コールセンターの要員(エージェント)数を求めるためには、その要素として、サービス目標=「サービスレベル」と効率性目標=「平均処理時間」の設定が必要です。 前回述べた「サービスレベル」に続いて、今回はまず「平均処理時間」の設定について説明します。そして、これらふたつの目標値を使って、いよいよエージェント数を算出します。 エージェント数の算出は、「ベースエージェント数」(実働人数)と「トータルエージェント数」(在籍人数)の2段階に分けておこないます。 今回は、世界標準の算出モデル「アーランC式」による「ベースエージェント数」の算出について解説します。 ◆ エージェント数算出に必要な効率性目標とは コールセンターのエージェント数を算出するためには、予測した業務量の処理の仕方について、サービスと効率性の2つの観点から、その目標値を設定する必要があります。 サービスの観点から設定するのがサービスレベルで、効率性の観点から設定するのが「平均処理時間」です。 コールセンターにおける電話の「処理」とは、顧客との「通話」だけでなく、通話中の「保留」や、通話終了後の「後処理」(応対内容の記録など)の作業も含めます。 つまり、エージェントが「通話を開始」してから「保留」を経て「通話を終了」し、さらに「後処理が完了」するまでの一連の時間が「処理時間」であり、その1コールあたりの平均が「平均処理時間」です。計算式で表すと次のようになります。 平均処理時間 =(通話時間+保留時間+後処理時間)÷ 応答コール数 保留時間は、エージェントが電話を保留モードにする(電話機の保留ボタンを押したり、ソフトフォンの保留アイコンをクリックするなど)してから解除するまでの時間を計測します。ただし、システムによっては保留時間が独立して計測されず、通話時間に含まれる場合があるので注意が必要です。 ◆ 平均処理時間の目標設定のポイント 平均処理時間は、コール数と同様に、ヒストリカルデータ(過去の実績)とビジネスドライバー(将来の増減要因)から予測します。 予測した平均処理時間をベースにして、以下の6点を考慮して目標値を設定します。 (1) ヒストリカルデータとビジネスドライバーによる統計学的な予測をそのまま目標にするのでなく、平均処理時間の改善や向上を図るための努力目標(例えば、四半期ごとに5秒づつ短縮するなど)も加味します。 (2) “平均処理時間は短ければ短いほど良い”と、単純に考えるべきではありません。品質と効率性とのバランスを考えれば、“短いほど良い”のではなく、“適正な時間”であることが必要です。 (3) 平均処理時間は、通話時間、保留時間、後処理時間の要素ごとに考えます。それぞれの運用や改善・向上のためのアプローチが異なるからです。例えば、通話時間は短縮を前面に出さず、むしろ顧客とのコミュニケーションには十分な時間をかけることを意識します。 (4) 一方、顧客の電話に応答するというコールセンターの最優先の使命を考えれば、後処理時間は、短縮を第一に考えます。ただし、後処理作業の正確性など、品質の維持をおろそかにしてはいけません。 (5) 平均処理時間の目標設定は、短縮だけではありません。例えば、新人がデビューしたときや、新しいシステムやプロセスを導入して定着するまでの期間などは、どうしても平均処理時間は長くなります。 (6) 一人のエージェントが短縮できる平均処理時間はわずかなものです。例えば、システムのリプレースやビジネスプロセスの刷新といった大きなイベントでもない限り、短期間で大幅な短縮は期待できません。したがって、3カ月で30秒短縮といった非現実的な目標を設定すべきではありません。また、個々のエージェントの経験や習熟度によっても異なるため、それらをよく考慮して、無理のない目標値を設定します。 ◆ エージェント数は二段階で考える サービスレベルと平均処理時間が決まったら、いよいよエージェント数の算出に移ります。 エージェント数は、「ベースエージェント数」と「トータルエージェント数」の二つに分けて考え、その計算も2段階でおこないます。それぞれの定義は次の通りです。 ベースエージェント数: 顧客の電話に応答するために配置すべき「実働人数」 トータルエージェント数: ベースエージェント数に、ミーティング、トレーニング、休憩、休暇など、エージェントが顧客の電話応答以外に費やす時間を加えた「在籍人数」 今この瞬間にかかってくる電話に応答するには、ベースエージェントの人数を配置すれば良いですが、それだけでは“組織を回す”ことができません。 したがって、コールセンターの管理者は、常に両方のレベルの人数を把握して、マネジメントする必要があるのです。 ◆ ベースエージェント数の算出モデル「アーランC式」とは それではまず「ベースエージェント数」の算出をおこないます。 ベースエージェント数を算出するには、「アーランC式」(erlang-C)と呼ばれる計算モデルを使います。 「アーランC式」は、デンマークの数学者で、コペンハーゲン電話会社の技師であったA.K.アーラン(1878-1929)により考案され、ランダム着信の環境下におけるエージェント数の算出モデルとして、世界中の電話会社やコールセンターが利用しています。 図1が「アーランC式」です。 見ての通り、数学者や統計の専門家でない限り、この計算式を直接扱うのは困難ですが、このアルゴリズムが組み込まれたツールを利用することで、コールセンターの現場の管理者も容易に利用できます。 表1が、「アーランC式」のアルゴリズムを組み込んだExcelの計算フォームです。 予測したコール数(この例では1時間あたり500コール)に対して、サービスレベルを20秒/80%、平均処理時間を240秒とするならば、39人のベースエージェントが必要という結果を導くことができます。 表1の「ベースエージェント・カルキュレーター」のExcelファイルは、こちらの解説ページからダウンロードして利用できます。(PCでご利用ください。なお、ファイルの利用にあたっては、最初に、ご利用になるExcelにアーラン関数のアドインを組み込む必要がありますので、解説ページの手順をご確認ください) ◆「アーランC式」の特徴を理解しておく 「アーランC式」には、以下の二つの特徴があることを理解しておきましょう。 A) 「アーランC式」は、“ランダム着信”を前提としています。つまり、インバウンドコールやライブチャットなどのように、顧客のコールがランダム(不規則)に入ってきて、即時の処理を必要とするタイプのコンタクトに適した計算モデルだということです。 言い換えれば、メールや一般事務系オフィスワークのように連続処理が可能で、即時の処理が必須でないタイプのコンタクトの要員数計算に使うことはできません。 B) 「アーランC式」は「放棄」※の発生を前提としていません。しかし、現実には若干の放棄は発生するため、「アーランC式」による計算結果は、若干多めの人数となります。 と言っても、小数点以下のレベルの誤差のため、実務上はまったく問題になりません。また、表2からわかるように、サービスレベル目標を達成していれば、放棄の発生はごくわずかで、気にする必要のないレベルです。※放棄…顧客が自ら電話を切ること。詳しくは第2回の記事を参照。 次回は、「トータルエージェント数」の算出と、そのために必要な「シュリンケージ」の考え方や目標設定について解説します。 Original: 2019年5月17日 - Last modified: 2022年1月14日
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
0 コメント
あなたのコメントは承認後に投稿されます。
返信を残す |
サイトポリシー | プライバシーポリシー | 特定商取引に基づく表記 | Staff Only
Copyright © 2018 - 2022 コールセンターの教科書プロジェクト All Rights Reserved |