総合職、一般職などのように、「職能」(注1)で区別をつけたがる日本の企業では、「ジェネラリスト」か「スペシャリスト」かということがよく話題になります。 例えば、どちらが出世に有利なのか、どちらのタイプの人材を採用すべきかといったことです。 では、センター長、マネージャー、スーパーバイザーといったコールセンターのマネジメント(以下、コールセンター・マネージャー)の仕事についてはどうなのでしょう。 「コールセンター・マネジメントの仕事は企業経営の縮図だ」「センター長は中小企業の社長のようだ」と言われるように、コールセンター・マネージャーには「広範な守備範囲」が求められます(注2)。 また、他の一般事務系オフィスワークと比べるとコールセンターのオペレーションは極めてユニークであり、そのマネジメントには「高度な専門性」が要求されます(注3)。 このことから、コールセンター・マネージャーの仕事を「職務」(注4)の観点で考えると、そこにはジェネラリストとスペシャリストの両方の要素が含まれることがわかります。 ところが、日本の企業ではコールセンター・マネージャーは議論の余地なくスペシャリストと決め付けられます。 なぜなら、職能で考える日本の企業では、スペシャリストのことを「特定の部署や業務の専門性を極めた人」と定義するからです。 コールセンター・マネージャーの仕事は、一朝一夕に高い成果を挙げることはできません。 それを極めるには多くの時間がかかるため、必然的にコールセンターに長期間留まることとなり、そのことが、「特定の部署に長く留まる人=スペシャリスト」という決め付けとなるのです。 コールセンター・マネージャーを担うことで、中小企業の社長のような広範な業務を経験することができても、決してジェネラリストとは言われません。 あくまでも、コールセンターという“狭い世界”の専門家という評価を超えることはできないのです。 では、日本の企業におけるジェネラリストとは、どういう人たちのことを言うのでしょうか。 一般的な定義としては、「幅広い分野の知識を持ち組織全体を俯瞰してみることのできる能力を持つ人」となりますが、 ここでいう幅広い分野とは、自社内のさまざまな組織や業務のことを意味します。 つまり、ジョブ・ローテーションにより短期間で社内の多くの部署を経験し、仕事の知識やスキルは広く浅くに留まるものの、協調性やコミュニケーション能力に長け、顔が広く、根回し上手で人望が厚いといったイメージです。 伝統的な日本企業では、このような人、つまりジェネラリストを有能と評価する一方、スペシャリストは、視野が狭い、オタク、わがまま、協調性がないなどネガティブな評価をされる傾向にあります。 スペシャリストと決め付けられるコールセンター・マネージャーも、日本企業においては後者として見られがちなのは残念なことです。 しかし、一歩、会社の外に出るとどうなるでしょう。 社内では有能とされ、出世コースの“日本的ジェネラリスト”は、社外では評価されません。 笑い話にもありますが、「部長やってました」は他社では通用しないのです。 一方、社内では色眼鏡で見られるスペシャリストは、その専門性が大きな武器となり、社外では高く評価されます。 ジェネラリストとしての広範な守備範囲と、スペシャリストとしての高度な専門性を併せ持つコールセンター・マネージャーは、“どこへ行っても役に立つ”有能な人材として、高い評価を得ることができるのです。 つまり、職務を基準に考える労働市場や諸外国では、センター・マネジメントにおける広範かつ豊富な知識、経験、スキル、見識を有するコールセンター・マネージャーこそ、特定の企業や組織に限らず、“どこへ行っても”その能力を発揮し貢献することができる人材と位置づけ、そのような人材のことをジェネラリストと呼びます。 その観点から考えると、“日本的ジェネラリスト”は、特定の企業内でしか役に立たないスペシャリストと定義づけることができそうです。 ちなみに筆者は、8つの企業でコールセンター・マネージャーとして従事しました。 日本企業的観点からは“転職を繰り返し・・・”とネガティブな意味合いで言われましたが、筆者にはそのような感覚はまったくありません。 なぜなら筆者は、30年超にわたって一貫してコールセンター・マネジメントを職とし、一度たりとも“転職”をしていないからです。 そんな経験から声を大にして申し上げたいのは、コールセンター・マネージャーはジェネラリストであり、その知識や経験、スキルは、世の中に広く大きな価値を提供できる仕事であるということです。
注1: 職能 = 仕事をするための能力。日本企業では、純粋な意味での能力よりも、年齢、学歴、経験年数、肩書といった個人の属性を能力判定の基準とする傾向にある
注2、注3: 『コールセンター・マネジメントの教科書』 序章参照 注4: 職務 = 仕事そのもの、またはその内容 熊澤 伸宏(文/Vol.12)
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