コールセンターのエージェント数の算出は、「ベースエージェント数」(実働人数)と「トータルエージェント数」(要在籍人数)の2段階で考える必要があります。 ベースエージェント数については、前回の記事で詳しく解説しました。 今回は、トータルエージェント数の算出と、そのために必要な「シュリンケージ」の考え方や目標設定について解説します。 ◆ 実働人数だけではコールセンターは回らない コールセンターのオペレーションは、ベースエージェント数(実働人数)が揃っているだけでは回りません。 なぜなら、エージェントは、トレーニングやミーティングなど、“本業”である顧客オペレーション以外のことに、かなりの時間を費やしているからです。 よって、その時間分の人数を加味して考えないと、エージェントの人数が足りず、正常なセンター運営ができないのです。 ◆ 正常なセンター運営に欠かせない「シュリンケージ」とは 図1に、コールセンターの運営に必要なエージェントの時間を表しました。 エージェントが、“本業”である顧客オペレーションに従事する時間のことを、「ベース時間」と呼びます。 ベース時間の内訳は、電話、メール、ライブチャットなど、業務の形態によって多少の違いはありますが(例えばセットアップ時間はアウトバウンド(発信)の電話にしか発生しません)、いずれの時間も、今、この瞬間に発生する顧客とのコンタクトのために必要な、オペレーションの“基本”(ベース)の時間です。 だから「ベース時間」と呼び、そのために必要なエージェントの人数なので「ベースエージェント数」と言います。 この、ベース時間以外に費やす時間が「シュリンケージ」で、エージェントが出勤している時間のうち、ベース時間以外の「非電話オペレーション時間」と、出勤していない時間(欠勤時間)の二つからなります。 出勤している時間におけるシュリンケージ(非電話オペレーション時間)には、休憩・休息、ミーティング、トレーニング、事務処理、その他雑務(システムダウンタイム、プロジェクト、他部署のヘルプなど)があります。その他雑務のうち、センターによっては恒常的に発生しているものがあれば、それらも独立したシュリンケージ要素とします。 出勤していない時間(欠勤時間)におけるシュリンケージには、有給休暇、遅刻・早退、無休欠勤などがあります。これらは、勤怠管理上の一般的な区分ですが、コールセンターがシュリンケージの視点で考えるときは、 それらが事前に承認済(スケジュール済)であるか、そうでないかの二つに区分する場合があります。 このように見ると、エージェントは、四六時中、顧客オペレーションばかりをしているわけではなく、実は、それ以外のことにかなりの時間を費やしていることがわかります。 だからこそ、その時間を費やすのに必要な人数を含めて考える必要があるのです。 ◆ シュリンケージは“計画”するもの 自社センターのシュリンケージを特定したら、次にその要素ごとに目標値を設定します。 目標値を設定するためには、まず、過去の実績と現状を知らなければなりません。ところが残念なことに、シュリンケージのデータを記録し、レポート化しているコールセンターが極めて少ないのが現実です。 もし、システムからデータを取り出せない場合は、例えば表1や図2のようなフォームを用いて、シュリンケージのデータ、つまり、エージェントの時間の使い方を、毎日記録することから始める必要があります。 表1は、時間帯ごとのシュリンケージの実績人数からシュリンケージ(この例では25%)を求めるもので、図2はエージェント自身が、毎日15分単位で勤務の実績を記録するフォームです。このフォームを集計、レポート化してシュリンケージを算出します。 いずれのフォームも、それ自体はマニュアルによる原始的な方法ですが、このフォーマットをPC上で運用できるようにするのが現実的でしょう。 一定量(少なくとも平常月の3か月分)の実績データを取得できたら、その実績値をベースに、表2のようなフォームを用いて、シュリンケージの予測=目標値の設定をおこないます。 表2は、シュリンケージの要素ごとに、その発生時間や日数などを予測して、全体としてのシュリンケージ(この例では32%)を求めるものです。 その際の予測値は、実績ベースで機械的に設定するのでなく、“目標”の観点を含めます。なぜなら、シュリンケージには、「減らしたい要素」と「増やしたい要素」があるからです。 表2の例では、遅刻・早退、欠勤、事務処理は減らしたい要素です。一方、ミーティングやトレーニングは、サービス品質やモチベーションの向上といった観点から、増やしたい要素といえます。有給休暇も、働き方改革の観点から増やしたい要素と位置付けるセンターが増えています。 このことから、シュリンケージは、“計画”するものと考えるべきなのです。 ◆ シュリンケージに適正値はあるのか 図3にシュリンケージの計算式を示します。表1の人数ベースと、表2の時間ベースによる計算式です。 シュリンケージには標準値や適正値といった類のものは存在しません。 例えば、あるセンターは、有給休暇の取得に否定的なわけではありませんが、目標値は前年の実績ベースに留めています。一方で他のセンターでは、働き方改革の方針のもと、有給休暇の完全取得を目指し、前年比大幅増の目標設定をします。 このように、個々の企業やセンターの目的や方針、社内事情等により目標設定の仕方が異なるからです。 それでも、個々に設定した目標値を集約した結果、25~35%に集中していることが、各国のさまざまな調査から明らかになっています。 ◆ 2つの方法でトータルエージェント数を算出する いよいよ、コールセンターのエージェント数算出の最終ステップです。設定したシュリンケージをベースエージェント数に反映して、「トータルエージェント数」(要在籍人数)を算出します。 図4のように、トータルエージェント数の算出には、「リニア方式」と「インバース方式」の二つがあります。 リニア方式は、「シュリンケージによって目減りする時間を埋めるには何人必要か」という考え方に基づく計算式であり、インバース方式は、「追加したエージェントにもシュリンケージが発生する」という考え方です。 ではどちらの方式を選択すべきでしょうか。 通常は、インバース方式を用います。近年では、コールセンターの急激な環境変化に適切に対応するためにはインバース方式が望ましいとされています。 ただし、図4の計算例を見ると、リニア方式とインバース方式で算出したトータルエージェント数は、4人の差があります。センターの規模が大きくなれば、この差から生じる人件費負担は無視できないものとなるでしょう。 そのことを考えると、たとえば専任担当者を置くなどして、業務量の予測や要員数の計算を時間帯別に行うといった、きめ細かなワークフォースマネジメントをおこなっているセンターの場合は、リニア方式の利用を推奨します。インバース方式の「追加したエージェントのシュリンケージ」は、通常のエージェントより少ないため、きめ細かな管理をしていれば、十分対応できるからです。 前回紹介した、アーランC式によるベースエージェント数の算出モデルに、上記の計算式を加味したExcelファイルが、図5の「トータルエージェント・カルキュレーター」です。 予測したコール数(この例では1時間あたり500コール)に対して、サービスレベルを20秒/80%、平均処理時間を240秒とするならば、アーランC式により39人のベースエージェントが必要です。 この39人に30%のシュリンケージをインバース方式による計算で加味すると、56人のトータルエージェント数を求めることができます。 表3の「トータルエージェント・カルキュレーター」のExcelファイルは、こちらの解説ページからダウンロードして利用できます(PCでご利用ください。なお、ファイルの利用にあたっては、最初に、ご利用になるExcelにアーラン関数のアドインを組み込む必要がありますので、解説ページの手順をご確認ください)。 次回は、科学的に算出したエージェント数と、コールセンターのステークホルダー(利害関係者)のニーズとのバランスを取るための「トレードオフ」について考えます。 2019年6月18日 - Last modified: 2022年1月14日
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
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