コールセンターで「アウトバウンド」といえば、ほとんどの人が真っ先にセールスコールなどのテレマーケティングを思い浮かべるでしょう。 しかしアウトバウンドには、テレマーケティングだけでなく、コールバック(インバウンド・コールのフォローアップ)、ディスパッチ(サービスマンや配達員の派遣)、コレクション(督促や債権回収)など、異なる種類のさまざまな業務があります。 にもかかわらず、「アウトバウンド」と一括りにして語られがちです。インバウンド・コールの場合は、受注、予約、問い合わせなど、具体的な業務名で表現し、「インバウンド」の一言で語ることはないにも関わらずです。 業務の種類が異なれば、当然、エージェント数算出の方法も異なってきます。本稿では、アウトバウンドを代表する業務である「アウトバウンド・テレマーケティング・コール」(以下、「アウトバウンド・コール」と省略)を対象に、そのエージェント数算出法について解説します。 ◆ アウトバウンド・コールは「確率のビジネス」、そのために必要な科学的手法 アウトバウンド・コールを実践するコールセンターの多くに見られるのが、オペレーションをエージェント任せにした管理者が、成果目標の結果にのみ一喜一憂する姿です。 これは、アウトバウンド・コールの成功がエージェントのセールススキルにあると考えているからであり、それが大きな誤解であることに気付いていないのです。 アウトバウンド・コールには、「コンタクト率」や「顧客の心理的抵抗感」といった大きな障壁が存在します。そのため、エージェントの“魔法のセールストーク”の養成にいくら躍起になっても、そのスキルを生かせる機会は極めて限られています。つまり、エージェントのスキルだけではほとんど差がつかないのです。 アウトバウンド・コールはエージェントのスキルに依存した営業手法ではなく、オペレーションのプロセスを科学的に検証しながら成功の確率を高めていくビジネスです。 そのためのオペレーションの仕組みをしっかり構築し運用することこそが、アウトバウンド・コールの成功に最も重要であり、その効果的・効率的な実践を担うエージェント数の算出や配置も、科学的な手法によりおこなう必要があることは言うまでもありません。 ◆ まずはアウトバウンド・コールの特徴をしっかり把握する アウトバウンド・コールには、インバウンド・コールなど他のコンタクトと異なるいくつかの特徴がありますが、そのうち、エージェント数の算出に直接影響する4つの特徴について説明します。 (1) リストがある これがアウトバウンド・コールの最大の特徴と言えるでしょう。 コールセンターは、リストに基づいて顧客にコンタクトするわけですが、それをいつ、どのようにおこなうかは、コールセンター側の意思によりコントロールすることができます。 その意味で、アウトバウンド・コールは「レスポンスタイム・コンタクト」(顧客からのコンタクトを順番に処理するタイプのコンタクト)に分類されます。 したがって、エージェント数の算出は、レスポンスタイム・コンタクトのエージェント数算出モデルである「ワークロード人数算出式」の考え方をベースにおこなうことになります。 レスポンスタイム・コンタクトのエージェント数算出については、第9回の記事で詳しく解説しています。 (2) 「ダイヤルすること」がエージェントの実作業 多くの人が、アウトバウンド・コールにおけるエージェントの作業は「コンタクトすること」と思い込んでいますが、そうではなく、顧客にコンタクトするために「ダイヤルする」ことです。コンタクトは、ダイヤルした結果に過ぎません。 「ダイヤルする」とは、エージェントが顧客にコンタクトするために電話を発信する行為のことです。もちろん、今の時代にダイヤル式の電話機でアウトバウンド・コールをすることはありませんが、慣習的に「ダイヤルする」と呼んでいます(注1)。 注1: その他、「コールする」「電話をかける」といった表現も同義です。 エージェントが、どれくらいの時間をかけて何回ダイヤルするかで、その作業量(ワークロード)が決まり、それに基づいてエージェント数が決まってくるのです。 (3) 「セットアップ時間」が存在する アウトバウンド・コールのオペレーションには、インバウンド・コールにはない「セットアップ時間」が存在します。 これは、エージェントが顧客とコンタクトする前におこなういくつかの作業や状態に要する時間のことで、1回のダイヤルにつき約30秒かかります(図1)。インバウンド・コールにはこの時間が存在しないこともあって、この時間を見逃すケースが少なくありません。 しかし、ダイヤル1回につき30秒もの時間を除いてしまうことは、平均処理時間が実態よりも短くなり、エージェント数の計算に大きな影響を及ぼします。本当に必要な人数よりも少なく算出されてしまうということです。その結果、アンダースタッフ(人数不足)に陥ってしまいます。 (4) 複数の「コンタクトパターン」が存在する エージェントがダイヤルすると、その結果が複数のパターンに分かれます。 インバウンド・コールの場合は、コンタクトパターンは「ライブ応答」の1つしかなく、その平均処理時間=インバウンド・コールの平均処理時間となります。 一方、アウトバウンド・コールの場合は、「ライブ応答」の他に、表1に示すように顧客とコンタクトできなかった場合の複数のパターンが存在します。そして、それぞれのパターンごとに平均処理時間が異なります。 ところが、統計管理システムではパターンの区別ができないので、すべてのパターンを含んだ平均処理時間(表1の例では180秒)しか提供されません。 そのため、平均処理時間の正確な予測や目標設定ができないのです。 ◆ アウトバウンド・コールのエージェント数算出モデル「DPH方式」 アウトバウンド・コールは「レスポンスタイム・コンタクト」であり、「ワークロード人数算出式」の考え方に基づき、理論的には下記の計算式でエージェント数を算出できます。 (必要総ダイヤル数 ÷ 総オペレーション実施予定時間 ÷ 平均処理時間)÷ 効率因子 この計算式は、平均処理時間(AHT)をキーとして使うので、「AHT方式」と呼ばれますが、これを実際に使うには大きな難点があります。 それは、上記(4)で述べた複数の「コンタクトパターン」(表1)の存在により、AHTの測定や予測が極めて困難なことです。 そのために、「AHT方式」は、理論的には成立しても、実際に使うには現実的ではないのです。 ただし、それに替わるもう一つの手法があります。 それが、後述する「DPH」(dial per hour;エージェント1人につき1時間あたりのダイヤル数)をキーとして使う「DPH方式」と呼ばれる方法で、計算式は下記のとおりです。 ((必要総ダイヤル数 ÷ 1時間あたりダイヤル数)÷ オペレーション実施予定日数)÷ 1日あたり平均オペレーション時間 表2は、このDPH方式による「アウトバウンド・コンタクト・エージェント・カルキュレーター(DPH方式)」です。以下、この計算モデルにしたがって、各項目の定義や考え方、計算式などについて解説します。 ◆ リスト数を予測する アウトバウンド・コールのオペレーションにおいて、リストは「新規リスト」「除外リスト」「コール対象リスト」「完了リスト」の4つに分類して考えます。 「新規リスト」は、プログラム(“〇〇キャンペーン”のような個々の業務のこと)の目的に応じて顧客データベースからセグメントし出力したリストです。このリスト数は、通常はマーケティングなど、アウトバウンド・コール・プログラムのオーナーが予測・確定します。 「除外リスト」(「新規リスト」×「除外率」)は、「除外基準」(注2)に基づき、コールの対象から除外する(電話をかけない)リストのことで、「新規リスト」の抽出時に除く場合と、コールの直前に「コール対象リスト」から除く場合があります。 注2: 電話をかけてもコンタクトが期待できない職業、苦情歴がある、競合他社従業員など、コールの対象から除外すべき基準のことで、おもにコールセンターの過去の経験やノウハウから設定されます。 「コール対象リスト」(「新規リスト」-「除外リスト」)は、「新規リスト」から「除外リスト」を除いた、エージェントがコールすべきリストです。 「完了リスト」(「コール対象リスト」×「完了率」)は、エージェントが実際にコールをおこない、「完了基準」(注3)に基づいてオペレーションが終了(コンタクトできたかどうかにかかわらず)したリストのことを言います。エージェント数や成果目標の結果の予測の計算に使用します。 注3: すべてのコール対象リストについて、顧客とコンタクトできるまでコールし続けるわけではありません。いたずらにコールの回数を重ねてエージェントのリソースの浪費や顧客の印象の悪化を避けるために、コール回数の制限など、オペレーションを終了させるために設ける基準のことを指します。 「除外率」(「新規リスト」に対する「除外リスト」の割合)や「完了率」(「コール対象リスト」に対する「完了リスト」の割合)は、継続的に実施しているプログラムの場合は過去の実績から、新規プログラムの場合は類似プログラムの実績やテストの結果から設定します。 また、期間の定めがなく継続的に実施しているプログラムで、月次で予測をおこなう場合は、「前月からの繰り越しリスト」や「次月に繰越すリスト」が発生する場合があります。 「繰り越しリスト」とは、月内に完了せず継続中のリストや未着手のリストのことを言います。 「前月からの繰り越しリスト」は、当月の「新規リスト」に、「次月への繰り越しリスト」は、次月の「新規リスト」に加算します。 以上のリストの動きと計算の考え方を、図2に概念的に表しました。 ◆ 効率性目標を設定する アウトバウンド・テレマーケティング・プログラムには、明確な成果目標(セールスコールであれば、売り上げや獲得件数など)が設定されます。 成果目標を達成することが、プログラムの最大の目的ということになりますが、そのためには、「完了リスト」の件数がどれくらい必要かを予測します。 さらに、予測した「完了リスト数」を達成するのに必要な「総ダイヤル数」を計算します。この「必要総ダイヤル数」が、エージェントの作業量(ワークロード)であり、それが決まることで、必要なエージェント数も決まってくることになります。 「必要総ダイヤル数」を算出するためには、「ダイヤルファクター」の目標値を設定します。 「ダイヤルファクター」は、「完了リスト数」に対する「必要総ダイヤル数」の割合のことで、表2の例では、「完了リスト数」10,000に対して、「ダイヤルファクター」を200%と設定したことで、全部で20,000回の「ダイヤル数」が必要であることを示しています。 次に、「必要総ダイヤル数」をできるだけ効率的に達成するための指標として、「DPH」の目標値(1人のエージェントが1時間に平均何回ダイヤルするか)を設定します。 そして、「必要総ダイヤル数」を、設定した「DPH」で割ることにより、予測した「完了リスト数」を達成するために必要な、エージェントの総オペレーション時間が求められます。表2の例では、10,000の「完了リスト」を達成するのに必要な20,000回のダイヤル作業をおこなうために、全部で1,111.12時間が必要であることを示しています。 なお、「ダイヤルファクター」「DPH」のいずれも、プログラムの目的、コンタクト基準(注4)、完了基準、オペレーション実施期間、コンタクト率、顧客の属性、エージェントのスキル等々、多くの要因の影響を受けるため、異なるプログラムに共通のモデルはなく、個々のプログラムの実績(新規プログラムの場合は類似プログラムやテストの実績)をベースにして目標値を設定します。 注4: 担当するエージェント全員のオペレーションの一貫性を確保するために、コールの仕方や回数などにルールを設けるものです。 ◆ レスポンスタイム目標を設定する 上記では、予測した「完了リスト数」を達成するのに必要なエージェントの作業量(「必要総ダイヤル数」)と、それを完了するのに必要な作業時間(「必要総オペレーション時間」)を算出しました。 ここでは、エージェントのオペレーション(ダイヤル作業)を実施する日数(表2の例では15日)や時間(同6時間)を設定します。エージェントの勤務時間や顧客とコンタクトしやすい時間などを鑑みて、アウトバウンド・コールのオペレーションをおこなう(電話をかける)スケジュールを決めるということです。 設定した日数や時間内で、予測した「完了リスト数」を達成するために必要なエージェント数を算出するためです。 つまり、この日数や時間が、レスポンスタイム・コンタクトのエージェント数算出に必要な「レスポンスタイム目標」に相当するというわけです。 期間限定のプログラムの場合は、当初からキャンペーン期間などが決まっているはずですから、その期間におけるオペレーション実施日数や1日あたりのオペレーション実施時間を設定します。 期間の定めがなく継続的に実施するプログラム、あるいは、インバウンド・コールの繁閑時対策として実施するプログラムの場合は、予測する期間におけるオペレーション実施日数や1日あたりのオペレーション実施時間を設定します。 ◆ 必要なエージェント数を算出する 以上のように、まずは業務量(リスト数とダイヤル数)を算出し、それに効率性目標(「DPH」)とレスポンスタイム目標(「オペレーション実施時間」)を設定することで、ベース・エージェント数(表2の例では12人)を算出することができました。 なお、シュリンケージ(エージェントが、トレーニング、ミーティング、休暇など電話オペレーション以外に費やす時間。表2の例では30%)を反映したトータル・エージェント数(要在籍人数。表2の例では18人)の算出の考え方や計算式は、他のコンタクトタイプと同じです。詳しくは第7回の記事をご覧ください。 ◆ DPHはエージェントの目標管理にも有効 アウトバウンド・コールのエージェント数算出の切り札として紹介したDPHですが、実は、エージェントの目標管理にも大変有効です。 前述のように、アウトバウンド・コールにはAHTが異なる複数のコンタクトパターンがありますが、パターンごとのAHTを測定することができません。 表1の例では、システムから提供されるAHTは、すべてのパターンを合算した180秒です。しかし、エージェントの実感は「ライブ応答」の248秒であり、両者の間には大きな差があります。 そのため、180秒に基づく目標を設定したところで、エージェントにとっては実感に乏しいため、目標達成のための努力のしようがないのです。つまり、AHTをエージェントの業績目標として使うことができないということです。 一方のDPHには、コンタクトパターンやAHTなどのすべての要素が含まれているうえに、「1時間に何回ダイヤルするか」というわかりやすさが、そのままエージェントの実感と直結しているため、エージェント個人の業績目標として、とても使いやすいという利点があります。 以上、アウトバウンド・コールのエージェント数の科学的な算出法について解説してきました。 アウトバウンド・コールは「インバウンド・コールの手が空いた時にやる」とか、「リストが消化できるまで何となくエージェントを配置する」・・・といった、合理性のない旧態依然とした運用では、成果とコストのバランスが取れた思うような結果を得ることができず、一過性の思い付きのプロジェクトで終わってしまいます。 そのような状態からいち早く脱却して、科学的にマネジメントすることで、アウトバウンド・コールを真に経営に貢献できる仕事として確立できます。 なお、表2の「アウトバウンド・コンタクト・エージェント・カルキュレーター(DPH方式)」は、こちらのページからExcelファイルをダウンロードできますので、ぜひご活用ください。 Original: 2019年10月22日 - Last modified: 2022年1月14日
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
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