去る5月29日、「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2019 in 大阪」の特別講演にて、『コールセンターのパフォーマンス評価 “8つの禁じ手”』というタイトルで話をしました。 講演のスライドは、こちら からご覧になるか、ダウンロードすることができます。 筆者は通常、講演のプレゼンテーションのスライドには細かな説明文を書きません。 そのため、今回の講演のスライドを読むだけでは誤解を生じる心配があるため、このコラムで補足の説明をすることにしました。 まず、8つのタイトルですが、これらはすべて“禁じ手”を書いています。 例えば、1. の場合、「サービスレベルを1日平均で評価してはいけない!」と言っているわけです。 決して、「1日平均で評価しよう」というわけではありませんので、くれぐれもご注意を。 それでは、以下、講演のスライドと合わせてお読みください。 1. サービスレベルを1日平均で評価 サービスレベルの本質は、すべての時間帯で目標を達成することにあります(注1)。 1日単位の平均値で評価すべきではありません。 スライドの事例のように、1日の単純平均では目標(80%以上)を達成していますが、大幅に目標を下回った午前中の惨憺たる実態が包み隠されてしまっているからです。 ただし、業績評価や経営レベルへの報告などを、時間帯別におこなうのは現実的ではありません。 そこで、1日以上の単位で実績を表す場合は、スライドの事例に示すように、「絶対値方式」による平均値を使います。 ただし、絶対値方式で目標達成するには、恒常的に安定稼働ができている成熟したセンターでなければ困難です。そうでない場合は、「加重平均方式」による実態に近い平均値を使ってください。 それぞれの計算式は次の通りです。 絶対値方式: 目標達成時間帯のコマ数÷全時間帯コマ数 ※スライドの事例:(6コマ÷9コマ)×100=67% 加重平均方式: コール数比率で重み付けしたサービスレベル実績の合計÷コール数比率の合計 ※スライドの事例:(((65%×0.201)+(70%×0.176)+・・・・・・+(90%×0.069)+(95%×0.066)) ÷(0.201+0.176+・・・・・・+0.069+0.066))×100=77% 2. ファンの声で顧客満足度を評価 世の中には、“おかげさまで顧客満足度ナンバーワンを獲得!”といった広告があふれています。 不思議なのは、同じ業界で競合企業である筈なのに、どの企業も“ナンバーワン”を叫んでいるケースが少なくないことです。 何故そんなことが起こるのでしょうか。 乱暴な言い方をするならば、顧客満足度の高評価を得るのは簡単だからです。 その“やり口”を二つ紹介しましょう。 ひとつは、いわゆる顧客満足度調査のアンケートの質問数を20も30も設けたり、回答形式をほとんど記述式にするなど、とにかく“面倒で時間がかかる”ようにすることです。 一見、顧客満足を重視する企業との印象を受けそうですが、こんな面倒なアンケートに“普通の人”がしっかり回答してくれるでしょうか。 もうひとつは、自社のファン(高度利用者や上得意客など)を対象に、個人あるいはフォーカスグループのインタビューをおこなうことです。 ある企業では、社長自ら顧客を訪問し、その意見を伺うという活動をおこないました。その社長曰く「すべての顧客が我が社のコールセンターを高く評価している」だから「我が社のセンターは質が高い」というものでした。ところが、そのセンターは、外部の調査機関から「根本から改善を要する」という最低レベルの評価を受けていたのです。社長に改善施策を提案しようとしていたセンター長は頭を抱えてしまいました。社長の直接訪問にどんな顧客をお膳立てしたのか――推して知るべしでしょう。 3. 単純二択のポスト・チャット・サーベイ ライブチャットの応対が完了すると、お約束のように、「私たちの対応に満足いただけましたか」と聞かれ、「満足」「不満足」の二者択一による回答を求められます。それがポスト・チャット・サーベイです。 その結果は、ほとんどすべてが、限りなく100%に近い満足度となります。 もし、あなたのセンターが90%を下回るようなら、極めて強い危機感を持ち、直ちにその原因を特定し、改善策を講じてください。 なぜなら、ポスト・チャット・サーベイには、100%近い満足度が得られるという以下のような必然性があるからです。
つまり、ポスト・チャット・サーベイを受けるタイミングでは、満足した顧客しか残っていないということです。 このことを踏まえて、単純二択のポスト・チャット・サーベイの結果をどう評価すべきか、どう扱うべきか、良く考えなければ、大きな勘違いをすることになるでしょう。 4. 稼働率は高いほど良い エージェントの稼働率を、ホテルの客室稼働率や飛行機の座席稼働率などと混同してはいけません。 ホテルや飛行機の稼働率は、高ければ高いほど良いのですが、エージェントの稼働率は、高ければ高いほど、顧客サービスやエージェントの心身の状態の悪化を招きます。 エージェントの稼働率が高いということは、具体的には次のような状態であることを表します。 コール数が増加する ⇒ エージェントが絶え間なく応答している ⇒ エージェントはトイレにも行けず、とにかく忙しい ⇒ 電話がつながりにくくなる ⇒ キューが溜まる ⇒ 平均応答時間が長くなる ⇒ サービスレベルが悪化する ⇒ 顧客はイライラする ⇒ 放棄が増える その結果、顧客の不満が高まり、多くの顧客を失うことになります。 また、エージェントは疲労困憊します。その状況が常態化すると、エージェントの不満が高まり、バーンアウト(燃え尽き)を招き、最後は会社を去ることになります。 稼働率を重要な生産性評価指標と決め付け、その高さを評価するようなセンター管理者には、即刻退場を勧告します。ブラック化を推進してるのと同じことですから。 稼働率は、エージェントの忙しさや心身の状況を測る目安に過ぎません。そもそも、稼働率の数値を見ないと、それがわからないこと自体が、センター管理者として失格ですね。 5. 応答率でつながりやすさを評価 日本企業のコールセンターのガラパゴス状態の象徴である応答率。 いまだに、それが最重要KPIであると盲信するセンターが圧倒的多数であることは、世界の常識からすると、あまりにも恥ずかしいと言わざるを得ません。 普通の人は、30分待たされた挙句につながったコールセンターのことを、“つながりやすい”とは評価しません。 でも、応答率は30分待たせても、最終的につながればOKなのです。 応答率とは、「つながったか、つながらなかったか」を示すに過ぎないからです。 「応答率が高い=つながりやすい」と考えている方は、今すぐにその考えをあらためてください。 繰り返しますが、応答率でつながりやすさはわかりません。 したがって、応答率で顧客満足や顧客経験(CX)のケアなんてできません。 「当社のセンターのKPIは応答率です。そして、今年の最重要課題はCXの向上です。」というあなたの発言が、まったくつじつまの合わない“なんちゃって宣言”であることを自覚してください。 それ以前に、そもそも応答率という概念は、世界のコールセンターセンター・マネジメントの常識には存在しないことを知ってください。 6. 現場の声は顧客の声 「現場の声は顧客の声を映す鏡だ」などと真面目に言うセンター管理者は、ほとんど現場のことを知らない人に違いありません。おそらく、日頃、オペレーションの現場を歩いたこともなければ、エージェントと本音の会話を交わしたこともない人でしょう。 現場(エージェント)の声は顧客の声ではありません。 確かに、エージェントは社内で最も顧客に近い存在ですが、顧客とのコンタクトから生じるさまざまな労苦に直面するのもまた、エージェントです。 そのため、エージェントは、社内外に対する不平不満や被害者意識を持つことになります。 そんなエージェントが代弁する顧客の声には、彼/彼女たちの強いバイアスがかかっています。 現場を歩けばわかります。 多くのエージェントは、たった1件の顧客の苦情を、あたかもすべての顧客の苦情のように表現します(注2)。 センター管理者やマーケティング、あるいは経営者は、本当に顧客の声を活用したいのなら、エージェント任せにしてはいけません。 マーケターが、自分が手掛けたプロモーションの効果を確かめるために自らフィールドウォッチングをするのと同様に、顧客の声は自分の耳で聞くべきです。 7. ライブチャットの効果でコール数削減 ライブチャットを導入するコールセンターのほとんどが、「電話をチャットに置き換えてエージェント数とコストを減らす」ことを目的としています。 しかし、ライブチャットの導入によりコール数を減らすことはできません。 電話による顧客とのコミュニケーションを、ライブチャットに置き換えることはできないからです(注3)。 ライブチャット導入の本質的な目的は、チャットを好む新しい顧客や、チャットにフィットする新しいマーケットを獲得することにあります。つまり、顧客とのコンタクトは減るどころか増えることになります。このことは、こちらの記事 に書きました。 ところが、多くの場合、ライブチャットを導入するとコール数が減ります。 何故なら、問い合わせの起点となるWebサイトで、ライブチャットを利用するように誘導あるいは強制するからです。 これがWeb起点の顧客サービスの、企業側にとっての大きなメリットです。Webサイトの作り方ひとつで、顧客を思い通りに操ることができるのですから。 でも、これは、あくまでも企業側の恣意的な操作であり、顧客の選択ではありません。 つまり、コール数が減ったのではなく、減ったように見えるだけです。 もしかしたら、電話を好む顧客は不満を抱いているかもしれません。 ライブチャットでは埒が明かない問題を抱える顧客を憤慨させているかもしれません。 そんな顧客は、黙って競合他社へ乗り換えることになります。 ライブチャットは電話を置き換えるものではなく、電話と共存する(使い分ける)ツールであり、そこに顧客にとっての大きなメリットが生まれるのです。 8. 予測の正確性を誤差率で評価 コール数などの予測はセンター・マネジメントのはじめの一歩です。 それがなければ、コールセンターの活動は何も始まらないし、その精度いかんで、コールセンターのパフォーマンスに大きな影響を与えることになります。 したがって、「フォーキャスト正確性」はセンター管理者にとっての必須のKPIのひとつです。 ところが、大半のセンター管理者が、その正しい測り方を知らず、予測と実績の誤差の割合(これを「誤差率」と呼びます)で見てしまいます。 スライドの事例をご覧ください。フォーキャスト正確性の目標値は5%とすることが多いので、誤差率-3.4%という結果を“精度が高い予測”と評価してしまいます。 ところが、この-3.4%は、時間帯別に見た場合の、目標から大きく乖離した実績が、“平均のマジック”によって相殺されてしまっており、実態を表していません。 時間帯ごとの正確性は誤差率で構いませんが、1日以上の期間で見る場合は、「絶対誤差率」を使います。 絶対誤差率とは、実績値から正負の符号を取り去った絶対値を%で表したもので、その1日平均のことを「平均絶対誤差率」(MAPE)と呼びます。 絶対誤差率の計算式は、次の通りです。 絶対誤差率=(|実績―予測|÷実績)×100 ※||は||内の数値が絶対値であることを示します。 また、スライドのもう一つの事例では、予測のバラツキを評価する「標準偏差」(数値が小さいほど精度が高い)と、予測と実績の関係性の強さを表す「相関係数」(1.0に近いほど精度が高い)を紹介しています。 左右の表を1日平均の誤差率で比べると、右表の3.5%に対して-0.6%の左表の方が精度が高いように見えます。 しかし、時間帯別に見ると、右表の方がバラツキが少ないことがわかります。これを標準偏差と相関係数で見るならば、いずれも右表の方が精度が高いという結果になります。 このように、正しい方法を知らないことは、真逆の評価をしてしまうことになるので注意が必要です。 以上、8つの禁じ手に対する簡単な説明をしましたが、これらはすべてセンター・マネジメントの基本です。 さらに詳しいことは、『コールセンター・マネジメントの教科書』で解説していますのでご覧ください。
注1: サービスレベルが登場する以前、世界中のコールセンターは、放棄率と平均応答時間の二つを最重要評価指標としていました。しかし、いずれも平均値のため、1日単位で見た場合に、目標を下回った時間帯の実績が、目標を上回った時間帯の実績に相殺されてしまい、真のサービスの実態が見えなくなってしまうという反省から生まれたのがサービスレベルです。したがって、サービスレベルは時間帯ごとの実績を評価するのがあるべき姿なのです。
注2: もちろん、すべてのエージェントが、あるいは、すべてのケースにおいてバイアスがかかるわけではありません。 注3: 単純定型的で正解のある問い合わせなど、ライブチャットにフィットするものは置き換えることが可能です。 熊澤伸宏(文/Vol.25)
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これまで3回にわたり、ライブチャット運営の勘どころについて述べてきました。 今回は、まだまだ誤解の多いライブチャットの運営を“正しく”おこなうために、必ず理解しておきたい鉄則を5つにまとめてシリーズの締めくくりとします。 鉄則その1――ライブチャットは電話を減らすためのものではない 多くのコールセンターが、ライブチャットの導入により“電話を減らす” ことを目的としています。 電話による問い合わせをライブチャットに置き換える ⇒ 電話のエージェント数を減らす ⇒ コストを削減する という理屈なのでしょうが、これが誤りの第一歩です。 ライブチャットを導入する本当の目的は、新たな顧客層を獲得することです。 新たな顧客層とは、「ミレニアル世代」「デジタルネイティブ」などと呼ばれる若年層のことです。 彼らは電話やメールよりもライブチャットを好みます。その方が簡単で早く済むからです。 新しい顧客を増やすわけですから、顧客とのコンタクトは減るどころか増えるのです。 つまり、これまで電話やメールをメインに使ってきたコールセンターがライブチャットを導入することで、彼らとのコンタクトの機会を増やすことができるのです。その結果、セールスの拡大やサービスの強化につながります。 これがライブチャット導入の本質です。 ちなみに、“チャットの導入で電話が減った”という話を耳にします。 それは、企業の側が、顧客に電話よりもチャットを使うよう誘導、あるいは強制するからです。 顧客に選択肢を与えずに、“チャットが支持された”“チャットが電話の代替を果たしている”などと評価するのは、あまりに滑稽と言わざるを得ません。 鉄則その2――むしろ電話よりも高い “チャットは同時セッションができるからエージェント数を減らせることができ、その分人件費が安く済む”と言われますが、それはカスタマーサポート系の一部に限った話であり、大半の、特にカスタマーサービス系のコールセンターには当てはまりません。 なぜなら、ライブチャットの平均処理時間(AHT)は、電話よりも長くなるからです。 ただでさえ電話よりも長いのに、同時セッションにより、AHTはさらに長くなります。同時セッションが2件の場合、一般的にAHTは電話の2倍の長さになります。 単純に考えれば、同時セッションが2件でAHTが2倍ということは、結局のところ電話もライブチャットも必要なリソース(エージェント数や人件費)は変わらないことになります。 また、同時セッションが増えるとエラーが増すなどして、顧客満足が低下することもわかっています。 それをリカバーするための対策を講じる必要があり、そのための追加のコストが必要となります。 そのことも踏まえて、カスタマーサービス系のセンターでは同時セッションは最大2件まで、カスタマーサポート系のセンターでは3件までとするのが一般的です。 さらに、単純定型的な問い合わせが、電話からライブチャットへシフトすることにより、電話には高度で難解、あるいは時間のかかる問い合わせが集中するようになります。そのために、電話のエージェントのトレーニングやナレッジベースの強化、優秀な人材の確保など、新たな投資が必要になります。 これらを考え合わせると、ライブチャットの導入は、コストの増加圧力を高めると考えるべきです。 ※鉄則その2については、ライブチャットの運営シリーズ第2回「本当に電話はチャットより安いのか」も合わせてご覧ください。 鉄則その3――置き換えるのでなく使い分ける 電話/人/コストを減らすというのは、電話をライブチャットに“置き換える”という発想です。 が、それができるのは、“正解を回答する”ことを目的としたカスタマーサポート系の単純定型的な問い合わせに限られます。顧客と“コミュニケーションする”ことを目的としたカスタマーサービス系の問い合わせをライブチャットに置き換えるのは極めて困難です。 これは、両者のコミュニケーションツールとしての性格や使い方が異なることを意味します。それぞれを好む顧客層も異なります。タイプや顧客層が異なるのですから、両者を置き換えることはできないということです。 つまり、置き換えるのでなく、“使い分ける”と考えるべきなのです。 ライブチャットは、“正解を回答する”ことを目的としたカスタマーサポート系の単純定型的な問い合わせにフィットし、その手軽さやスピーディーさから若年層に好まれます。 電話は、“顧客とコミュニケーションする”ことを目的としたカスタマーサービス系の問い合わせに最適なのは言うまでもありません。 ただし、ライブチャットがカスタマーサービス系のコールセンターでまったく使えないというわけではありません。 メインのツールにはなり得ませんが、テキストや画像、URLの送信など、電話を補完するツールとしては大変有効に機能します。 鉄則その4――単純二択のポスト・チャット・サーベイで満足度は測れない ライブチャットの運営シリーズ第1回「ライブチャットの測定指標」で、ライブチャットのマネジメントに必要な24の指標を示しました。 そのうち経営レベルで最も重要と言えるのが、顧客満足度(C-SAT)でしょう。 おそらく、ライブチャットを利用する企業のほとんどが、C-SATを見ていると思われます。 というのは、ライブチャットは「ポスト・チャット・サーベイ」(問い合わせ完了後におこなうアンケート)が大変やりやすく、ほとんどすべてのライブチャット・アプリにその機能が備わっているからです。 そして、そのほとんどの結果が、満足度90%を優に上回っています。そのため、どの企業もその結果を喧伝することになります(どのサイトを見ても満足度が高いのはそのためです)。 そうなるのは、ライブチャット・アプリのアンケートは、そのほとんどが、Yes/Noの単純二択式だからです。 しかし、その方法で得られた回答をもって顧客満足度を評価するのは、あまりに乱暴です。 前述のようなライブチャットの性格などを考えれば、単純二択の設問で得られる回答は、用件が“完了したか、しなかったか”の結果に過ぎないと解釈すべきです。 さらに、ライブチャットの特徴として、不満足な顧客はライブチャットの応対が完了する前に離脱しており、ポスト・チャット・サーベイでは、不満足度が反映されないことも認識すべきです。 鉄則その5――ライブチャットはサービスレベル・コンタクト ライブチャットは「サービスレベル・コンタクト」(注1)です。 テキストによるコミュニケーションという見かけから、メールと同類とみなし、その運営、特にワークフォース・マネジメントをメールと同じく「レスポンスタイム・コンタクト」(注2)としておこなうセンターが大半と言ってよいほど、理解が不足しています。 それでも日本では、まだライブチャットのボリュームが少ないため、結果オーライの状況にありますが、今後のボリューム増を考えると、このままでは立ち行かなくなるのは火を見るより明らかです。 昨年おこなわれた米国のベンチマーク調査では、顧客によるチャット・リクエストの何と21%に企業からの応答がないという悲惨な状況が浮き彫りになりました。 実は日本でも、いくつかの大型センターで、“つながらないチャット窓口”が出現しています。 かつての電話と同じことを繰り返さないよう、サービスレベル・コンタクトによるマネジメントの理解と実践が急がれます。 ※サービスレベル・コンタクトによる要員数算出については、ライブチャットの運営シリーズ第3回「ライブチャットのエージェント数を算出する」 をご覧ください。
注1: ランダム着信、同期コミュニケーション、即時処理、待機時間の発生、処理の重なりが発生といった性格を持つコンタクトタイプのこと。ワークロード人数よりも多くの要員数が必要で、アーランC式により人数を算出する
注2: 非同期コミュニケーション、連続処理という性格を持ち、コールセンターによるコントロールが可能。ワークロード人数と要員数が等しい 熊澤伸宏(文/Vol.24) コールセンターが最も重視する評価指標は、依然としてC-SAT(顧客満足度)である一方、NPS®(net promoter score; ネット・プロモーター・スコア)は低下傾向にあることが話題になっています。 これは、英国の最大級のコールセンター・マネジメント関連オンライン情報誌であるCall Centre Helper社による最新(2018年)の調査の結果(注1)によるものです。 ちなみに筆者がこの調査を採り上げるのは、日本のコールセンターの将来を占うには、その先行指標として英国の動向が最もフィットすること(注2)、また、同社の性格から“大人の事情”によるバイアスがかかっていないこと がその理由です。 では結果を見てみましょう。 もはや伝統的指標とも言えるC-SATですが、93.1%のコールセンターが最も重要な評価指標であると位置づけており、ここ数年の調査においては、断トツ1位の座が揺らぐ気配もありません。 一方のNPSは、32.8%にとどまり、これは前年(2017年)に比べて3.3ポイント低下しました。 さらに注目すべきは、40.3%ものコールセンターが、NPSを“重要ではない”としていることです(注3)。 一時は、C-SATに取って代わる勢いでもてはやされたNPSですが、その“流行”も後退しつつあるようです。 そういえば日本でも、コールセンター関連のメディアなどで、あれほど騒がれていたNPSの話題を、最近はほとんど見かけなくなりました。 その理由として第一に考えられるのは、NPSの「この企業(製品/サービス/ブランド)を友人や同僚に薦める可能性は、どのくらいありますか?」という質問は、企業(製品/サービス/ブランド)全体に対する評価には適しているものの、コールセンター、さらにはエージェントの評価としては扱いにくいことにあるでしょう。 なぜなら、製品の包装が破れていれば、どんなにコールセンターのエージェントが完ぺきな応対をしようともNPSの良い評価を得ることはできないからです。 C-SATも、「満足いただけましたか」の単純な質問だけでは、コールセンターやエージェントに特定した評価を得られない場合がありますが、質問の内容や回答方法などをしっかりと設計することで、エージェント個人の評価にまで具体的に落とし込むことが可能です(注4)。 NPSにも「薦める可能性は・・・」のメインの質問に、個別のパフォーマンスを特定する質問を加えるなどの方法論がありますが、決して容易ではないようです。 このような両者の特徴を考えれば、まずは“自分たち”の評価を得たいコールセンターとしては、C-SATの方を重視するのは当然の成り行きでしょう。 それでも、NPSは企業全体の顧客戦略やマーケティングの観点においては、極めて重要な指標であることに変わりはありません。 顧客の購買行動など、ビジネスへの直接的な貢献度はNPSの方がC-SATよりも相関性が高いことが明らかになっていますし、その点ではC-SATでは歯が立たないのも事実です。 つまり、NPSかC-SATかの二者択一の議論ではなく、両者の性格や違いを理解したうえで、それぞれを適切に使い分けることが必要だということです。 したがって、上述の調査の結果は、“C-SATが増えたからNPSが減った”と解釈すべきではないのです。 なお、NPSが低下傾向にあるというのは、コールセンターの評価指標として導入したが期待外れに終わった、あるいは、NPSによる評価はマーケティングや企画部門などにシフトした、といったことが考えられるかもしれません。 以上のような観点を踏まえて、『コールセンター・マネジメントの教科書』では、C-SATをコールセンターの主要な23の評価指標である「オペレーショナル・パフォーマンス・メトリクス」として位置づけ、NPSはマーケティング関連指標として、「ビジネス・エフェクティブネス(効果性)・メトリクス」に含めています(注5)。
Net Promoter®およびNPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
注1: “What Contact Centres Are Doing Right Now (2018 Edition) – How Do You Compare?”. 英国を中心とする350を超えるコールセンターに45の質問を通じて最新の動向を把握する調査 注2: コールセンターの調査・統計データは質量ともに欧米が抜きんでているが、米国の場合、コールセンターのスケールが日本より大き過ぎるきらいがある一方、英国を中心とする欧州のセンターは、そのサイズ、技術、カルチャーなど日本に近い感がある 注3: この調査はC-SATとNPSを直接対決で比較しているわけではないため、他の指標の増減が両者の結果に影響していることを考慮しておくべき。つまり両者の比較ではなく、個々の独立した結果とてみる必要があるということ 注4: 『コールセンター・マネジメントの教科書』 第5章でコールセンターの顧客満足度調査の設計について詳しく解説 注5: 『コールセンター・マネジメントの教科書』 第6章 コールセンターの業績評価指標 を参照 熊澤伸宏(文/Vol.19)
「月刊コールセンタージャパン」の調査によれば、全体のおよそ半数のコールセンターが「顧客がコールセンターに電話をかける理由(=コンタクト・リーズン)を集計している」とのことです(注1)。 みなさんのセンターではいかがでしょう。 もしまだであれば、今日からすぐに集計を始めることをおすすめします。 コールセンターの運営を改善するヒントがたくさん得られるからです。 もちろん、ただ単に集計するだけでは何の価値も得られません。 いったいどのような活用方法が考えられるでしょうか。 私が在籍するセンターでは3つの目的でコンタクト・リーズンを集計、分析し、活用しています。 ① 異常値を検知する ② 応対品質、生産性を管理する ③ カスタマー・エキスペリエンス(customer experience; CX)を向上する ここで重要な点は、「コンタクト・リーズンは複眼的な視点で集計し分析すると活用の幅が広がる」と理解することです。 たとえば、①の「異常値を検知する」では、「受注」「問い合わせ」といったコンタクト・リーズンごとの平均処理時間(average handle time; AHT)を見ています。 それによると、「受注」のコンタクトのプロセスは標準化が図られているため、通常はAHTは大きく変化しませんが、年末の時期に限ってエージェントが顧客に案内する注意事項が増えるため、通常の時期に比べて「受注」のAHTが増加することがわかっています。 したがって、通常の時期なのに「受注」のAHTが増加した場合、他のプロセスで問題が起きているのでは?という仮説のもとに、即座に事実を検証し把握することができ、その改善のための機会を逃しません。 このように、コンタクト・リーズンごとのAHTを見ることで、センター全体のAHTを見ているだけでは把握できない「異常値を検知する」ことができるのです。 もしまだコンタクト・リーズンの集計をしていなければ、まずはその分類と集計から始めてください。 その上で、分類したリーズンごとのAHTのデータを取り、その増減の原因を特定してください。 さらにその原因を、「恒常的な事実」と「一時的な事実」に仕分けることで、上記の例のように、異常値が発生した時も、迅速、的確な対処が可能となります。 さらにそのデータは、コール数の予測のための貴重なデータとして有効に活用することができます(注2)。 コンタクト・リーズンとAHTを複眼的な視点で分析し、コールセンターのマネジメントに活用していきましょう。
2018年5月30日、『コールセンター・マネジメントの教科書』を発刊しました。
624ページにおよぶこの本に一貫して書かれているのは「基本」です。 私たちは、「基本」という言葉を日常生活のあらゆる場面でごく普通に使いますが、そこには大まかに2つの意味合いがあるように思います。 ひとつは「最も重要なもの」、もうひとつは「初歩的なもの」というニュアンスです。 類語辞典を検索してみると、「起点」「本質」「核心」「真髄」「最重要」といった前者に近い言葉と、「入門」「初級」「初歩」「イロハのイ」といった後者に近い言葉が混在しています。 コールセンターのマネジメントの場面においてはどうでしょう。 筆者の経験からは、圧倒的に後者の意味合いで使われることが多いように思います。 それが最も如実に表れているのが、トレーニング(教育・研修)の分野でしょう。 ほとんどの場合、「基本」と名がつくトレーニングは、新人など経験の浅いスタッフを対象としています。 コールセンター業務の経験がない新任の管理者が受講することはあっても、センター長やマネージャーと呼ばれるポジションの人たちが、「基本」のトレーニングを受けることは極めてまれです。 では、そんなセンター長やマネジャーの人たちには、「基本」がしっかりと身に付いているのでしょうか。 以下は、いずれもコールセンター・マネジメントの「キホンのキ」を理解していない事例ばかりです。 これをお読みのセンター管理者の皆さん、ダイジョーブですよね?
② 500コール × 90%=450コール・・・・・・応答すべきコール数 ③ (450コール × 300秒) ÷3,600秒=37人・・・・・・フル稼働の場合のエージェント数 ④ 37 ÷ 85%=43人・・・・・・稼働率を考慮に入れたエージェント数
いかがでしょう。「基本」を理解している人なら、これらすべてがナンセンスであることをおわかりのはずです。 もしこれらに違和感を感じなければ、あなたのセンターは、顧客、エージェント、企業のいずれにとっても、ハッピーな存在ではないかもしれません。 「基本」の理解や徹底が十分でないことは、正常なセンター運営の妨げとなるからです。 センター・マネジメントにおける「基本」は、決して「初歩的なもの」として軽んずべきものではなく、「最も重要なもの」であることに気付いてください。 確かに時代は大きく変化しています。しかし、時代がどれだけ大きく変化しようと、環境がどれだけ異なろうと、マネジメントの「基本」は普遍であり不変です。 「新しいやり方」は「基本」の上に追加されていくものであることを忘れないでください。 そんな「基本」の重要性について、来たる7月11日、国内屈指のセンター長経験者4名が語ります。 ご興味のあるかたはこちらへ。 熊澤 伸宏(文/Vol. 1) |
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