかわらず、「低賃金」「非正規」「ブラック」のイメージが、人手不足で困っているコンタクトセンターを始めとする現場・サービス系職種への人の流入を阻んでいるということです。 ◆ まずは、正しいやり方で「基本」の徹底に努める ここからは、上述の内容を踏まえ、コンタクトセンターが成すべき課題や対策について見ていきます。 まず何よりも、「自己流」「勘と経験」という旧態依然たるスタイルから脱却し、世界標準のコンタクトセンター・マネジメントの「基本」を学び、その実践に努めることが必要です。 この場で、コンタクトセンター・マネジメントの「基本」のすべてを語ることはできませんが、人手不足対策として特に重要な、「リソース・プランニング」「スケジューリング」「エージェント・エンゲージメント」の3つについて、それぞれ具体例を挙げて考察します。 ◆ リソース・プランニング リソース・プランニングは、コールセンターのすべての活動の起点となる仕事です。「業務量の予測」と「エージェント数の算出」、「シュリンケージ」、「応答率」と「稼働率」について順に説明します。 (1)「業務量の正確な予測」と「最適なエージェント数」の算出 驚くべきは、「業務量の正確な予測」と「最適なエージェント数の算出」を“きちんと”やっていないコンタクトセンターが圧倒的多数派であることです。重要なのは、世界標準の科学的な手法を使って「正確」で「最適」であることですが、それができていないのです。仕事の量や必要な人数が曖昧なのですから、人手不足や人余りになるのも当然だと言えます。 業務量の予測は、現在のところ世界中のコンタクトセンターに最も使われている「時系列分析」モデルを使用します。 エージェント数の算出には、「アーランC式」(インバウンドコールやライブチャットの場合)、「ワークロード人数算出式」(メールやFAXの場合)、「DPH方式」(アウトバウンドコールの場合)といった世界標準の算出モデルを用います。 (2)「シュリンケージ」を考慮しないとオペレーションは回らない エージェント数の算出や組織の編成を、「シュリンケージ」の要素を欠いておこなうコンタクトセンターが多く存在します。 エージェントは、“本業”である顧客応対のほかに、トレーニング、ミーティング、休暇などに多くの時間(その時間を「シュリンケージ」と「呼びます)を費やしているため、それを加味して人数編成をしないと、現場のオペレーションが回りません。 一般に、エージェントの勤務時間の25~35%がシュリンケージであり、最近では、「働き方改革」の影響で勤務時間が減る一方、有給休暇の取得が推進されるなどして、シュリンケージの割合が増加傾向にあります。 エージェント数の算出に、これを加味しないということは、スタート時点から人数不足の状態であることを意味します。 (3)「応答率」「稼働率」信仰から脱却する コンタクトセンターの“在り方”を決める根本指標は「サービスレベル」です。なぜなら、「アーランC式」によるエージェント数の計算をはじめ、コンタクトセンターのすべての活動において、提供するサービスや、必要なリソースの質や量を決める役割を担っているからです。 ところが、圧倒的多数のコンタクトセンターが、諸外国にはその概念すらない「応答率」を、根拠なく最も重要な指標としています。まさに、国内コンタクトセンターが“ガラパゴス状態”であることを象徴する事象です。 また、「稼働率」も大変な人気ですが、ホテルやエアラインの客室稼働率などと混同して、「稼働率は高ければ高いほど良い」と誤解しているコンタクトセンターが大変多いのも困りものです。 「稼働率」が上がると、サービスレベルや放棄率など、すべてのサービス指標が悪化します。エージェントはトイレに行く暇もなく受電に追われ、疲弊して燃え尽き、ついには退職に至ってしまいます。コンタクトセンターが自らブラック化を推進しているようなものです。 ◆ スケジューリング エージェントの「勤務スケジュール」は、職場としてのコンタクトセンターを選択する上で、最近では報酬と同等、あるいはそれ以上に重要な条件となっています。たとえば、「自分のライフスタイルに合わせて勤務時間を選択できる」「ストレスなく休日休暇を確実に取得できる」「勤務シフトや休暇の変更が柔軟かつ簡単にできる」といった、「働きやすさ」に対するニーズは高まる一方です。 そのために欧米のコンタクトセンターでは、表2に示すような「スケジューリング・オプション」(スケジュールの柔軟性を高めるためのさまざまな選択肢)や、「エージェント・プリファランス」(エージェントの個人的なニーズをスケジュールに反映、また、エージェントがスケジュールの策定に参画)といった施策を実行し、エージェントの「働きがい」や「働きやすさ」の実現に工夫を凝らしています。 すでに、欧米の一部のコンタクトセンターでは、エージェントが自宅に居ながらにして、自分のスマホを使って勤務シフトの申請や変更、あるいは同僚とのシフトの交換をするまでになっています。 このように、管理者の専権事項であった「スケジューリング」は、管理者の手を離れ、エージェントが自ら策定・運用するようになるでしょう。そうしなければ、エージェントの支持を得られない=エージェントに選択されなくなってしまうからです。 日本企業がこれらの施策を講じるためには、コンタクトセンター独自の制度設計が必要です。しかし、旧態依然とした硬直的な労働慣行や、社内外の伝統的な諸制度、さらには、社内のパワーバランスを最優先する組織風土などが、その大きな妨げとなっています。 ◆ エージェント・エンゲージメント エージェントは、「エンゲージする」ことで、「働きがい」を感じるようになります。 エンゲージメントを日本語化するのは大変困難ですが、たとえば「組織に対して強い愛着を持ち、仕事に熱意を持っている状態」(米・ギャラップ社)などと定義されます。 エンゲージすることは、同時に「働きやすさ」の促進にもつながり、意欲と誇りを持ったエージェントが、ますます高い成果を挙げるようになります。 エンゲージしている状態を表す例えとして多く紹介されるのが、「サグラダファミリアの二人の石工」です。 旅行者が、サグラダファミリアの二人に石工に何をしているか尋ねると、一人は不機嫌な表情で「この忌々しい石を切ってるだけだ」とぼやき、もう一人は満足そうな表情で「世界一美しい大聖堂を造っています」と誇らしげに答えました。 コンタクトセンターのエージェントが、後者の石工のようにエンゲージするためには、「エンパワーメント」「モチベーション」「エンカレッジメント」「リコグニション」「リワード」「リテンション」といったキーワードに基づいたさまざまな施策を講じることで醸成されていきます。 紙幅の都合で、詳しい説明は省きますが、それぞれの関係性のイメージ(全体像)と上記の各キーワードの定義を図1に、具体的な施策例を表3に示します。 ◆ AIは人手不足を救えるか? AIで人手不足を打開するという発想を言い換えるならば、“どうせ人が集まらないなら、上記のような面倒なことでなく、いっそのことエージェントをAIに置き換えてしまえばいいじゃないか”というものです。 しかし、残念ながら、今のところその考えはSFの域を出るものではありません。確かに、一部の単純・定型・大量・反復作業を任せることはできても、エージェントの顧客応対を任せるレベルにはないからです。 現状のAIは、人の生産性を高めるためのパートナーとしての役割がメインであり、人手不足の解消をAIに委ねようとするのは、あまりに安易で無謀と言わざるを得ません。 今日のコンタクトセンターの人手不足は、コンタクトセンター・マネジメントの「基本」の欠如とコスト削減一辺倒の思考、および、それらが招くブラックイメージが引き起こしたものと考えられます。 人手不足の時代に都合よく責任転嫁したり、安易にAIにその解決策を求めるのでなく、エージェントのニーズに応えるべく、コンタクトセンター・マネジメントの「基本」をしっかり実践することが必要です。
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
AIがコンタクトセンターの進化の切り札として大きく期待されています。 しかし、具体論になると、どこか曖昧で、用語の定義も明確ではありません。そのため、AIという言葉が独り歩きして都合よく使われ、過剰な期待を煽られたり、“仕事が奪われる”と脅されるなど、さまざまな混乱を招いています。そのような状況が、AIを“バズワード”と言わしめているのでしょう。 本稿では、コンタクトセンターの現場の視点に立った、AIに対する捉え方や考え方を解説します。 ◆ AIという製品はどこにもない かつてITが一般化し始めたころ、コンピューターに無頓着な社長が情報システム部長を呼びつけて、「最近流行ってるITとやらを、うちも入れたらどうだ」と指示する“笑えない笑い話”が話題になりました。 AIについても、「AIが人間と同じように仕事をしてくれる」「AIを導入すれば、すぐにでも“すごいこと”ができる」など、上記の社長と同様の無知や誤解が多く見られます。 これをコンタクトセンターにあてはめると、「AIがエージェントに成り代わって顧客応対をしてくれる」「エージェントをAIに置き換えて人員と予算の削減を図ろう」という発想になり、さらには「AIは採用難を解消する切り札だ」などと、AIの技術とは直接無関係なことにまで、都合良くこじつけられることになるのです。 そもそもAIとは、研究の分野や概念を表す言葉であり、AIと呼ばれる単一の製品が存在するわけではありません。クルマに例えると、AIはエンジンを開発するための技術や設計思想に相当しますが、ドライバーが購入し利用するのは完成車としての製品であり、エンジン、ましてやその技術を購入するわけではありません。 コンタクトセンターの現場で実際に使用するのは、自然言語処理やディープラーニングといったAI関連の技術を使って、コンタクトセンターの特定の目的のために開発されたシステムやソフトウエアのことです。AIに対して過剰な期待を抱いている経営者やコンタクトセンターの管理者は、まずはAIがどういうものなのか、正しい認識を持つべきでしょう。 ◆ エージェントをAIに置き換えることはできない もしAIを搭載したロボットが、鉄腕アトムのように人間と同様の顧客応対をしてくれるのなら、コンタクトセンターの最前線の現場からエージェントの姿が見られなくなることでしょう。 しかし、今のところそれはまだ、SFの世界の域を出ていません。 なぜなら、現状の実用レベルにあるAIは、過去のデータから、その傾向や特徴を見出したり、大量の単純、定型、反復業務を処理することに長けているものの、人間が、文脈、行間、意図、創造、真意、感情といった要素を駆使しておこなうコミュニケーションができるレベルには至っていないからです。 したがって、コンタクトセンターのエージェントの顧客応対をAI(正確にはAIの技術を搭載した製品)に置き換えるという考えは、現時点ではあまりに安易で無謀と言わざるを得ません。 誤解を避けるために、もう少し正確に申し上げるならば、エージェントの顧客応対をそっくり置き換えることは不可能ですが、発話認識や声紋認証、自然言語処理など、AIの技術により、特定の限られた種類の問い合わせにシステムが応答するサービスは、すでに実用化されています。 例えば、証券会社の株価照会、銀行の残高照会、通信販売の価格照会、交通機関の運行状況照会などにバーチャルエージェントが自動音声で応えたり、資料請求を自動音声で受け付けたり、ECなどWebサイトのFAQの検索をチャットボットがアシストするといったことは、すでに読者の皆さんの多くも経験なさっていることでしょう。 このように、顧客の用件が単純、定型、反復的であり、それに対する正解があるカスタマーサポート系の問い合わせであれば、人間が介在することなく処理できるものがあるということになります。 それに対して、必ずしも正解があるとは限らない顧客のさまざまな要求に対して、会話によるコミュニケーションを通じて本質的、潜在的な問題や事象を解き明かしながら顧客のニーズに応えていくといった、カスタマーサービス系の問い合わせをAIに担わせることはできないということです。 ◆ コンタクトセンターでAIを有効活用するには コンタクトセンターのAIブームは、すでに6~7年を経過しようとしており、国内ではますます過熱する勢いを見せています。AIと名が付けば、手放しで「コンタクトセンターのパフォーマンスを劇的に向上させる“夢のシステム”」として評価してしまう空気感には、かつてのCRMブーム(注)の二の舞を危惧させるほどです。 注: 1990年台の終わりから2000年代の初めにかけて、世界的なCRMの大ブームが起こりました。本来は企業全体の顧客戦略のはずでしたが、その本質が理解されないまま、マーケティングやコンタクトセンターのツールの一部のような捉え方をされ、競って導入したものの、よくわからないまま放置され、大半が無駄な投資となったという苦い経験をしています。結局、コンタクトセンターの問い合わせ管理システムとしてCRMという名称だけは残りましたが・・・。 一方、欧米では、すでにAIに対する幻滅期を迎え、AIに対する捉え方が、「何でもしてくれる“万能の神”」から「パフォーマンスの向上を加速する“高性能のエンジン”」へと変化し、製品の選択、使い方、投資効果などを冷静に考えるようになっています。 AIをバズワードのまま消滅させることなく、真にコンタクトセンターのパフォーマンス向上に役立たせるためには、以下の6点の考え方や実践が必要です。 (1)置き換えるのでなく使い分ける: AIは人間がすることを何でもやってくれる万能の神ではありません。現時点で顧客応対においてAIができるのは、正解のあるシンプルな問い合わせに限られます。したがって、「エージェントをAIに置き換える」のでなく、「エージェントとAIを使い分ける」と考えてください。 (2)エージェントの背後でアシストする: AIをエージェントの背後に配置して、顧客応対のアシスト役を担わせます。エージェントが顧客とコミュニケーションするために必要な業務知識、商品知識、ビジネスプロセス、トランザクションの処理、情報の検索などは、まさにAIの得意技であり、これをAIが担うことで、エージェントの顧客応対の質や生産性を格段に向上させることが期待できます。 (3)強制や誘導をせず選択肢を提供する: AIとエージェントをうまく利用することで、これまでよりも正確で迅速な顧客応対が期待できます。その結果、顧客にとっては迅速性や簡便性が増し(優れた顧客体験の提供ということですね)、顧客満足の向上につながります。 だからといって、チャットボットなどAIによる応対の強制や誘導をすると、顧客の不興を買い、多くの顧客を失うことにもなります。誰もがAIによる応対を好むわけではないからです。強制や誘導でなく、顧客に選択肢を提供するように設計すべきです。 (4)投資なくして成功は得られない: エージェントが担っていた単純・定型・反復型の問い合わせをAIに任せたり、エージェントの顧客応対をAIにアシストさせることで、人件費の削減が期待できるでしょう。しかし、そのためには多くの投資も不可欠であることを認識する必要があります。 AIは導入すれば、すぐに“すごいこと”をしてくれるわけではありません。AIに目論見通りの効果を発揮させるためには、AIを“育てる”必要があります。そのためには高度な知識と経験を有する優秀なエンジニアが必要です。もちろん、AIの導入投資も必要です。 また、エージェントを単純作業から解放するということは、言い換えれば、これまでより高度で難解な顧客応対に集中するということです。そのためには、優秀なエージェントの確保や、既存のエージェントのトレーニングや人材開発投資に手を抜くわけにはいきません。人材の質、業務の質が高まるわけですから、給与水準の引き上げも必要になるでしょう。 これらを考えあわせた上で、いわゆる投資効果をしっかりと見極める必要があります。 (5)洗練されたマネジメント/オペレーションの構築が大前提: 導入時点でのAIは、人間で言えば赤ちゃんのようなものです。そんなAIに自社のすべての情報やビジネスプロセスを教え込んで、一人前に育てていく必要があります。しかし、その教え方や教える素材の質が悪ければ、いくらAIといえども、優れた効果を発揮することができないし、必要以上に時間もかかります。 AIは、旧態依然とした質の低い業務を整理整頓してくれるわけではありません。勘と経験による自己流のオペレーションの状態のままで、AIを導入しても役に立たないということです。 AIを導入するからには、マネジメントやオペレーションの洗練化が大前提となるのです。 (6)AIは仕事を奪うのでなくパートナー: AIを手放しに崇める一方、エージェントの仕事がAIに奪われることを恐れる議論も少なくありません。これもまさに、「AIが人間のすることを何でもする」という幻想から生じる発想です。 AIがエージェントの仕事を奪うのでなく、「わざわざ人間がしなくても良い作業をAIにやらせる」「その分、人間は、より高度で生産的、創造的な仕事に集中する」というのが本質です。AIと敵対するのでなく、AIは人間のパートナーと考えるべきなのです。 もちろん、単純作業から解放されて生まれた時間をどう使い、働き方をどのように変えていくかが重要なことは言うまでもありません。 ◆ AIを使って顧客応対の現場でできそうなこと AIの技術がコンタクトセンターで果たす役割には多くのものがありますが、ここでは本稿のテーマである顧客応対の現場において実現できそうなものに絞り、そのおもな例を下表にまとめたので、参考にしてください。もちろんこれは一部に過ぎないこと、また、製品レベルのものと概念レベルのものが混在していることはご容赦ください。
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
連日のようにどこかで火の手が上がるSNS。最近では、企業に対する苦情の発信場所としても気軽に使われるようになってきました。 企業の顧客対応、特に苦情対応のまずさが、いとも簡単にSNSで公表され、炎上に発展するリスクが増大しています。 そんな事態を招かないために、顧客接点の最前線であるコールセンターは、どのように考え、対処すべきなのかを考察します。 ◆ 苦情の通報窓口化が進むSNS これまで、顧客が企業に対する苦情を訴えるのは、苦情を抱いた顧客の40%に過ぎませんでした(米TARP社等の調査による)。SNSがない時代、コールセンターに電話をかけたり手紙を書くのは面倒ですから。 しかし、SNSの登場によって、その状況が一変しました。 残りの60%の顧客が、SNSという24時間いつでも気軽に手間なく訴えられる手段を手に入れたことで、今までなら黙って済んでいた“ちょっとした”苦情をどんどん発信するようになったのです。 しかも、クチコミなら10~16人程度で済んでいたものが、SNSでは瞬時に世界中に拡散されてしまいます。具体的な被害や問題の解決が必要というわけではなく、気に入らないとか不愉快といった不平不満を、当事者である企業に対してではなく、わざわざ世界中の見知らぬ人たちに喧伝するのです。 それに同調した人たちが次々と参戦し、ついには「炎上」を招くこととなります。 まさに、SNSが、企業に対する苦情の「一般大衆向け通報窓口」化しているのです。 ◆ 炎上を呼ばない苦情対応? 今やSNSの炎上は、企業の重大なリスク要因となっています。 とりわけコールセンターは、顧客との接点が最も多く、炎上の火種となる可能性が高いので、苦情対応には特に神経をとがらせます。失敗すれば、炎上のリスクが一気に高まるからです。 では、炎上を呼ばないための苦情対応にはどんな方法があるのでしょうか。 残念ながら、そのようなものはありません。 顧客応対を「炎上防止」という切り口で分けることなどできないし、「炎上を呼ぶ顧客」という属性でくくることもできないからです。 この考え方は、日本のコールセンターに昨今大流行の「シニア(高齢者)対応」と同様に、なんでも属性で分類したがる日本企業の悪い癖といえます。「高齢者=コミュニケーションが難しい顧客」と十把一からげにして応対することは、ナンセンス以外の何物でもありません。 では、どうすればよいのでしょうか。 炎上したくなければSNSに投稿されなければ良いのです。 SNSの投稿を防ぐためには、そもそも苦情対応が失敗しなければよいのです。 つまり、小手先のテクニックに頼るのでなく、常日頃から「やるべきことをしっかりやる」ということです。 苦情を含む顧客応対の基本をきっちり行って、顧客に不平不満を与えなければよいのです。 ◆ なぜSNSに投稿されてしまうのか SNSに投稿される苦情には、共通の傾向があります。 下の図に示すように、苦情のタイプが「気に入らない」「納得できない」「不愉快」といった感情的なものであり、それをSNSに晒し拡散させることで第三者の共感を得ようとする場合に、SNSへ投稿されます。 一方、請求書の金額相違、請求した書類が届かない、製品の不具合といった具体的な問題であれば、その解決や改善が目的となるため、当事者である企業(コールセンター)に直接訴えることになります。 ただし、顧客がそこでの対応に感情的な不満を持つと、たとえ問題自体は解決したとしても、抱いた不満の解消のためにSNSに投稿することとなります。 また、感情的な苦情には、その前のプロセスやエージェントの応対が引き金となり、“普通の”問い合わせを、途中から苦情に変質させてしまうパターンが多いことも知っておく必要があります。下記はその典型例です。 請求書の金額相違 ⇒ 訂正依頼のためにコールセンターに電話をかける ⇒ 5分待たされてエージェントが応答 ⇒ 5分も待たせたことへの気遣いがない ⇒ 金額相違に対する共感や謝罪がない ⇒ 「担当者のミス」「担当者に訂正させる」と他人事のように事務的な応対 ⇒ 顧客の怒りが爆発 確かに問い合わせの目的は達せられたものの、5分待たされたイライラ感に、エージェントの他人事で事務的な態度が重なって顧客の怒りを招き、通話後にSNSへ“通報”されてしまったのです。 ◆ SNSに投稿されたら取るべき7つのアクション SNSへの投稿には、感情的な要素が多いこと、また、愉快犯的、意図的な行為も少なくないことから、完全に防ぐのは不可能です。 もし投稿されてしまった場合、炎上を防ぐために取るべき7つのアクションを以下に示します。 (1)SNSリテラシーが高いエージェントが担当する: 英Call Centre Helper社等の調査によると、約80%の企業で、SNSの顧客オペレーションをマーケティング部門が担っています。プロモーション系の投稿の対応ならまだしも、顧客サービス系の投稿は訓練されたコールセンターのエージェントが担うべきです。ただし、担当するエージェントは、SNSリテラシーが高いことが必須です。 (2)苦情の投稿を無視したり、削除しない: 欧米の約1,000のWebサイトに対する調査によると、20%近い企業が、自社に不都合な投稿に反応しないことが明らかになっています。その内容が苦情の場合、炎上化する可能性が一気に高まります。それ以前に、都合の悪い情報を無視、削除、隠蔽するという行為は、もってのほかであることは言うまでもありません。 (3)とにかく共感する: 顧客への「共感」を怠ると、必ずと言ってよいほど感情的な不平不満を引き起こします。ところが、問い合わせを「処理」することしか教えない、多くの日本企業のコールセンターは、これが最も苦手です。「私はあなたの話を聞いていますよ」を、最初に顧客にしっかり伝えられるか否かで、その応対の成否が決まります。 (4)しっかり謝罪する: これも「共感」のひとつです。ところが日本には、「自社の過ちを認めることになるから、顧客に安易に謝るべきでない」という根拠のない企業文化が根付いているため、「謝る」ことが極めて苦手です(エージェントは皆、心から謝りたいと思っているのですが・・・)。「共感」することは「同意」することではありません。多くの企業は両者を混同しているのです。 (5)迅速にオペレーションする: SNSは時間との闘いです。大規模な拡散に至らないよう、とにかく迅速に反応することが重要です。そのために、「苦情が投稿されたら30分以内にアクションする」といったSNSの「レスポンスタイム目標」(RTO)を定めます。 (6)誠実に品位を持って応対する: SNSへの投稿は、さまざまな意図、表現をもって行われます。また、メディアの特性(匿名、短文)から、カジュアルな(時には品位に欠けた)コミュニケーションも少なくありません。しかし、それに安易に付き合って、企業の品格や姿勢を損なうべきではありません。苦情対応の場合は、なおさら“上品な”コミュニケーション(文章表記など)に努めてください。文字数制限でそれが難しい場合は、顧客へのダイレクトメッセージで、メールや電話など、他のチャネルへの切り替えを依頼することも必要です。 (7)パトロール・プロセスを構築する: 顧客の投稿に確実・迅速に反応するためには、SNSの常時モニタリングが不可欠です。そのためのリソースの確保やツールの導入などが必要となりますが、顧客サービスの追加コストではなく、企業のブランド価値を守るための全社的なリスクマネジメント投資と位置付けて、SNSのパトロール・プロセスを構築することが必要です。 もちろん、この7つのアクションですべての炎上が防げるわけではありません。しかし、ボヤのような騒ぎは鎮められるはずです。小さな火種を小さなまま消火することが、大炎上を避けるための第一歩といえるでしょう。
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
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熊澤 伸宏
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