「変化」「変化」「変化」・・・、コールセンターの上下左右をこの2文字が飛び交っています。 今に始まったことではなく、いつの時代にあっても、常に「変化」がトレンド・ワードであるのがビジネスの世界です。 時代によって多少の強弱はありますが、コールセンター周りを見るならば、近年は圧倒的に「AI」「人手不足」の二大用語とタッグを組んで、「すべてが取って替わる」「だから変化しなきゃいけない!」と危機感煽りまくりの“変化大合唱”時代の真っ只中にあるように思います。 その大合唱をリードするのが、メディア、コンサル、ITベンダーの三者でしょう。
そうすることで新たなマーケットを開拓し利益誘導しようとするのが彼らのビジネス・モデルですから、決して文句を言われる筋合いはないのですが、時折出現する「地に足のついていない」「現場知らず」の論調を見聞きすると、さすがにムムム感を覚えることがよくあるのも事実です。 一方、彼らがそうしてくれることで、多くのコールセンター・マネージャーに気付きを与え、新しい提案やツール、先進事例などが業界を進化させてくれることもあるので、短絡的に悪者扱いするつもりもありません。 しかしながら、最近の大合唱においてお約束のように語られる、 「これまでのコールセンターは効率一辺倒の処理部門に過ぎなかった・・・」 「単に受注や苦情の処理をするだけで顧客に対する関心は低く・・・」 といった論調には強い違和感、いや、「冗談じゃない!」と憤りすら覚えるのです。 でも、そのようなことをもっともらしく語るのが、当時はいなかった、現場のオペレーションの経験がない(代行業者の経験は含みません)人たちがほとんどであり、上記のような論調にすることで、わかりやすいストーリーが描きやすいからだろうなと、無理やり納得して何とか矛をおさめているところです。 声を大にしてハッキリ申し上げます。 「これまでのコールセンターは、顧客満足一辺倒でした。」 かつてのコールセンター=顧客応対の仕事に対する認識は、「顧客に対していかに丁寧に、親切に、感じ良く、間違いなく応対する」という程度でしかありませんでした。 そもそも効率性とか生産性とか、言葉は知っていても、それが自分たちの仕事という発想がなかったのです。 ましてや、そのためのマネジメント手法など、未だに諸外国にくらべて大きく立ち遅れている日本のコールセンターなのですから、その当時に知る由もありませんでした。 確かに「顧客満足一辺倒」と言っても、その考え方や手法は、今の時代に比べれば大変幼稚なものであったのは当然です。 しかし、やり方は素朴でも、1人ひとりの顧客に生身の「人」として真摯に向き合い、心を込めて顧客への尽くし方を一生懸命考え実践していたのが「これまでのコールセンター」でした。 翻って、「これからのコールセンター」。 「これからのコールセンター」とは、「変化の大合唱をリードする人たちが言うところの、これからあるべきコールセンターの姿」という意味合いです。 その「これからのコールセンター」ですが、どう考えても「圧倒的に効率性を先行」しているとしか思えません。 AIにしろロボット化にしろ、いかに仕事を自動化し、人手に頼らない正確で迅速なビジネスを実現するかを追求するものです。 その結果として、顧客にとっての利便性や快適性が向上し(それが優れた顧客体験とかカスタマー・ジャーニーのことですね)、ひいては顧客満足の向上につながるというわけです。 この一連のロジックを採り上げて、「だから、これからのコールセンターは顧客ファーストだ」と言われても納得できないのです。 彼らは、顧客をデジタルでとらえ、プラットフォーム上でいかに自在に操るかに腐心しているのであり(それが彼らの言うところの顧客戦略でしょう)、顧客の1人ひとりに生身の「人」として向き合ってはいないからです。 まとめるならば、「デジタル技術による「超効率化」の追求が、生身の「人」とのコミュニケーションを超える満足を結果的にもたらす」ということになるでしょうか。 だから――「これからのコールセンター」は「超効率至上主義」なのです。 誤解を避けるために申し上げておきたいのは、 だからと言って「これまでのコールセンター」を今後も礼賛し続けるわけでは決してないということです。 今でも国内コールセンターのほとんどは、「これまでのコールセンター」のままであるのが現実です。 科学的で合理的な世界標準のセンター運営の基本すら知らない旧態依然としたコールセンターのままで良いはずがありません。 「これからのコールセンター」へ向けての大きな変化を乗り切るためにも、すべてのコールセンターが、洗練された運営知識とノウハウを習得し実践する必要があることに議論の余地はないのです。 熊澤伸宏(文/Vol.16)
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総合職、一般職などのように、「職能」(注1)で区別をつけたがる日本の企業では、「ジェネラリスト」か「スペシャリスト」かということがよく話題になります。 例えば、どちらが出世に有利なのか、どちらのタイプの人材を採用すべきかといったことです。 では、センター長、マネージャー、スーパーバイザーといったコールセンターのマネジメント(以下、コールセンター・マネージャー)の仕事についてはどうなのでしょう。 「コールセンター・マネジメントの仕事は企業経営の縮図だ」「センター長は中小企業の社長のようだ」と言われるように、コールセンター・マネージャーには「広範な守備範囲」が求められます(注2)。 また、他の一般事務系オフィスワークと比べるとコールセンターのオペレーションは極めてユニークであり、そのマネジメントには「高度な専門性」が要求されます(注3)。 このことから、コールセンター・マネージャーの仕事を「職務」(注4)の観点で考えると、そこにはジェネラリストとスペシャリストの両方の要素が含まれることがわかります。 ところが、日本の企業ではコールセンター・マネージャーは議論の余地なくスペシャリストと決め付けられます。 なぜなら、職能で考える日本の企業では、スペシャリストのことを「特定の部署や業務の専門性を極めた人」と定義するからです。 コールセンター・マネージャーの仕事は、一朝一夕に高い成果を挙げることはできません。 それを極めるには多くの時間がかかるため、必然的にコールセンターに長期間留まることとなり、そのことが、「特定の部署に長く留まる人=スペシャリスト」という決め付けとなるのです。 コールセンター・マネージャーを担うことで、中小企業の社長のような広範な業務を経験することができても、決してジェネラリストとは言われません。 あくまでも、コールセンターという“狭い世界”の専門家という評価を超えることはできないのです。 では、日本の企業におけるジェネラリストとは、どういう人たちのことを言うのでしょうか。 一般的な定義としては、「幅広い分野の知識を持ち組織全体を俯瞰してみることのできる能力を持つ人」となりますが、 ここでいう幅広い分野とは、自社内のさまざまな組織や業務のことを意味します。 つまり、ジョブ・ローテーションにより短期間で社内の多くの部署を経験し、仕事の知識やスキルは広く浅くに留まるものの、協調性やコミュニケーション能力に長け、顔が広く、根回し上手で人望が厚いといったイメージです。 伝統的な日本企業では、このような人、つまりジェネラリストを有能と評価する一方、スペシャリストは、視野が狭い、オタク、わがまま、協調性がないなどネガティブな評価をされる傾向にあります。 スペシャリストと決め付けられるコールセンター・マネージャーも、日本企業においては後者として見られがちなのは残念なことです。 しかし、一歩、会社の外に出るとどうなるでしょう。 社内では有能とされ、出世コースの“日本的ジェネラリスト”は、社外では評価されません。 笑い話にもありますが、「部長やってました」は他社では通用しないのです。 一方、社内では色眼鏡で見られるスペシャリストは、その専門性が大きな武器となり、社外では高く評価されます。 ジェネラリストとしての広範な守備範囲と、スペシャリストとしての高度な専門性を併せ持つコールセンター・マネージャーは、“どこへ行っても役に立つ”有能な人材として、高い評価を得ることができるのです。 つまり、職務を基準に考える労働市場や諸外国では、センター・マネジメントにおける広範かつ豊富な知識、経験、スキル、見識を有するコールセンター・マネージャーこそ、特定の企業や組織に限らず、“どこへ行っても”その能力を発揮し貢献することができる人材と位置づけ、そのような人材のことをジェネラリストと呼びます。 その観点から考えると、“日本的ジェネラリスト”は、特定の企業内でしか役に立たないスペシャリストと定義づけることができそうです。 ちなみに筆者は、8つの企業でコールセンター・マネージャーとして従事しました。 日本企業的観点からは“転職を繰り返し・・・”とネガティブな意味合いで言われましたが、筆者にはそのような感覚はまったくありません。 なぜなら筆者は、30年超にわたって一貫してコールセンター・マネジメントを職とし、一度たりとも“転職”をしていないからです。 そんな経験から声を大にして申し上げたいのは、コールセンター・マネージャーはジェネラリストであり、その知識や経験、スキルは、世の中に広く大きな価値を提供できる仕事であるということです。
注1: 職能 = 仕事をするための能力。日本企業では、純粋な意味での能力よりも、年齢、学歴、経験年数、肩書といった個人の属性を能力判定の基準とする傾向にある
注2、注3: 『コールセンター・マネジメントの教科書』 序章参照 注4: 職務 = 仕事そのもの、またはその内容 熊澤 伸宏(文/Vol.12) 「コールセンターの活動に対する社内の理解がない」「コールセンターの社内における位置づけが低い」といったことが、コールセンターの運営上の課題して必ず挙げられます。
本当にそうなのでしょうか? そしてそれが課題なのでしょうか? 「コールセンターの社内認知度が低い」と多くのセンター管理者が言いますが、今の時代、コールセンターの存在自体を知らない社員がたくさんいるとはとても考えられません。 では、コールセンターのどの部分の認知度が低いのでしょうか。何を根拠に認知度が低いと判断するのでしょうか。社内の他部署との比較でしょうか・・・ 残念ながら、これらを裏付ける具体的な事実やデータを筆者は目にしたことがありません。 視点を変えましょう。 あなたは自社の他部署の仕事のすべてを、正確に把握していますか?――この問いに自信をもってYESと答えられる人は極めてまれなのではないでしょうか。 つまり、「お互いさま」なのです。 総務、広報、財務、法務……どの部署も皆、社内認知度が低いと嘆いています。 マーケティング部門が顧客にDMを発信したことを顧客から知らされたことや、知らないうちにコールセンターの電話番号が広告に掲載されていたことは、「マーケティング部門とコールセンター間のコミュニケーション不足」という具体的な問題であって、「コールセンターの認知度不足」といった漠然とした理由が原因なのではありません。 このことをきちんと認識しないで、ただ「コールセンターの位置づけが低いから・・・」などと嘆いていても、問題は何ひとつ解決しません。 そんな状態を放置している管理者は、まさに「思考停止」状態と言わざるを得ないでしょう。 つまり、「コールセンターの社内認知度が低い」(事実はわかりませんが)ことが課題ではないのです。 課題は、社内のビジネスプロセス、トレーニング、コミュニケーション、サービス・アグリーメントなどにあり、コールセンターの管理者として、問題をこれらに具体的に落とし込んで考え行動することが必要です。 では、具体的にどうすべきか・・・・・・今回は問題提起にとどめ、後日この「コールセンターの教科書コラム」であらためて述べたいと思います。 ちなみに、『コールセンタ・マネジメントの教科書』の第1章(Ⅲ効果的なビジネス・コミュニケーションを構築する)でも述べていますので、ぜひご参照ください。 熊澤 伸宏(文/Vol. 7) 2018年5月30日、『コールセンター・マネジメントの教科書』を発刊しました。
624ページにおよぶこの本に一貫して書かれているのは「基本」です。 私たちは、「基本」という言葉を日常生活のあらゆる場面でごく普通に使いますが、そこには大まかに2つの意味合いがあるように思います。 ひとつは「最も重要なもの」、もうひとつは「初歩的なもの」というニュアンスです。 類語辞典を検索してみると、「起点」「本質」「核心」「真髄」「最重要」といった前者に近い言葉と、「入門」「初級」「初歩」「イロハのイ」といった後者に近い言葉が混在しています。 コールセンターのマネジメントの場面においてはどうでしょう。 筆者の経験からは、圧倒的に後者の意味合いで使われることが多いように思います。 それが最も如実に表れているのが、トレーニング(教育・研修)の分野でしょう。 ほとんどの場合、「基本」と名がつくトレーニングは、新人など経験の浅いスタッフを対象としています。 コールセンター業務の経験がない新任の管理者が受講することはあっても、センター長やマネージャーと呼ばれるポジションの人たちが、「基本」のトレーニングを受けることは極めてまれです。 では、そんなセンター長やマネジャーの人たちには、「基本」がしっかりと身に付いているのでしょうか。 以下は、いずれもコールセンター・マネジメントの「キホンのキ」を理解していない事例ばかりです。 これをお読みのセンター管理者の皆さん、ダイジョーブですよね?
② 500コール × 90%=450コール・・・・・・応答すべきコール数 ③ (450コール × 300秒) ÷3,600秒=37人・・・・・・フル稼働の場合のエージェント数 ④ 37 ÷ 85%=43人・・・・・・稼働率を考慮に入れたエージェント数
いかがでしょう。「基本」を理解している人なら、これらすべてがナンセンスであることをおわかりのはずです。 もしこれらに違和感を感じなければ、あなたのセンターは、顧客、エージェント、企業のいずれにとっても、ハッピーな存在ではないかもしれません。 「基本」の理解や徹底が十分でないことは、正常なセンター運営の妨げとなるからです。 センター・マネジメントにおける「基本」は、決して「初歩的なもの」として軽んずべきものではなく、「最も重要なもの」であることに気付いてください。 確かに時代は大きく変化しています。しかし、時代がどれだけ大きく変化しようと、環境がどれだけ異なろうと、マネジメントの「基本」は普遍であり不変です。 「新しいやり方」は「基本」の上に追加されていくものであることを忘れないでください。 そんな「基本」の重要性について、来たる7月11日、国内屈指のセンター長経験者4名が語ります。 ご興味のあるかたはこちらへ。 熊澤 伸宏(文/Vol. 1) |
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