日本企業は、技術系の分野においては世界をリードするプロセスやノウハウを持ちながら、一般事務系オフィスワークにおいてはからきし弱いと言われます。 個人の暗黙知に頼り、集団で助け合いながら仕事をするという日本流のスタイルが、個人の役割や責任をあいまいにし、それによってムリ・ムラ・ムダや無責任体質を引き起こします。 その結果、時間当たりの労働生産性が、主要先進7カ国中37年連続で最下位(日本生産性本部)に甘んじるという不名誉な状況を招いているのです。 この日本流のスタイルでコールセンターのオペレーションを運営しようとするから、上手くいかないのです。 コールセンターのオペレーションは、顧客とエージェントの1対1のコミュニケーションの集合体です。 つまり、仕事の最小単位である1つひとつのコンタクトは、1人ひとりのエージェントが他から明確に独立して仕事をしているため、そこに“集団”が介入する余地はありません。 また、個人の暗黙知に頼ることで、コールセンターの生命線である“一貫性”が損なわれ、次のような事態を招きます。
このような状態から抜け出すために真っ先におこなうべきなのが、仕事の可視化と標準化です。 可視化・標準化するのは、チームの仕事だけでなく、個人(注)の仕事についても必要です。 この、個人の仕事の役割や責任を明確にするのが「ジョブ・ディスクリプション」です。 ジョブ・ディスクリプションには、企業やセンターのミッションや目的を達成するために、各ポジションが果たすべき役割や責任が定義されています。 多くのスタッフが集う一方、1つひとつのコンタクトが独立しているコールセンターだからこそ、全員の意識と行動に一貫性を確保するために、ジョブ・ディスクリプションは必須のツールなのです。 さらに、ジョブ・ディスクリプションが存在することで、自分が担うポジションのあるべき姿と自分の現状とのギャップを具体的に知ることができ、それを埋めるためにスキルや能力の強化を図るなど、自己啓発のためのツールとしても機能します。 ジョブ・ディスクリプションは、コールセンターにとって“Nice-to-have”でなく“Must have”のツールなのです。 ※ジョブ・ディスクリプションについては、『コールセンター・マネジメントの教科書』第2章(P.74~76)で、作成の仕方について詳しく説明しています。また、代表的な7つのポジションのジョブ・ディスクリプションのサンプルを掲載(P.556~564)しています。
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「コールセンターの活動に対する社内の理解がない」「コールセンターの社内における位置づけが低い」といったことが、コールセンターの運営上の課題して必ず挙げられます。
本当にそうなのでしょうか? そしてそれが課題なのでしょうか? 「コールセンターの社内認知度が低い」と多くのセンター管理者が言いますが、今の時代、コールセンターの存在自体を知らない社員がたくさんいるとはとても考えられません。 では、コールセンターのどの部分の認知度が低いのでしょうか。何を根拠に認知度が低いと判断するのでしょうか。社内の他部署との比較でしょうか・・・ 残念ながら、これらを裏付ける具体的な事実やデータを筆者は目にしたことがありません。 視点を変えましょう。 あなたは自社の他部署の仕事のすべてを、正確に把握していますか?――この問いに自信をもってYESと答えられる人は極めてまれなのではないでしょうか。 つまり、「お互いさま」なのです。 総務、広報、財務、法務……どの部署も皆、社内認知度が低いと嘆いています。 マーケティング部門が顧客にDMを発信したことを顧客から知らされたことや、知らないうちにコールセンターの電話番号が広告に掲載されていたことは、「マーケティング部門とコールセンター間のコミュニケーション不足」という具体的な問題であって、「コールセンターの認知度不足」といった漠然とした理由が原因なのではありません。 このことをきちんと認識しないで、ただ「コールセンターの位置づけが低いから・・・」などと嘆いていても、問題は何ひとつ解決しません。 そんな状態を放置している管理者は、まさに「思考停止」状態と言わざるを得ないでしょう。 つまり、「コールセンターの社内認知度が低い」(事実はわかりませんが)ことが課題ではないのです。 課題は、社内のビジネスプロセス、トレーニング、コミュニケーション、サービス・アグリーメントなどにあり、コールセンターの管理者として、問題をこれらに具体的に落とし込んで考え行動することが必要です。 では、具体的にどうすべきか・・・・・・今回は問題提起にとどめ、後日この「コールセンターの教科書コラム」であらためて述べたいと思います。 ちなみに、『コールセンタ・マネジメントの教科書』の第1章(Ⅲ効果的なビジネス・コミュニケーションを構築する)でも述べていますので、ぜひご参照ください。 熊澤 伸宏(文/Vol. 7)
コールセンターの管理者やビジネス・コントローラーが意外に知らない電話の法則があります。 『1時間の間にかかってくる顧客のコールは、正時(注1)を起点に、最初の15分で全体の40%、次の30分(15分~45分)で30%、残りの15分(45分~60分)で残りの30%がかかってくる』 というものです。 多くのコールセンターでは、営業開始時刻(9時が最多数派でしょう)に多くのコールが集中し、フロア全体にエージェントの声が広がって忙しい1日の幕が上がります。 しばらくすると、喧騒が少々落ち着きます。そしてまたしばらくすると、にぎやかになってきます。 このサイクルを、コールセンターの多くの人は、営業開始直後に集中したコールにエージェントが頑張って応答して“スイープ”(注2)したからと考えています。 そのためにコールが減って喧騒が落ち着くというわけです。 確かにエージェントは頑張りました。 しかし、落ち着きの真の理由は、顧客のコール自体が減ったからなのです。 もしスイープが理由であるならば、(そしてベース・エージェント数(注3)がその後も変わらなければ)その後も落ち着いた状態が継続するはずです。 ところが、営業開始から45分経ったあたりから再びざわつき始め、1時間経過し次の時間帯になると喧騒が復活します。 なぜでしょう・・・。 これを説明してくれるのが、冒頭に記した「人は正時に電話をかける」法則です。 電話に限らず、人は何か行動する時に、「〇時になったら◇◇をしよう」という風に正時を起点にすることが多いのです。 最初に、「9時になったらすぐに電話しよう」と営業開始を待っていた顧客が集中します。そして「10時になったら・・・」「11時になったら・・・」という風に続きます。 多くのコールセンター関係者がこの法則を知らないのは、コール数を1時間単位でしか見ていなかったり、ベース・エージェント数が時々刻々と変化するため気付きにくいからでしょう。 しかし、この法則を把握していることで、コール数の予測の精度が高まり、エージェント数やスケジューリングもより的確なものになるはずです。 規模の大きなコールセンターでは、その効果は大きいでしょう。 だからこそ、コール数を15分単位で見ることに大きな意味があるのです。
注1: 正時 = 9時、10時など、分や秒といった端数のつかない時刻
注2: スイープ=特定の時間帯に集中したコールの応答がすべて完了して、コールセンターのフロアに静寂が訪れ、あたかもエージェントがすべてのコールを掃除してなくしたかのような状態 注3: ベース・エージェント数 = 電話オペレーションなど、顧客コンタクト業務をおこなうために配置された実働人数 熊澤 伸宏(文/Vol. 6) 「センター長は中小企業の社長のようだ」などとよく言われるように、コールセンターの管理者は、大変多くの種類の仕事を担っています。 どの仕事も重要であり優劣をつけることはできませんが、強いて言うならば、「ワークフォース・マネジメント」(以下WFM)は、センター管理者にとって最も優先すべき仕事であると言えるでしょう。 なぜなら、WFMはコールセンターのすべての活動の起点としての役割を担っているからです。 WFM自体がさまざまな種類のタスクで構成されていますが、その中心となるのが、「ワークロード(業務量)の正確な予測」と「それに見合った最適なワークフォース(エージェント数)の算出」です。 この2つがしっかり機能することで、下の図に示すように、組織編成から採用、トレーニング、インフラ、設備・機器、予算など、コールセンターの活動に必要なすべてのリソースの質と量が決まります。 そして、無駄なく(効率よく)、質の高いオペレーションが可能となります。 言い換えれば、WFMが機能しなければ、コールセンターの活動は何も始まらないし、それがいい加減であっては、品質や生産性の向上など望むべくもありません。 ところが、コールセンターのメインの仕事であるインバウンド・コールは、一般の事務系オフィスワークと異なり、仕事がランダム(注1)に発生する、業務量をコントロールできない、顧客の姿が見えないといった特性により、ワークロードの予測とワークフォースの算出は困難を極めます。 その一方で、エージェントの人数がたった一人違うだけで顧客サービスに大きな影響を与えること、そして、顧客、エージェント、企業/株主の3大ステークホルダー(注2)の要求にバランスよく応えなければならないといったことから、極めて精緻なワークロードの予測と正確なワークフォースの算出が必要とされます。 そのために、WFMの知識やノウハウが必要なのです。 ヒストリカル・データ、ビジネス・ドライバー、時系列分析、サービスレベル、アーランC式、シュリンケージ、インバース方式、標準偏差、絶対誤差・・・・・・いずれもWFMを実践するために不可欠なキーワードです。 決して上級者や大規模センター向けであるとか、“オタク”の世界ではありません。すべてのセンター長やマネージャーが必ず理解しておくべき基本の用語ばかりです。 すべての活動の起点となるWFMに手を抜くわけにはいきません!
2018年5月30日、『コールセンター・マネジメントの教科書』を発刊しました。
624ページにおよぶこの本に一貫して書かれているのは「基本」です。 私たちは、「基本」という言葉を日常生活のあらゆる場面でごく普通に使いますが、そこには大まかに2つの意味合いがあるように思います。 ひとつは「最も重要なもの」、もうひとつは「初歩的なもの」というニュアンスです。 類語辞典を検索してみると、「起点」「本質」「核心」「真髄」「最重要」といった前者に近い言葉と、「入門」「初級」「初歩」「イロハのイ」といった後者に近い言葉が混在しています。 コールセンターのマネジメントの場面においてはどうでしょう。 筆者の経験からは、圧倒的に後者の意味合いで使われることが多いように思います。 それが最も如実に表れているのが、トレーニング(教育・研修)の分野でしょう。 ほとんどの場合、「基本」と名がつくトレーニングは、新人など経験の浅いスタッフを対象としています。 コールセンター業務の経験がない新任の管理者が受講することはあっても、センター長やマネージャーと呼ばれるポジションの人たちが、「基本」のトレーニングを受けることは極めてまれです。 では、そんなセンター長やマネジャーの人たちには、「基本」がしっかりと身に付いているのでしょうか。 以下は、いずれもコールセンター・マネジメントの「キホンのキ」を理解していない事例ばかりです。 これをお読みのセンター管理者の皆さん、ダイジョーブですよね?
② 500コール × 90%=450コール・・・・・・応答すべきコール数 ③ (450コール × 300秒) ÷3,600秒=37人・・・・・・フル稼働の場合のエージェント数 ④ 37 ÷ 85%=43人・・・・・・稼働率を考慮に入れたエージェント数
いかがでしょう。「基本」を理解している人なら、これらすべてがナンセンスであることをおわかりのはずです。 もしこれらに違和感を感じなければ、あなたのセンターは、顧客、エージェント、企業のいずれにとっても、ハッピーな存在ではないかもしれません。 「基本」の理解や徹底が十分でないことは、正常なセンター運営の妨げとなるからです。 センター・マネジメントにおける「基本」は、決して「初歩的なもの」として軽んずべきものではなく、「最も重要なもの」であることに気付いてください。 確かに時代は大きく変化しています。しかし、時代がどれだけ大きく変化しようと、環境がどれだけ異なろうと、マネジメントの「基本」は普遍であり不変です。 「新しいやり方」は「基本」の上に追加されていくものであることを忘れないでください。 そんな「基本」の重要性について、来たる7月11日、国内屈指のセンター長経験者4名が語ります。 ご興味のあるかたはこちらへ。 熊澤 伸宏(文/Vol. 1) |
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