これまで3回にわたり、ライブチャット運営の勘どころについて述べてきました。 今回は、まだまだ誤解の多いライブチャットの運営を“正しく”おこなうために、必ず理解しておきたい鉄則を5つにまとめてシリーズの締めくくりとします。 鉄則その1――ライブチャットは電話を減らすためのものではない 多くのコールセンターが、ライブチャットの導入により“電話を減らす” ことを目的としています。 電話による問い合わせをライブチャットに置き換える ⇒ 電話のエージェント数を減らす ⇒ コストを削減する という理屈なのでしょうが、これが誤りの第一歩です。 ライブチャットを導入する本当の目的は、新たな顧客層を獲得することです。 新たな顧客層とは、「ミレニアル世代」「デジタルネイティブ」などと呼ばれる若年層のことです。 彼らは電話やメールよりもライブチャットを好みます。その方が簡単で早く済むからです。 新しい顧客を増やすわけですから、顧客とのコンタクトは減るどころか増えるのです。 つまり、これまで電話やメールをメインに使ってきたコールセンターがライブチャットを導入することで、彼らとのコンタクトの機会を増やすことができるのです。その結果、セールスの拡大やサービスの強化につながります。 これがライブチャット導入の本質です。 ちなみに、“チャットの導入で電話が減った”という話を耳にします。 それは、企業の側が、顧客に電話よりもチャットを使うよう誘導、あるいは強制するからです。 顧客に選択肢を与えずに、“チャットが支持された”“チャットが電話の代替を果たしている”などと評価するのは、あまりに滑稽と言わざるを得ません。 鉄則その2――むしろ電話よりも高い “チャットは同時セッションができるからエージェント数を減らせることができ、その分人件費が安く済む”と言われますが、それはカスタマーサポート系の一部に限った話であり、大半の、特にカスタマーサービス系のコールセンターには当てはまりません。 なぜなら、ライブチャットの平均処理時間(AHT)は、電話よりも長くなるからです。 ただでさえ電話よりも長いのに、同時セッションにより、AHTはさらに長くなります。同時セッションが2件の場合、一般的にAHTは電話の2倍の長さになります。 単純に考えれば、同時セッションが2件でAHTが2倍ということは、結局のところ電話もライブチャットも必要なリソース(エージェント数や人件費)は変わらないことになります。 また、同時セッションが増えるとエラーが増すなどして、顧客満足が低下することもわかっています。 それをリカバーするための対策を講じる必要があり、そのための追加のコストが必要となります。 そのことも踏まえて、カスタマーサービス系のセンターでは同時セッションは最大2件まで、カスタマーサポート系のセンターでは3件までとするのが一般的です。 さらに、単純定型的な問い合わせが、電話からライブチャットへシフトすることにより、電話には高度で難解、あるいは時間のかかる問い合わせが集中するようになります。そのために、電話のエージェントのトレーニングやナレッジベースの強化、優秀な人材の確保など、新たな投資が必要になります。 これらを考え合わせると、ライブチャットの導入は、コストの増加圧力を高めると考えるべきです。 ※鉄則その2については、ライブチャットの運営シリーズ第2回「本当に電話はチャットより安いのか」も合わせてご覧ください。 鉄則その3――置き換えるのでなく使い分ける 電話/人/コストを減らすというのは、電話をライブチャットに“置き換える”という発想です。 が、それができるのは、“正解を回答する”ことを目的としたカスタマーサポート系の単純定型的な問い合わせに限られます。顧客と“コミュニケーションする”ことを目的としたカスタマーサービス系の問い合わせをライブチャットに置き換えるのは極めて困難です。 これは、両者のコミュニケーションツールとしての性格や使い方が異なることを意味します。それぞれを好む顧客層も異なります。タイプや顧客層が異なるのですから、両者を置き換えることはできないということです。 つまり、置き換えるのでなく、“使い分ける”と考えるべきなのです。 ライブチャットは、“正解を回答する”ことを目的としたカスタマーサポート系の単純定型的な問い合わせにフィットし、その手軽さやスピーディーさから若年層に好まれます。 電話は、“顧客とコミュニケーションする”ことを目的としたカスタマーサービス系の問い合わせに最適なのは言うまでもありません。 ただし、ライブチャットがカスタマーサービス系のコールセンターでまったく使えないというわけではありません。 メインのツールにはなり得ませんが、テキストや画像、URLの送信など、電話を補完するツールとしては大変有効に機能します。 鉄則その4――単純二択のポスト・チャット・サーベイで満足度は測れない ライブチャットの運営シリーズ第1回「ライブチャットの測定指標」で、ライブチャットのマネジメントに必要な24の指標を示しました。 そのうち経営レベルで最も重要と言えるのが、顧客満足度(C-SAT)でしょう。 おそらく、ライブチャットを利用する企業のほとんどが、C-SATを見ていると思われます。 というのは、ライブチャットは「ポスト・チャット・サーベイ」(問い合わせ完了後におこなうアンケート)が大変やりやすく、ほとんどすべてのライブチャット・アプリにその機能が備わっているからです。 そして、そのほとんどの結果が、満足度90%を優に上回っています。そのため、どの企業もその結果を喧伝することになります(どのサイトを見ても満足度が高いのはそのためです)。 そうなるのは、ライブチャット・アプリのアンケートは、そのほとんどが、Yes/Noの単純二択式だからです。 しかし、その方法で得られた回答をもって顧客満足度を評価するのは、あまりに乱暴です。 前述のようなライブチャットの性格などを考えれば、単純二択の設問で得られる回答は、用件が“完了したか、しなかったか”の結果に過ぎないと解釈すべきです。 さらに、ライブチャットの特徴として、不満足な顧客はライブチャットの応対が完了する前に離脱しており、ポスト・チャット・サーベイでは、不満足度が反映されないことも認識すべきです。 鉄則その5――ライブチャットはサービスレベル・コンタクト ライブチャットは「サービスレベル・コンタクト」(注1)です。 テキストによるコミュニケーションという見かけから、メールと同類とみなし、その運営、特にワークフォース・マネジメントをメールと同じく「レスポンスタイム・コンタクト」(注2)としておこなうセンターが大半と言ってよいほど、理解が不足しています。 それでも日本では、まだライブチャットのボリュームが少ないため、結果オーライの状況にありますが、今後のボリューム増を考えると、このままでは立ち行かなくなるのは火を見るより明らかです。 昨年おこなわれた米国のベンチマーク調査では、顧客によるチャット・リクエストの何と21%に企業からの応答がないという悲惨な状況が浮き彫りになりました。 実は日本でも、いくつかの大型センターで、“つながらないチャット窓口”が出現しています。 かつての電話と同じことを繰り返さないよう、サービスレベル・コンタクトによるマネジメントの理解と実践が急がれます。 ※サービスレベル・コンタクトによる要員数算出については、ライブチャットの運営シリーズ第3回「ライブチャットのエージェント数を算出する」 をご覧ください。
注1: ランダム着信、同期コミュニケーション、即時処理、待機時間の発生、処理の重なりが発生といった性格を持つコンタクトタイプのこと。ワークロード人数よりも多くの要員数が必要で、アーランC式により人数を算出する
注2: 非同期コミュニケーション、連続処理という性格を持ち、コールセンターによるコントロールが可能。ワークロード人数と要員数が等しい 熊澤伸宏(文/Vol.24)
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