この期に及んで、通常営業(オンサイトのオペレーション)を強行し続けているコールセンターが少なくありません。在宅勤務に不可欠な通信インフラやITツールを提供する企業ですら、その例外ではありません。 この状況は、リスクにさらされながら(もしかしたらリスクを撒き散らしながら)、通勤を余儀なくされているエージェントがたくさんいるということです。本人はもとより、その家族にとっても、毎日どれほどの心配、いや恐怖に苛まれていることでしょう。 それなのに、どうしてオンサイトを続けるのでしょうか。 彼らの言い分を聞くと、そのほとんどが「使命感の履き違え」「思考停止状態の責任転嫁」「時代錯誤の経営者」のいずれかにくくられます。 使命感の履き違え 確かにコールセンターの仕事は「不要不急」ではありません。 この状況だからこそ生じる顧客のさまざまな問題に対するケアは絶対必要です。 例えば、中止になったチケットの払い戻しの案内をしっかりおこなって、顧客を安心させなければなりません。 そのために、いついかなる時も、顧客サービスは継続する必要があるのです。 だからといって、それをオンサイトでやらねばならない理由はどこにもありません。 ましてや、多くのエージェントやその家族をリスクにさらしながら通勤させる理由は絶対にありません。 それでも通勤を強いるセンター長は、コールセンターが典型的な「三密職場」であることを強く自覚すべきです。 日本でも、いくつかのコールセンターで感染者の発生が報道されましたが、幸運にも大事には至っていないようです。 しかし、コールセンターが大規模なクラスターと化した韓国では、政府がコールセンターを最もリスクの高い場所の一つとして特定し、厳しい規制をかけました(注1)。 また、ポルトガルでは、コールセンターワーカーズユニオン(労働組合)が、コールセンターの閉鎖(テレワークへの移行)を条件にストライキを要求しました(注2)。フランス、アメリカ、スペイン、チュニジア、モロッコ、カメルーン、ベルギーなどでも同様の動きが拡がっています。 もはや、世界中でコールセンターが危険な職場であることが認知されている状況において、それでもオンサイトの強行継続を正当化することは、とてもできないでしょう。 思考停止状態の責任転嫁 もちろん、どのセンター長も在宅オペレーションにしたいと思っているはずですが、口を揃えて「そうしたくてもできない」と言うのです。 その理由は、第一にシステム環境です。オンプレミスのPBXだからオンサイトでしか受電できない、クラウドはセキュリティーやシステムダウンが不安、社内の業務システムが外部接続できない、ノートPCを支給できないなど。 もうひとつがビジネスプロセスの問題です。その内容は、センターによって事情が異なりますが、ひっくるめて言うならば、会社にいないと仕事が回らないとか流れないということです。 率直に言って、これらは皆、言い訳であり、責任転嫁に過ぎません。 なぜなら、どれも、“予めわかっていること”、つまり“平時に解決あるいは対策しておくべきこと”ばかりだからです。 そんな彼らに共通するのが、「すべてが平時とまったく同じようにできなければならない」としか考えられない頭の固さです。 感染症、地震、豪雨災害・・・どんな場合でも、有事の時には「できること」と「できないこと」があるのは当たり前です。それくらいの柔軟な思考を持たずに、「あれもできない」「これもできない」、だから「何もやらない」のは、思考停止状態に陥ったセンター長の怠慢としか言いようがありません。 できない理由を並べ立て BCP対策やIT投資を怠ってきたツケが、今まさに回ってきたのです。 こんな時、既存のサービスの低下には、顧客の理解が得られます。 エージェントの健康と生活を守ることを最優先することに、異議を唱える顧客はいません。 そのために、「在宅でできること」に絞ってオペレーションを構築すればよいのです。 キャパシティーの低下は避けられない中、可能な限り安定したオペレーションをおこなうには、電話のようにコントロール困難なチャネルを停止して、メールやWebに集約するのが理想です。 電話を完全停止できない場合は、クラウドサービスです。安価で、すぐに導入できて、期間限定で使えるというのは、一昔前までのオンプレミスオンリーの頃を考えれば、これほど都合の良いものはありません。平時の時の不安感を並べ立てるのでなく、有事の時の使い方を考えましょう。 やり方はいくらでもあります。 ただし、「時差出勤」や「交替制で在宅勤務」などでごまかさないでください。 するべきはオンサイトをやめること=通勤をやめることです。 時代錯誤の精神論を振りかざす経営者 「こういう非常時こそお客さまのために!」などというキレイごとで、出社前提の前時代的な精神論を振りかざす時代錯誤の経営者の存在も少なくないのです。 この人たちは、普段から何か事が起こると、「コールセンターが休日出勤して顧客応対に当たれ!」とお約束のように要求します。とにかく「何が何でも営業続行」であり、戦国時代に例えれば、常に「殿(しんがり)を務めよ」という発想の持ち主です。 そんな人たちが、小池東京都知事の緊急事態対策案の『コールセンターを設立します』に触発され勇気づけられてしまったのですから始末が悪い。 でもそこは、「現場を守る」ために、センター長が勇気を振り絞って闘うことが必要です。 このコラムは2020年4月12日現在の状況に基づき記したものですが、今後、日本でもオンサイトを続けるコールセンターでクラスターが発生し、すべてのセンターの閉鎖要請の発出という事態に見舞われるかもしれません。 そうなれば、顧客に大変な迷惑をかけ、ビジネスに大きな損害を与えること以上に、大多数が時給ワーカーであるエージェントの生活が苦境に陥ることになることも認識しておいてください。 そんなことにならないよう、一刻も早く、在宅オペレーションへの完全移行を実践してください。
注1:“South Korea reports jump in coronavirus cases after call center outbreak.”2020/3/11, REUTERS.
注2:“Union calls for closure of major call centers.”2020/3/13, PUBLICO. “Coronavirus: Call center workers advance to strike.”2020/3/15, PUBLICO. 関連記事 COVID-19:"3密職場"の代表、コールセンターの一刻も早い完全テレワーク化を急げ COVID-19:個人情報はコールセンターがテレワークをしない言い訳にはならない 熊澤伸宏(文/Vol.27)
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