コールセンターの業務量を予測するためには、その前提として、コール数(仕事の数量)と平均処理時間(作業負荷)から成る、一定の時間内に処理すべき仕事の量をあらわす「ワークロード」という概念の考え方と、「コール数」そのものが何を指すのかを、正しく理解しておくことが必要です。 そのことについては前回の記事で詳しく説明しましたが、今回は、業務量の予測に不可欠な2つの基礎情報である「ヒストリカルデータ」と「ビジネスドライバー」について、事例を交えて解説します。 ◆ ヒストリカルデータとは ヒストリカルデータとは、コールセンターのワークロードを構成するコール数や平均処理時間の「過去の実績データ」のことです。 販売計画や予算編成など、企業内における多くの予測作業と同じように、コールセンターのワークロードも、まずは過去の実績をベースにした予測を立てます。ただし、過去の実績データを“生のまま”で使うことはできません。そこには、さまざまなイレギュラーな要素が含まれているからです。 したがって、ヒストリカルデータを使うには、イレギュラーな要素を取り除き、予測に“使える”データに整えるための検証作業が必要です。 ヒストリカルデータの検証は、次の手順でおこないます。 (1) イレギュラーな値や事象を見つける (2) イレギュラーな値や事象の原因を特定する (3) イレギュラーな値や事象を「恒常的事実」と「一時的事実」に分類する (4) 「一時的事実」による実績値をノーマライズ(平常値に調整)する ◆ コール数のヒストリカルデータを検証する まずは、コール数のヒストリカルデータの検証事例から見てみましょう。表1は、あるコールセンターの10~11月のコール数の実績をカレンダー形式で示しています。 この実績値からイレギュラーな値や事象を見つけ出し、その原因を特定し整理すると、以下のように分類することができました。 【恒常的事実】 - 毎週明けの月曜日が1週間のピークで日曜日にかけてコール数が減少 - 祝日のコール数は日曜日並み - 祝日の翌営業日のコール数は月曜日並み - 12月最終週のコール数は、28日の公務員仕事納め以後、年末にかけて減少 - 12月31日は年末臨時休業 【一時的事実】 - 10月21日にマーケティング部がキャンペーンのDMを発送。翌22日から顧客に届き始め、コールセンターへのレスポンス(問い合わせ)が発生。週明けの24日に通常の月曜日のピークと重なりコール数が激増。以後、1週間にわたってDMのレスポンスが影響しコール数が増加した。 - 11月10日にシステムダウンが発生し3時間にわたりオペレーションが中断。その反動で、翌日のコール数が通常の金曜日より増加した。 この検証で判明した事実のうち、「恒常的な事実」については、毎年同じように発生する事象のため、そのまま翌年以後の予測に反映させます。 その際、気を付けなければならないのが、国民の祝日と曜日との関係です。 10~12月の3か月間に存在する4つの祝日(体育の日、文化の日、勤労感謝の日、天皇誕生日)のうち、体育の日を除く3つの祝日は毎年曜日が変動するため、祝日と曜日の兼ね合いからコール数を調整する必要があります。また、祝日が休日と重なると振替休日が発生するので、さらに調整が必要です。公務員仕事納めの12月28日も毎年曜日が変わるので注意が必要です。 このように、祝日がコール数に影響を与えるコールセンターは、16ある国民の祝日の毎年の曜日を、内閣府のWebサイトなどで確認しておく必要があります。 「一時的事実」については、この年のこの時期に限って発生したイベントのため、翌年以後の予測には反映させないよう、実績値の「ノーマライズ」(平常値に調整)をおこないます。 ちなみに、沖縄県地方の台風のように、毎年必ず発生するけれども、発生のタイミングや規模、期間が予測できないものがあります。その場合は、正確な予測ができないので、「一時的事実」として、台風の影響を受けた実績値はノーマライズします。 ◆ 平均処理時間のヒストリカルデータを検証する 次に、平均処理時間の検証事例を見てみましょう。表2は、あるコールセンターの1週間の30分ごとの平均処理時間の実績値です。 このデータを検証したところ、毎日16:00までは平均315秒の平均処理時間が、16:00以後は平均325秒と、10秒も長くなることがわかりました。 その原因が、以下のどちらかであったとします。 - 毎日16:00からコール数が減る傾向にあり、エージェントの疲労と相まって、後処理の作業効率が低下し、その結果、平均処理時間が長くなった。 - この時期に新人研修を実施しており、この週に毎日16:00から新人エージェントのOJTをおこなったため、平均処理時間が長くなった。 もし、前者の、エージェントの疲労によるものであれば、それは年間を通じて常に起きていることでしょうから、「恒常的事実」として予測に反映させます。 そうではなく、後者の、新人のOJTによるものだったとすれば、それはたまたまこの時期に限って起きた「一時的事実」なので、予測には反映させないよう、16:00以後の実績値をノーマライズします。 以上のようにして、まずは、コール数と平均処理時間の過去の実績データを、予測に使えるヒストリカルデータとして整えることができました。 業務量の予測の準備作業として、もう一つ欠かせないのが、コール数や平均処理時間の将来の変動要因となるビジネスドライバーを特定することです。 ◆ ビジネスドライバーとは ビジネスドライバーとは、「将来のワークロードの増減に影響を与える要因」を意味します。 コール数や平均処理時間の増減に影響を与える要因として、例えば次のようなことが考えられるでしょう。 - マーケティング部門の新製品キャンペーンにより、コールセンターに新製品の注文や問い合わせが殺到し、コール数が急増 - コールセンターに最新の業務システムを導入したことで、エージェントの入力作業のほとんどが自動化され、平均処理時間が大幅に短縮 - 政府の経済対策が功を奏し景気が好転したことで株式市場が活況を呈し、証券会社のコールセンターのコール数が激増 - 天候不順により商品の売り上げが低迷し、コールセンターの受注(コール数)も減少 このように、コール数や平均処理時間の増減に影響を与える要因を特定し、それを将来の予測に反映させることが必要です。この要因のことを「ビジネスドライバー」と呼びます。 表3に、多くのコールセンターに共通するであろうビジネスドライバーの事例を集めました。 もちろん、これ以外にも無数のビジネスドライバーがあり、そのうちどれがコール数や平均処理時間の増減に影響するかは個々のコールセンターによって異なります。 自センターのワークロードに影響を与えるビジネスドライバーを特定するために、コールセンターの管理者には次のような行動が求められます。 - コンタクトリーズン(コールの理由やパターン)を日常的に収集・分析して、自センターのワークロードに与える影響の度合いを把握する。 - 影響の度合いに応じて、自社が注視すべきビジネスドライバーを特定し優先順位をつける。 - ビジネスドライバーの特定は、決して他社の事例やデータなどに頼らず、自らのデータを自らの目で見て判断する。例えば、「景気」は証券会社のコールセンターに多大な影響を与えるが、製薬会社にはほとんど影響がないというように、同じビジネスドライバーであっても、コールセンターによって、まったく異なる影響を受ける場合があるため。 - 内的要因を確実に把握するために、コールセンター自らが日常的な社内の情報収集に努めるとともに、全社からコールセンターに情報が集まる仕組み作りにも注力する。 - 外的要因を確実にキャッチするために、広い視野と広範な情報収集を欠かさない。 以上のプロセスにより、ヒストリカルデータを検証し、ビジネスドライバーが特定できたことで、ワークロードの予測のための材料が整いました。いよいよ次回からは、その材料(データ)を使って、具体的な分析作業に入ります。 Original: 2019年2月16日 - Last modified: 2022年1月14日
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
3 コメント
Yoji Kawakami
5/23/2022 01:29:56
とても貴重な情報をありがとうございます。
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コメントありがとうございます。
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Yoji Kawakami
5/24/2022 21:30:02
熊澤さま あなたのコメントは承認後に投稿されます。
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