去る5月29日、「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2019 in 大阪」の特別講演にて、『コールセンターのパフォーマンス評価 “8つの禁じ手”』というタイトルで話をしました。 講演のスライドは、こちら からご覧になるか、ダウンロードすることができます。 筆者は通常、講演のプレゼンテーションのスライドには細かな説明文を書きません。 そのため、今回の講演のスライドを読むだけでは誤解を生じる心配があるため、このコラムで補足の説明をすることにしました。 まず、8つのタイトルですが、これらはすべて“禁じ手”を書いています。 例えば、1. の場合、「サービスレベルを1日平均で評価してはいけない!」と言っているわけです。 決して、「1日平均で評価しよう」というわけではありませんので、くれぐれもご注意を。 それでは、以下、講演のスライドと合わせてお読みください。 1. サービスレベルを1日平均で評価 サービスレベルの本質は、すべての時間帯で目標を達成することにあります(注1)。 1日単位の平均値で評価すべきではありません。 スライドの事例のように、1日の単純平均では目標(80%以上)を達成していますが、大幅に目標を下回った午前中の惨憺たる実態が包み隠されてしまっているからです。 ただし、業績評価や経営レベルへの報告などを、時間帯別におこなうのは現実的ではありません。 そこで、1日以上の単位で実績を表す場合は、スライドの事例に示すように、「絶対値方式」による平均値を使います。 ただし、絶対値方式で目標達成するには、恒常的に安定稼働ができている成熟したセンターでなければ困難です。そうでない場合は、「加重平均方式」による実態に近い平均値を使ってください。 それぞれの計算式は次の通りです。 絶対値方式: 目標達成時間帯のコマ数÷全時間帯コマ数 ※スライドの事例:(6コマ÷9コマ)×100=67% 加重平均方式: コール数比率で重み付けしたサービスレベル実績の合計÷コール数比率の合計 ※スライドの事例:(((65%×0.201)+(70%×0.176)+・・・・・・+(90%×0.069)+(95%×0.066)) ÷(0.201+0.176+・・・・・・+0.069+0.066))×100=77% 2. ファンの声で顧客満足度を評価 世の中には、“おかげさまで顧客満足度ナンバーワンを獲得!”といった広告があふれています。 不思議なのは、同じ業界で競合企業である筈なのに、どの企業も“ナンバーワン”を叫んでいるケースが少なくないことです。 何故そんなことが起こるのでしょうか。 乱暴な言い方をするならば、顧客満足度の高評価を得るのは簡単だからです。 その“やり口”を二つ紹介しましょう。 ひとつは、いわゆる顧客満足度調査のアンケートの質問数を20も30も設けたり、回答形式をほとんど記述式にするなど、とにかく“面倒で時間がかかる”ようにすることです。 一見、顧客満足を重視する企業との印象を受けそうですが、こんな面倒なアンケートに“普通の人”がしっかり回答してくれるでしょうか。 もうひとつは、自社のファン(高度利用者や上得意客など)を対象に、個人あるいはフォーカスグループのインタビューをおこなうことです。 ある企業では、社長自ら顧客を訪問し、その意見を伺うという活動をおこないました。その社長曰く「すべての顧客が我が社のコールセンターを高く評価している」だから「我が社のセンターは質が高い」というものでした。ところが、そのセンターは、外部の調査機関から「根本から改善を要する」という最低レベルの評価を受けていたのです。社長に改善施策を提案しようとしていたセンター長は頭を抱えてしまいました。社長の直接訪問にどんな顧客をお膳立てしたのか――推して知るべしでしょう。 3. 単純二択のポスト・チャット・サーベイ ライブチャットの応対が完了すると、お約束のように、「私たちの対応に満足いただけましたか」と聞かれ、「満足」「不満足」の二者択一による回答を求められます。それがポスト・チャット・サーベイです。 その結果は、ほとんどすべてが、限りなく100%に近い満足度となります。 もし、あなたのセンターが90%を下回るようなら、極めて強い危機感を持ち、直ちにその原因を特定し、改善策を講じてください。 なぜなら、ポスト・チャット・サーベイには、100%近い満足度が得られるという以下のような必然性があるからです。
つまり、ポスト・チャット・サーベイを受けるタイミングでは、満足した顧客しか残っていないということです。 このことを踏まえて、単純二択のポスト・チャット・サーベイの結果をどう評価すべきか、どう扱うべきか、良く考えなければ、大きな勘違いをすることになるでしょう。 4. 稼働率は高いほど良い エージェントの稼働率を、ホテルの客室稼働率や飛行機の座席稼働率などと混同してはいけません。 ホテルや飛行機の稼働率は、高ければ高いほど良いのですが、エージェントの稼働率は、高ければ高いほど、顧客サービスやエージェントの心身の状態の悪化を招きます。 エージェントの稼働率が高いということは、具体的には次のような状態であることを表します。 コール数が増加する ⇒ エージェントが絶え間なく応答している ⇒ エージェントはトイレにも行けず、とにかく忙しい ⇒ 電話がつながりにくくなる ⇒ キューが溜まる ⇒ 平均応答時間が長くなる ⇒ サービスレベルが悪化する ⇒ 顧客はイライラする ⇒ 放棄が増える その結果、顧客の不満が高まり、多くの顧客を失うことになります。 また、エージェントは疲労困憊します。その状況が常態化すると、エージェントの不満が高まり、バーンアウト(燃え尽き)を招き、最後は会社を去ることになります。 稼働率を重要な生産性評価指標と決め付け、その高さを評価するようなセンター管理者には、即刻退場を勧告します。ブラック化を推進してるのと同じことですから。 稼働率は、エージェントの忙しさや心身の状況を測る目安に過ぎません。そもそも、稼働率の数値を見ないと、それがわからないこと自体が、センター管理者として失格ですね。 5. 応答率でつながりやすさを評価 日本企業のコールセンターのガラパゴス状態の象徴である応答率。 いまだに、それが最重要KPIであると盲信するセンターが圧倒的多数であることは、世界の常識からすると、あまりにも恥ずかしいと言わざるを得ません。 普通の人は、30分待たされた挙句につながったコールセンターのことを、“つながりやすい”とは評価しません。 でも、応答率は30分待たせても、最終的につながればOKなのです。 応答率とは、「つながったか、つながらなかったか」を示すに過ぎないからです。 「応答率が高い=つながりやすい」と考えている方は、今すぐにその考えをあらためてください。 繰り返しますが、応答率でつながりやすさはわかりません。 したがって、応答率で顧客満足や顧客経験(CX)のケアなんてできません。 「当社のセンターのKPIは応答率です。そして、今年の最重要課題はCXの向上です。」というあなたの発言が、まったくつじつまの合わない“なんちゃって宣言”であることを自覚してください。 それ以前に、そもそも応答率という概念は、世界のコールセンターセンター・マネジメントの常識には存在しないことを知ってください。 6. 現場の声は顧客の声 「現場の声は顧客の声を映す鏡だ」などと真面目に言うセンター管理者は、ほとんど現場のことを知らない人に違いありません。おそらく、日頃、オペレーションの現場を歩いたこともなければ、エージェントと本音の会話を交わしたこともない人でしょう。 現場(エージェント)の声は顧客の声ではありません。 確かに、エージェントは社内で最も顧客に近い存在ですが、顧客とのコンタクトから生じるさまざまな労苦に直面するのもまた、エージェントです。 そのため、エージェントは、社内外に対する不平不満や被害者意識を持つことになります。 そんなエージェントが代弁する顧客の声には、彼/彼女たちの強いバイアスがかかっています。 現場を歩けばわかります。 多くのエージェントは、たった1件の顧客の苦情を、あたかもすべての顧客の苦情のように表現します(注2)。 センター管理者やマーケティング、あるいは経営者は、本当に顧客の声を活用したいのなら、エージェント任せにしてはいけません。 マーケターが、自分が手掛けたプロモーションの効果を確かめるために自らフィールドウォッチングをするのと同様に、顧客の声は自分の耳で聞くべきです。 7. ライブチャットの効果でコール数削減 ライブチャットを導入するコールセンターのほとんどが、「電話をチャットに置き換えてエージェント数とコストを減らす」ことを目的としています。 しかし、ライブチャットの導入によりコール数を減らすことはできません。 電話による顧客とのコミュニケーションを、ライブチャットに置き換えることはできないからです(注3)。 ライブチャット導入の本質的な目的は、チャットを好む新しい顧客や、チャットにフィットする新しいマーケットを獲得することにあります。つまり、顧客とのコンタクトは減るどころか増えることになります。このことは、こちらの記事 に書きました。 ところが、多くの場合、ライブチャットを導入するとコール数が減ります。 何故なら、問い合わせの起点となるWebサイトで、ライブチャットを利用するように誘導あるいは強制するからです。 これがWeb起点の顧客サービスの、企業側にとっての大きなメリットです。Webサイトの作り方ひとつで、顧客を思い通りに操ることができるのですから。 でも、これは、あくまでも企業側の恣意的な操作であり、顧客の選択ではありません。 つまり、コール数が減ったのではなく、減ったように見えるだけです。 もしかしたら、電話を好む顧客は不満を抱いているかもしれません。 ライブチャットでは埒が明かない問題を抱える顧客を憤慨させているかもしれません。 そんな顧客は、黙って競合他社へ乗り換えることになります。 ライブチャットは電話を置き換えるものではなく、電話と共存する(使い分ける)ツールであり、そこに顧客にとっての大きなメリットが生まれるのです。 8. 予測の正確性を誤差率で評価 コール数などの予測はセンター・マネジメントのはじめの一歩です。 それがなければ、コールセンターの活動は何も始まらないし、その精度いかんで、コールセンターのパフォーマンスに大きな影響を与えることになります。 したがって、「フォーキャスト正確性」はセンター管理者にとっての必須のKPIのひとつです。 ところが、大半のセンター管理者が、その正しい測り方を知らず、予測と実績の誤差の割合(これを「誤差率」と呼びます)で見てしまいます。 スライドの事例をご覧ください。フォーキャスト正確性の目標値は5%とすることが多いので、誤差率-3.4%という結果を“精度が高い予測”と評価してしまいます。 ところが、この-3.4%は、時間帯別に見た場合の、目標から大きく乖離した実績が、“平均のマジック”によって相殺されてしまっており、実態を表していません。 時間帯ごとの正確性は誤差率で構いませんが、1日以上の期間で見る場合は、「絶対誤差率」を使います。 絶対誤差率とは、実績値から正負の符号を取り去った絶対値を%で表したもので、その1日平均のことを「平均絶対誤差率」(MAPE)と呼びます。 絶対誤差率の計算式は、次の通りです。 絶対誤差率=(|実績―予測|÷実績)×100 ※||は||内の数値が絶対値であることを示します。 また、スライドのもう一つの事例では、予測のバラツキを評価する「標準偏差」(数値が小さいほど精度が高い)と、予測と実績の関係性の強さを表す「相関係数」(1.0に近いほど精度が高い)を紹介しています。 左右の表を1日平均の誤差率で比べると、右表の3.5%に対して-0.6%の左表の方が精度が高いように見えます。 しかし、時間帯別に見ると、右表の方がバラツキが少ないことがわかります。これを標準偏差と相関係数で見るならば、いずれも右表の方が精度が高いという結果になります。 このように、正しい方法を知らないことは、真逆の評価をしてしまうことになるので注意が必要です。 以上、8つの禁じ手に対する簡単な説明をしましたが、これらはすべてセンター・マネジメントの基本です。 さらに詳しいことは、『コールセンター・マネジメントの教科書』で解説していますのでご覧ください。
注1: サービスレベルが登場する以前、世界中のコールセンターは、放棄率と平均応答時間の二つを最重要評価指標としていました。しかし、いずれも平均値のため、1日単位で見た場合に、目標を下回った時間帯の実績が、目標を上回った時間帯の実績に相殺されてしまい、真のサービスの実態が見えなくなってしまうという反省から生まれたのがサービスレベルです。したがって、サービスレベルは時間帯ごとの実績を評価するのがあるべき姿なのです。
注2: もちろん、すべてのエージェントが、あるいは、すべてのケースにおいてバイアスがかかるわけではありません。 注3: 単純定型的で正解のある問い合わせなど、ライブチャットにフィットするものは置き換えることが可能です。 熊澤伸宏(文/Vol.25)
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