コールセンターのPDCAサイクルを回すためには、パフォーマンスレポートはなくてはならないツールです。 なぜなら、コールセンターのすべての活動を可視化して、現状把握から問題解決、そしてマネジメントの意思決定を図るための数値による客観的で具体的な情報を提供してくれるからです。 優れたコールセンターには、必ずと言って良いほど質の高いパフォーマンスレポートが存在します。それがマネジメントのコアツールとして、ビジネスの成功に欠かせないのです。 ところが、レポートに掲載するKPIなどの評価指標については大変多くの議論が交わされますが、それらをアウトプットするパフォーマンスレポートそのものが話題になることは滅多にありません。 そこで本稿では、質の高いレポート作りに必要な情報やノウハウを、具体的な事例を交えて解説します。 ◆ コールセンターのパフォーマンスレポート、基本の3点セット コールセンターの仕事には、ひとつとして同じものはありません。 ということは、パフォーマンスレポートも仕事の数だけ存在すると言えるでしょう。 それを、“コールセンターの現場の管理者が、日常的なオペレーションの管理のために必要なレポート”という観点で整理すると、「コールセンターパフォーマンスレポート」「エージェントパフォーマンスレポート」「リソース使用状況レポート」の“3点セット”に絞り込むことができます。 表1に、パフォーマンスレポート作成のための9つの視点による3つのレポートの特徴をまとめました。 「コールセンターパフォーマンスレポート」は、毎日のオペレーションのパフォーマンスを表す最も基本のレポートで、センター全体、サイト、チームといった組織単位、あるいはプログラム、チャネルなどの管理単位ごとに作成します。 日本企業では、レポートというと、“文章主体による業務のまとめの報告書”といったイメージでとらえる向きが少なくありませんが、ここで言うパフォーマンスレポートとは、現場の管理者(センター長、マネージャー、スーパーバイザーなど)が、毎日現場を動かすために活用する(パフォーマンスをチェックし、問題があれば直ちに対策を講じる)ための必須のマネジメントツールです。 「エージェントパフォーマンスレポート」は、毎日のエージェント個人別のパフォーマンスを表すレポートで、エージェントのチーム単位ごとに作成します。 コールセンターのオペレーションのパフォーマンスは、セルフサービスやチャットボットなど、エージェントが介在しない一部の業務を除き、1人ひとりのエージェントのパフォーマンスの積み上げによりもたらされます。 したがって、現場の管理者は、オペレーションの改善・向上を図るために、その素を成すエージェント個人別のパフォーマンスを把握する必要があり、そのためには「エージェントパフォーマンスレポート」がなくてはならないのです。 「リソース使用状況レポート」は、エージェントのリソースの使い方を、時間軸で測定・評価するためのレポートで、毎日のエージェント個人別の勤務状況や稼働状況、時間の使い方を表します。 エージェントの人件費は、コールセンターのコストの70~85%を占めるため、その有効性の検証は非常に重要です。 また、シュリンケージ(トレーニング、ミーティング、休憩、休暇など、エージェントが顧客応対業務以外に費やす時間)の実績は、コールセンターの要員数の算出に不可欠なため、このレポートもなくてはならないもののひとつです。 これら3つのパフォーマンスレポートのデザインは、レイアウトなどビジュアル面はコールセンターごとの個性はあるものの、掲載する評価指標など内容は共通しています。 以下では、各レポートのデザインについて、優れたコールセンターに共通する代表的な事例を紹介しながら説明します。 ◆ コールセンターパフォーマンスレポートのデザイン 表2は、コールセンターの代表的業務である電話(インバウンドコール)のコールセンターパフォーマンスレポートの事例です。 この事例のように、縦軸に日付、横軸に評価指標という並びは、コールセンターパフォーマンスレポートの最も典型的なレイアウトです。評価指標の関係性や連動性、それらの日付による変化やトレンドを直感的に把握するのに最も適しているからです。 毎日の実績を上から下へ記録していく形式は、週の合計や月間累計も無理なくレイアウトできます。 必要に応じて、期間累計(期間限定のキャンペーンなどの場合)や年間累計を追加しても良いでしょう。 ポイントは、最下部の目標や予測値、およびそれらの実績(月間累計)との差異を明示することです。 これにより、当月の目標や予測に対する実績の進捗状況(ポジティブか、ネガティブか)を容易に知り、必要なアクションが迅速に講じられます。 ちなみに差異の表記は、実績が目標に対してポジティブ(Better)の場合は正数で、ネガティブ(Worse)の場合は括弧付きの正数とします。+-記号では、単純な数値の大小比との見分けがつかないからです。 そして、言うまでもなく最も重要なのが、最上部の横軸に並ぶ評価指標です。 表2のように、業務量(この事例はインバウンドコールなのでコール数)、サービス目標、コンタクト効率性、リソース効率性の4つの視点からパフォーマンスを表します。 この4つの視点こそ、コールセンターのオペレーション運営の基本領域であり、目的や内容にかかわらず、すべてのプログラムのコールセンターパフォーマンスレポートに共通するものです。 4つの視点に連なる21の評価指標の定義や計算式を表3に示しました。表2と表3の丸囲み数字は参照関係にあります。また、評価指標は英語で表記されることが多いため、英語表記とその短縮形も併記してあります。 これら21の評価指標は、すべてのインバウンドコールに共通です。言い換えれば、この21の評価指標で、すべてのインバウンドコールのパフォーマンスを評価できるということです。 なお、プログラムによっては、ビジネス上の成果目標(通販の受注センターであれば受注件数や受注金額など)が設定されます。その場合は、21の評価指標にビジネス成果目標が加わります。 ◆ エージェントパフォーマンスレポートのデザイン 表4は、エージェントパフォーマンスレポートの事例、表5は、その評価指標の定義と計算式です。 このレポートは、エージェントがどんな仕事をどんな風にアサインされているかによって評価指標やそのレイアウトが決まってくるため、コールセンターごとの個性が強まります。 表4の場合は、1つのインバウンドコールを担当する5人のエージェントのチームであり、インバウンドコールにともなう顧客へのコールバック(アウトバウンドコール)が一定量発生するため、そのパフォーマンス(ダイヤル回数と平均処理時間)も盛り込みます。 上段は、エージェント個人ごとの月間累計と、その合計であるチームの月間累計のレポートで、エージェント間、エージェントとチーム、あるいはエージェントと目標との比較が可能です。 下段は、1人のエージェントの1日ごとのパフォーマンスを表します。 なお、個人のパフォーマンスは1日単位ではブレが大きく、毎日の結果に一喜一憂するのは賢明ではありません。よって、下段のレポートは異常値の確認程度にとどめ、上段の月間累計の実績で評価するのが基本となります。 ◆ リソース使用状況レポートのデザイン 表6にリソース使用状況レポートの事例、その評価指標の定義と計算式を表7に示します。 このレポートは、エージェントの勤怠状況、稼働状況、およびシュリンケージの測定・管理に活用します。 使用する評価指標は、業務の違いに影響を受けないので、コールセンターごとのデザインの違いは少ないでしょう。 このレポートで重要なのが、出勤率に対する考え方です。 一般に、人事上の出勤率には有給休暇が含まれます。また、病欠など予定外の欠勤は、慣習的に有給休暇扱いとして処理されます。つまり、人事上の出勤率には、従業員が実際には出社していない時間も含まれることになります。 しかし、コールセンターのオペレーションの現場には、それは適しません。予定したスケジュール通りに勤務することが、エージェントの第一義的な使命であるからです。 したがって、コールセンターでは、エージェントが実際に出社した時間で出勤率を評価する必要があるのです。そのために、有給休暇や欠勤がスケジュール済であったかどうかも重要です。 表6の事例では、人事上の出勤率を「出勤率」、コールセンターとしての“実出勤率”を「勤務時間遵守率」と表記して、両者を管理できるようにしています。 もうひとつ、このレポートで重要なのがシュリンケージです。 コールセンターの要員計画を策定する上で、トータルエージェント数(実働人数にシュリンケージの要素を加味した要在籍人数)を算出するのに不可欠であるとともに、エージェントのサービス品質に強く影響するミーティングやトレーニング時間の確保のために、シュリンケージを戦略的に計画する必要があり、そのためのツールとしてこのレポートが必要です。 ※シュリンケージに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。 ◆ 既製のダッシュボードに頼らない 優れたコールセンターには必ず上述のようなパフォーマンスレポートが存在し、マネジメントのコアツールとして日常的に活用しています。それに対し、旧態依然のコールセンターにはそれがなく、いわゆる“勘と経験”に頼った運営に留まっているのがほとんどです。 その一因として、最近のコールセンタープラットフォームのアプリなどが標準で提供している美麗なデザインのダッシュボードやレポートがあります。日常の運営は勘と経験で成り行きに任せに行い、時折ダッシュボードでその結果だけを“眺めて”済ませてしまうのです。 しかし、センターごとにニーズの異なる評価指標が“既製品”と完ぺきに合致することは、まずありません。 また、最初から用意された“答え”だけを見ていても、それに至るプロセス(データソースや計算式など)を理解していなければ、原因の特定やギャップ分析などができず、PDCAサイクルを回すツールとして機能しません。無理に既製品で済まそうとしても、必要な情報の一覧性に欠けるなど、効率が悪く、早々に頓挫してしまいます。 したがって、既製品に頼るのでなく、それらは“データライブラリー”と考えます。そして、その中から自社のニーズに合ったデータを取り出して、オリジナルのパフォーマンスレポートに反映させます。 もしプラットフォームにカスタマイズの機能があれば、それを活用します。 質の高いセンター運営のためには、そうした加工作業を行ったうえで、今回取り上げたパフォーマンスレポートの“3点セット”を揃えることが重要でしょう。 ※本稿では紙幅の都合でインバウンドコールに絞って解説しましたが、その他のレポートや評価指標については、拙著『コールセンター・マネジメントの教科書』で詳述しています。 Original: 2020年3月25日 - Last modified: 2022年1月14日
この記事はNTTコミュニケーションズ社が運営するビジネスマガジンサイト「Bizコンパス」(現在は非公開)に、「AI時代を生き抜く「本物」のコールセンター運営法」として連載した寄稿を、同社の許諾により転載したものです。なお、同サイトへの掲載時点とは異なる情報や文言表記について、オリジナルの内容を損なわない範囲で更新している場合があります。
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