私が飛行機を利用する時に愛用しているのが、蒸気温熱マスクです。 離陸する直前に装着すれば、安定飛行に移るまでの15~20分が、早朝の眠気を覚ましたり、一日の疲れを癒すのにちょうど良い時間になるというわけです。 そのほか、長距離運転や仕事の小休止(昼寝のことです)の際にも欠かせないアイテムですね。 この蒸気温熱マスクが、コールセンターのエージェントの疲労回復に効果があることが、産業医科大学による調査(注1)で明らかにされています。 この調査は、1日4時間以上の拘束型VDT作業(注2)に従事するコールセンターのエージェントを、蒸気温熱マスク(以下「温熱マスク」)を使用するグループと温熱効果のないアイマスク(以下「一般マスク」)を使用するグループに分け、それぞれのアイマスクを就寝時に使用して、疲れ目の自覚症状の改善度合いを両グループ間で比較・検証したものです。 その結果、温熱マスクを使用したグループでは、疲れ目に関するほとんどの症状が、また、一般マスクを使用したグループでは目の疲れとかすみの2つの症状において有意な改善が見られました。 そして、目の疲れ、目の乾き、肩こりについては、温熱マスクの方が一般マスクよりも有意に高い改善が見られました。 この結果から、一般マスクでも疲れ目を軽減することはできますが、温熱マスクであれば、さらに高い改善効果が得られることがわかったのです。 さらに、温熱マスクでは、イライラや不眠においても改善が認められました。 このことは、温熱マスクには、VDT作業による疲れ目などの身体的疲労だけでなく、精神的疲労の改善も期待できることを示しています。 このように、その効果が科学的に証明されているわけですから、エージェントの健康管理や生産性向上の一助として、温熱マスクを積極的かつ安心して使うことをおすすめします。 昨今、エージェントの労働環境の改善というと、豪華な休憩室作りに走る例などが多く見られますが、それ以前に、エージェント業務のもっと本質的な部分でサポートできることがあるはずです。 多額のコストを要して作った豪華な休憩室と、1枚100円に満たない温熱マスクとでは、どちらが本当に喜ばれ、具体的な効果を見出すことができるのか、一考の余地があるかもしれません。 ちなみに、上述の調査は就寝時の利用におけるものでしたが、勤務時間内における休憩・休息時間などで利用することもできるでしょう。 温熱マスクの持続時間は10~20分ですから、1回15分が一般的なエージェントの休息時間にはちょうど良いかもしれません。 ちなみに、温熱マスクにはリラックスすることを目的とするタイプと、“もうひとがんばり”することを目的とした爽快感を得られるタイプがありますので、勤務時間中には後者を利用することをおすすめします。
注1: 喜多村紘子, 筒井隆夫, 東昭敏, 堀江正知 『コールセンターの拘束型VDT作業者における蒸気温熱アイマスクによる疲れ目対策(第26回産業医科大学学会総会 学術講演会記録)』 JOURNAL OF UOEH.
注2:拘束型VDT作業とは、コールセンターにおける受注、予約、照会といった業務のように、PCや携帯端末のようなVDT(Visual Display Terminals)機器を使用して、所定の時間、作業場所に在席するよう拘束され、自由に席を立つことが困難な作業をいう 熊澤 伸宏(文/Vol.15)
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このたびの西日本豪雨により被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。 豪雨、地震、火山活動、台風など、多くの自然災害が発生しています。 そのために、保険や運輸・交通系企業を代表格として、さまざまなコールセンターが緊急対応などを強いられることになります。 例えば太陽光発電システムを供給する企業では、住宅が倒壊したり流されてもソーラーパネルは発電を続けるため、電気系統が水に触れることによる感電を回避するための対応に追われているそうです。 このように、顧客のケアや取引先のサポートに追われるコールセンターがある一方、コールセンター自らが被災して通常業務の実施が困難となり、その復旧作業を余儀なくされる場合もあります。 コールセンターが被災し機能停止に陥ることは組織全体にとっての大きなリスクとなるため、2011年の東日本大震災を契機に、多くのセンターで「業務継続計画」(英語の短縮表記でBCP(注1)と呼ばれることが多いですね)の策定が進みました。 しかし、「BCP」の多くは大規模災害を想定したもので、その内容も「業務継続計画」というよりも「災害復旧計画」の色彩が濃いように思われます。 もちろんそれは重要なことですが、コールセンターを襲う災害は今回のような大規模自然災害に限りません。 悪天候や交通機関障害、システム障害やコールの大幅なスパイク(注2)といった“事故レベル”のものは、頻繁に発生しています。 これらはいずれもコールセンターの正常な運営を妨げるものであり、その影響を最小限にとどめるための準備と計画が不可欠ですが、残念ながら多くのコールセンターでは、その備えが十分ではなく、現場の管理者の日常業務の一環として済まされていることが少なくありません。 そのため、障害が発生した時に採られる対策はいつも後手に回り、管理者個人の裁量によるところが大きいため、その場限りの一貫性を欠いたアクションで済まされがちです。 経験が活かされずマニュアル化もされないことで、同じ障害なのに前回より被害を軽減できないのです。 私たちは、大規模災害だけでなく、こうした日常的に発生する障害についても「BCP」を備えておく必要があります。日常的に発生しているのですから、むしろこちらの方が優先度が高いといえるかもしれません。 『コールセンター・マネジメントの教科書』では、第12章でコールセンターの業務継続計画を、日常的業務継続計画としての「BCP」と、災害復旧計画としての「DRP」(注3)とに分類して、それぞれについて解説しています。 7月も後半を迎え、いよいよ台風シーズンに突入です。 近年は台風が大型化し直撃の頻度も増え、限られた時間とはいえセンターをクローズする機会も増えています。 台風が襲来するタイミングは予測できませんが、十分な備えは可能です。 日常的なイベントとして台風が訪れる沖縄県のコールセンターには「台風BCP」が備わっており、淡々と冷静に台風の襲来に対処します。 本土で経験するよりもはるかに強烈な台風の直撃に見舞われますが、それによって沖縄のコールセンターが機能不全に陥ったという話を聞くことがないのは、「台風BCP」の貢献によるものといえます。 『コールセンター・マネジメントの教科書』にその事例を掲載していますので、ぜひ参考にしてください。 ちなみに、沖縄では県花である「デイゴ」の花(上の写真の真っ赤な花です)がたくさん咲くと台風の当たり年だと言われています。今年の咲き具合がどうだったか、確認しておくとよいかもしれません。
注1: BCP = Business Continuity Plan(業務継続計画)の短縮形
注2: スパイク=コールが短時間に過度に集中する状態。コール数の軌跡がスパイク・シューズの針のように尖った形になることから、コールセンターで慣用的に使われる用語 注3: DRP = Disaster Recovery Plan(災害復旧計画)の短縮形 熊澤 伸宏(文/Vol. 5) 2018年5月30日、『コールセンター・マネジメントの教科書』を発刊しました。
624ページにおよぶこの本に一貫して書かれているのは「基本」です。 私たちは、「基本」という言葉を日常生活のあらゆる場面でごく普通に使いますが、そこには大まかに2つの意味合いがあるように思います。 ひとつは「最も重要なもの」、もうひとつは「初歩的なもの」というニュアンスです。 類語辞典を検索してみると、「起点」「本質」「核心」「真髄」「最重要」といった前者に近い言葉と、「入門」「初級」「初歩」「イロハのイ」といった後者に近い言葉が混在しています。 コールセンターのマネジメントの場面においてはどうでしょう。 筆者の経験からは、圧倒的に後者の意味合いで使われることが多いように思います。 それが最も如実に表れているのが、トレーニング(教育・研修)の分野でしょう。 ほとんどの場合、「基本」と名がつくトレーニングは、新人など経験の浅いスタッフを対象としています。 コールセンター業務の経験がない新任の管理者が受講することはあっても、センター長やマネージャーと呼ばれるポジションの人たちが、「基本」のトレーニングを受けることは極めてまれです。 では、そんなセンター長やマネジャーの人たちには、「基本」がしっかりと身に付いているのでしょうか。 以下は、いずれもコールセンター・マネジメントの「キホンのキ」を理解していない事例ばかりです。 これをお読みのセンター管理者の皆さん、ダイジョーブですよね?
② 500コール × 90%=450コール・・・・・・応答すべきコール数 ③ (450コール × 300秒) ÷3,600秒=37人・・・・・・フル稼働の場合のエージェント数 ④ 37 ÷ 85%=43人・・・・・・稼働率を考慮に入れたエージェント数
いかがでしょう。「基本」を理解している人なら、これらすべてがナンセンスであることをおわかりのはずです。 もしこれらに違和感を感じなければ、あなたのセンターは、顧客、エージェント、企業のいずれにとっても、ハッピーな存在ではないかもしれません。 「基本」の理解や徹底が十分でないことは、正常なセンター運営の妨げとなるからです。 センター・マネジメントにおける「基本」は、決して「初歩的なもの」として軽んずべきものではなく、「最も重要なもの」であることに気付いてください。 確かに時代は大きく変化しています。しかし、時代がどれだけ大きく変化しようと、環境がどれだけ異なろうと、マネジメントの「基本」は普遍であり不変です。 「新しいやり方」は「基本」の上に追加されていくものであることを忘れないでください。 そんな「基本」の重要性について、来たる7月11日、国内屈指のセンター長経験者4名が語ります。 ご興味のあるかたはこちらへ。 熊澤 伸宏(文/Vol. 1) |
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