仕事柄、いろいろな企業のコールセンターを訪問する機会があります。
初めての訪問の場合、まず、その企業やコールセンターの説明を受けることになりますが、 その際にいつも、日本企業と欧米企業との大きな違いを感じています。 それは・・・ 欧米企業では、必ずと言って良いほど、最初に組織図を見せられます。 組織図を見ながら、業務の概要などの説明を受けるのです。 欧米企業は、仕事の在り方と組織の形状が合致しており、矛盾がありません。 また、一人一人のスタッフの職務(役割、機能、権限)が明確で、それらがそのまま組織図に反映されています。 したがって、組織図を見れば、その企業やセンターがどのように仕事をし、 チームや個人がどんな役割や責任を担っているかを一目瞭然で理解できるのです。 一方、日本企業の場合は、組織図を見せられることはありません。 リクエストしても、すぐには出てきません。 なぜなら、「組織図なんて作ってない」からです。 それならばと作成をお願いしても、その出来上がりは、組織図というよりも「人員一覧表」程度でしかありません。 それを見ただけでは、仕事の概要はおろか、時には部署名すら曖昧でよくわからないのです。 とてもトレーニングや第三者への説明に使える代物ではありません。 どうしてそうなってしまうのか尋ねると、「いろいろあるから」だそうです。 例えば、人事上の上司部下の関係と実務上のそれとが異なっていたり、恒常的な業務と単発のプロジェクトとの区別がついていなかったり、管理職でないのにSVと称してエージェントの業績評価をしていたり・・・など、 「いろいろ」は枚挙にいとまがありません。 これでは、組織図が書けないのも無理はありませんね。 こうなってしまう原因は、日本企業の組織が仕事と連動していないことにあるように思います。 属人的、とよく言われるように、日本企業の多くは、仕事でなく人を起点に組織や仕事の分担が決められるため、一つ一つの仕事の役割、機能、権限などが明確にされず曖昧です。 明確でなくても、集団で助け合って仕事をこなしていくので、それで済んでしまうのです。 ちなみに日本企業でジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が滅多に作られないのは、そのためです。 伝統的な一般事務系オフィスワークなら、それで済むかもしれませんが、 多くの人材を抱え、一貫性を旗印に組織で仕事をするコールセンターにとっては、まさにそのことが致命傷になります。 組織図が描けない組織には、例えば次のような症状が表れます。
こんなやり方で仕事をしている限りは、組織図なんて必要ないし、描こうと思っても描けないのです。 このように見ると、コールセンターにとっての組織図とは、組織がしっかり機能しているか、そうでないかを示すバロメーターだと言えそうです。 熊澤伸宏(文/Vol.26)
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去る5月29日、「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2019 in 大阪」の特別講演にて、『コールセンターのパフォーマンス評価 “8つの禁じ手”』というタイトルで話をしました。 講演のスライドは、こちら からご覧になるか、ダウンロードすることができます。 筆者は通常、講演のプレゼンテーションのスライドには細かな説明文を書きません。 そのため、今回の講演のスライドを読むだけでは誤解を生じる心配があるため、このコラムで補足の説明をすることにしました。 まず、8つのタイトルですが、これらはすべて“禁じ手”を書いています。 例えば、1. の場合、「サービスレベルを1日平均で評価してはいけない!」と言っているわけです。 決して、「1日平均で評価しよう」というわけではありませんので、くれぐれもご注意を。 それでは、以下、講演のスライドと合わせてお読みください。 1. サービスレベルを1日平均で評価 サービスレベルの本質は、すべての時間帯で目標を達成することにあります(注1)。 1日単位の平均値で評価すべきではありません。 スライドの事例のように、1日の単純平均では目標(80%以上)を達成していますが、大幅に目標を下回った午前中の惨憺たる実態が包み隠されてしまっているからです。 ただし、業績評価や経営レベルへの報告などを、時間帯別におこなうのは現実的ではありません。 そこで、1日以上の単位で実績を表す場合は、スライドの事例に示すように、「絶対値方式」による平均値を使います。 ただし、絶対値方式で目標達成するには、恒常的に安定稼働ができている成熟したセンターでなければ困難です。そうでない場合は、「加重平均方式」による実態に近い平均値を使ってください。 それぞれの計算式は次の通りです。 絶対値方式: 目標達成時間帯のコマ数÷全時間帯コマ数 ※スライドの事例:(6コマ÷9コマ)×100=67% 加重平均方式: コール数比率で重み付けしたサービスレベル実績の合計÷コール数比率の合計 ※スライドの事例:(((65%×0.201)+(70%×0.176)+・・・・・・+(90%×0.069)+(95%×0.066)) ÷(0.201+0.176+・・・・・・+0.069+0.066))×100=77% 2. ファンの声で顧客満足度を評価 世の中には、“おかげさまで顧客満足度ナンバーワンを獲得!”といった広告があふれています。 不思議なのは、同じ業界で競合企業である筈なのに、どの企業も“ナンバーワン”を叫んでいるケースが少なくないことです。 何故そんなことが起こるのでしょうか。 乱暴な言い方をするならば、顧客満足度の高評価を得るのは簡単だからです。 その“やり口”を二つ紹介しましょう。 ひとつは、いわゆる顧客満足度調査のアンケートの質問数を20も30も設けたり、回答形式をほとんど記述式にするなど、とにかく“面倒で時間がかかる”ようにすることです。 一見、顧客満足を重視する企業との印象を受けそうですが、こんな面倒なアンケートに“普通の人”がしっかり回答してくれるでしょうか。 もうひとつは、自社のファン(高度利用者や上得意客など)を対象に、個人あるいはフォーカスグループのインタビューをおこなうことです。 ある企業では、社長自ら顧客を訪問し、その意見を伺うという活動をおこないました。その社長曰く「すべての顧客が我が社のコールセンターを高く評価している」だから「我が社のセンターは質が高い」というものでした。ところが、そのセンターは、外部の調査機関から「根本から改善を要する」という最低レベルの評価を受けていたのです。社長に改善施策を提案しようとしていたセンター長は頭を抱えてしまいました。社長の直接訪問にどんな顧客をお膳立てしたのか――推して知るべしでしょう。 3. 単純二択のポスト・チャット・サーベイ ライブチャットの応対が完了すると、お約束のように、「私たちの対応に満足いただけましたか」と聞かれ、「満足」「不満足」の二者択一による回答を求められます。それがポスト・チャット・サーベイです。 その結果は、ほとんどすべてが、限りなく100%に近い満足度となります。 もし、あなたのセンターが90%を下回るようなら、極めて強い危機感を持ち、直ちにその原因を特定し、改善策を講じてください。 なぜなら、ポスト・チャット・サーベイには、100%近い満足度が得られるという以下のような必然性があるからです。
つまり、ポスト・チャット・サーベイを受けるタイミングでは、満足した顧客しか残っていないということです。 このことを踏まえて、単純二択のポスト・チャット・サーベイの結果をどう評価すべきか、どう扱うべきか、良く考えなければ、大きな勘違いをすることになるでしょう。 4. 稼働率は高いほど良い エージェントの稼働率を、ホテルの客室稼働率や飛行機の座席稼働率などと混同してはいけません。 ホテルや飛行機の稼働率は、高ければ高いほど良いのですが、エージェントの稼働率は、高ければ高いほど、顧客サービスやエージェントの心身の状態の悪化を招きます。 エージェントの稼働率が高いということは、具体的には次のような状態であることを表します。 コール数が増加する ⇒ エージェントが絶え間なく応答している ⇒ エージェントはトイレにも行けず、とにかく忙しい ⇒ 電話がつながりにくくなる ⇒ キューが溜まる ⇒ 平均応答時間が長くなる ⇒ サービスレベルが悪化する ⇒ 顧客はイライラする ⇒ 放棄が増える その結果、顧客の不満が高まり、多くの顧客を失うことになります。 また、エージェントは疲労困憊します。その状況が常態化すると、エージェントの不満が高まり、バーンアウト(燃え尽き)を招き、最後は会社を去ることになります。 稼働率を重要な生産性評価指標と決め付け、その高さを評価するようなセンター管理者には、即刻退場を勧告します。ブラック化を推進してるのと同じことですから。 稼働率は、エージェントの忙しさや心身の状況を測る目安に過ぎません。そもそも、稼働率の数値を見ないと、それがわからないこと自体が、センター管理者として失格ですね。 5. 応答率でつながりやすさを評価 日本企業のコールセンターのガラパゴス状態の象徴である応答率。 いまだに、それが最重要KPIであると盲信するセンターが圧倒的多数であることは、世界の常識からすると、あまりにも恥ずかしいと言わざるを得ません。 普通の人は、30分待たされた挙句につながったコールセンターのことを、“つながりやすい”とは評価しません。 でも、応答率は30分待たせても、最終的につながればOKなのです。 応答率とは、「つながったか、つながらなかったか」を示すに過ぎないからです。 「応答率が高い=つながりやすい」と考えている方は、今すぐにその考えをあらためてください。 繰り返しますが、応答率でつながりやすさはわかりません。 したがって、応答率で顧客満足や顧客経験(CX)のケアなんてできません。 「当社のセンターのKPIは応答率です。そして、今年の最重要課題はCXの向上です。」というあなたの発言が、まったくつじつまの合わない“なんちゃって宣言”であることを自覚してください。 それ以前に、そもそも応答率という概念は、世界のコールセンターセンター・マネジメントの常識には存在しないことを知ってください。 6. 現場の声は顧客の声 「現場の声は顧客の声を映す鏡だ」などと真面目に言うセンター管理者は、ほとんど現場のことを知らない人に違いありません。おそらく、日頃、オペレーションの現場を歩いたこともなければ、エージェントと本音の会話を交わしたこともない人でしょう。 現場(エージェント)の声は顧客の声ではありません。 確かに、エージェントは社内で最も顧客に近い存在ですが、顧客とのコンタクトから生じるさまざまな労苦に直面するのもまた、エージェントです。 そのため、エージェントは、社内外に対する不平不満や被害者意識を持つことになります。 そんなエージェントが代弁する顧客の声には、彼/彼女たちの強いバイアスがかかっています。 現場を歩けばわかります。 多くのエージェントは、たった1件の顧客の苦情を、あたかもすべての顧客の苦情のように表現します(注2)。 センター管理者やマーケティング、あるいは経営者は、本当に顧客の声を活用したいのなら、エージェント任せにしてはいけません。 マーケターが、自分が手掛けたプロモーションの効果を確かめるために自らフィールドウォッチングをするのと同様に、顧客の声は自分の耳で聞くべきです。 7. ライブチャットの効果でコール数削減 ライブチャットを導入するコールセンターのほとんどが、「電話をチャットに置き換えてエージェント数とコストを減らす」ことを目的としています。 しかし、ライブチャットの導入によりコール数を減らすことはできません。 電話による顧客とのコミュニケーションを、ライブチャットに置き換えることはできないからです(注3)。 ライブチャット導入の本質的な目的は、チャットを好む新しい顧客や、チャットにフィットする新しいマーケットを獲得することにあります。つまり、顧客とのコンタクトは減るどころか増えることになります。このことは、こちらの記事 に書きました。 ところが、多くの場合、ライブチャットを導入するとコール数が減ります。 何故なら、問い合わせの起点となるWebサイトで、ライブチャットを利用するように誘導あるいは強制するからです。 これがWeb起点の顧客サービスの、企業側にとっての大きなメリットです。Webサイトの作り方ひとつで、顧客を思い通りに操ることができるのですから。 でも、これは、あくまでも企業側の恣意的な操作であり、顧客の選択ではありません。 つまり、コール数が減ったのではなく、減ったように見えるだけです。 もしかしたら、電話を好む顧客は不満を抱いているかもしれません。 ライブチャットでは埒が明かない問題を抱える顧客を憤慨させているかもしれません。 そんな顧客は、黙って競合他社へ乗り換えることになります。 ライブチャットは電話を置き換えるものではなく、電話と共存する(使い分ける)ツールであり、そこに顧客にとっての大きなメリットが生まれるのです。 8. 予測の正確性を誤差率で評価 コール数などの予測はセンター・マネジメントのはじめの一歩です。 それがなければ、コールセンターの活動は何も始まらないし、その精度いかんで、コールセンターのパフォーマンスに大きな影響を与えることになります。 したがって、「フォーキャスト正確性」はセンター管理者にとっての必須のKPIのひとつです。 ところが、大半のセンター管理者が、その正しい測り方を知らず、予測と実績の誤差の割合(これを「誤差率」と呼びます)で見てしまいます。 スライドの事例をご覧ください。フォーキャスト正確性の目標値は5%とすることが多いので、誤差率-3.4%という結果を“精度が高い予測”と評価してしまいます。 ところが、この-3.4%は、時間帯別に見た場合の、目標から大きく乖離した実績が、“平均のマジック”によって相殺されてしまっており、実態を表していません。 時間帯ごとの正確性は誤差率で構いませんが、1日以上の期間で見る場合は、「絶対誤差率」を使います。 絶対誤差率とは、実績値から正負の符号を取り去った絶対値を%で表したもので、その1日平均のことを「平均絶対誤差率」(MAPE)と呼びます。 絶対誤差率の計算式は、次の通りです。 絶対誤差率=(|実績―予測|÷実績)×100 ※||は||内の数値が絶対値であることを示します。 また、スライドのもう一つの事例では、予測のバラツキを評価する「標準偏差」(数値が小さいほど精度が高い)と、予測と実績の関係性の強さを表す「相関係数」(1.0に近いほど精度が高い)を紹介しています。 左右の表を1日平均の誤差率で比べると、右表の3.5%に対して-0.6%の左表の方が精度が高いように見えます。 しかし、時間帯別に見ると、右表の方がバラツキが少ないことがわかります。これを標準偏差と相関係数で見るならば、いずれも右表の方が精度が高いという結果になります。 このように、正しい方法を知らないことは、真逆の評価をしてしまうことになるので注意が必要です。 以上、8つの禁じ手に対する簡単な説明をしましたが、これらはすべてセンター・マネジメントの基本です。 さらに詳しいことは、『コールセンター・マネジメントの教科書』で解説していますのでご覧ください。
注1: サービスレベルが登場する以前、世界中のコールセンターは、放棄率と平均応答時間の二つを最重要評価指標としていました。しかし、いずれも平均値のため、1日単位で見た場合に、目標を下回った時間帯の実績が、目標を上回った時間帯の実績に相殺されてしまい、真のサービスの実態が見えなくなってしまうという反省から生まれたのがサービスレベルです。したがって、サービスレベルは時間帯ごとの実績を評価するのがあるべき姿なのです。
注2: もちろん、すべてのエージェントが、あるいは、すべてのケースにおいてバイアスがかかるわけではありません。 注3: 単純定型的で正解のある問い合わせなど、ライブチャットにフィットするものは置き換えることが可能です。 熊澤伸宏(文/Vol.25) これまで3回にわたり、ライブチャット運営の勘どころについて述べてきました。 今回は、まだまだ誤解の多いライブチャットの運営を“正しく”おこなうために、必ず理解しておきたい鉄則を5つにまとめてシリーズの締めくくりとします。 鉄則その1――ライブチャットは電話を減らすためのものではない 多くのコールセンターが、ライブチャットの導入により“電話を減らす” ことを目的としています。 電話による問い合わせをライブチャットに置き換える ⇒ 電話のエージェント数を減らす ⇒ コストを削減する という理屈なのでしょうが、これが誤りの第一歩です。 ライブチャットを導入する本当の目的は、新たな顧客層を獲得することです。 新たな顧客層とは、「ミレニアル世代」「デジタルネイティブ」などと呼ばれる若年層のことです。 彼らは電話やメールよりもライブチャットを好みます。その方が簡単で早く済むからです。 新しい顧客を増やすわけですから、顧客とのコンタクトは減るどころか増えるのです。 つまり、これまで電話やメールをメインに使ってきたコールセンターがライブチャットを導入することで、彼らとのコンタクトの機会を増やすことができるのです。その結果、セールスの拡大やサービスの強化につながります。 これがライブチャット導入の本質です。 ちなみに、“チャットの導入で電話が減った”という話を耳にします。 それは、企業の側が、顧客に電話よりもチャットを使うよう誘導、あるいは強制するからです。 顧客に選択肢を与えずに、“チャットが支持された”“チャットが電話の代替を果たしている”などと評価するのは、あまりに滑稽と言わざるを得ません。 鉄則その2――むしろ電話よりも高い “チャットは同時セッションができるからエージェント数を減らせることができ、その分人件費が安く済む”と言われますが、それはカスタマーサポート系の一部に限った話であり、大半の、特にカスタマーサービス系のコールセンターには当てはまりません。 なぜなら、ライブチャットの平均処理時間(AHT)は、電話よりも長くなるからです。 ただでさえ電話よりも長いのに、同時セッションにより、AHTはさらに長くなります。同時セッションが2件の場合、一般的にAHTは電話の2倍の長さになります。 単純に考えれば、同時セッションが2件でAHTが2倍ということは、結局のところ電話もライブチャットも必要なリソース(エージェント数や人件費)は変わらないことになります。 また、同時セッションが増えるとエラーが増すなどして、顧客満足が低下することもわかっています。 それをリカバーするための対策を講じる必要があり、そのための追加のコストが必要となります。 そのことも踏まえて、カスタマーサービス系のセンターでは同時セッションは最大2件まで、カスタマーサポート系のセンターでは3件までとするのが一般的です。 さらに、単純定型的な問い合わせが、電話からライブチャットへシフトすることにより、電話には高度で難解、あるいは時間のかかる問い合わせが集中するようになります。そのために、電話のエージェントのトレーニングやナレッジベースの強化、優秀な人材の確保など、新たな投資が必要になります。 これらを考え合わせると、ライブチャットの導入は、コストの増加圧力を高めると考えるべきです。 ※鉄則その2については、ライブチャットの運営シリーズ第2回「本当に電話はチャットより安いのか」も合わせてご覧ください。 鉄則その3――置き換えるのでなく使い分ける 電話/人/コストを減らすというのは、電話をライブチャットに“置き換える”という発想です。 が、それができるのは、“正解を回答する”ことを目的としたカスタマーサポート系の単純定型的な問い合わせに限られます。顧客と“コミュニケーションする”ことを目的としたカスタマーサービス系の問い合わせをライブチャットに置き換えるのは極めて困難です。 これは、両者のコミュニケーションツールとしての性格や使い方が異なることを意味します。それぞれを好む顧客層も異なります。タイプや顧客層が異なるのですから、両者を置き換えることはできないということです。 つまり、置き換えるのでなく、“使い分ける”と考えるべきなのです。 ライブチャットは、“正解を回答する”ことを目的としたカスタマーサポート系の単純定型的な問い合わせにフィットし、その手軽さやスピーディーさから若年層に好まれます。 電話は、“顧客とコミュニケーションする”ことを目的としたカスタマーサービス系の問い合わせに最適なのは言うまでもありません。 ただし、ライブチャットがカスタマーサービス系のコールセンターでまったく使えないというわけではありません。 メインのツールにはなり得ませんが、テキストや画像、URLの送信など、電話を補完するツールとしては大変有効に機能します。 鉄則その4――単純二択のポスト・チャット・サーベイで満足度は測れない ライブチャットの運営シリーズ第1回「ライブチャットの測定指標」で、ライブチャットのマネジメントに必要な24の指標を示しました。 そのうち経営レベルで最も重要と言えるのが、顧客満足度(C-SAT)でしょう。 おそらく、ライブチャットを利用する企業のほとんどが、C-SATを見ていると思われます。 というのは、ライブチャットは「ポスト・チャット・サーベイ」(問い合わせ完了後におこなうアンケート)が大変やりやすく、ほとんどすべてのライブチャット・アプリにその機能が備わっているからです。 そして、そのほとんどの結果が、満足度90%を優に上回っています。そのため、どの企業もその結果を喧伝することになります(どのサイトを見ても満足度が高いのはそのためです)。 そうなるのは、ライブチャット・アプリのアンケートは、そのほとんどが、Yes/Noの単純二択式だからです。 しかし、その方法で得られた回答をもって顧客満足度を評価するのは、あまりに乱暴です。 前述のようなライブチャットの性格などを考えれば、単純二択の設問で得られる回答は、用件が“完了したか、しなかったか”の結果に過ぎないと解釈すべきです。 さらに、ライブチャットの特徴として、不満足な顧客はライブチャットの応対が完了する前に離脱しており、ポスト・チャット・サーベイでは、不満足度が反映されないことも認識すべきです。 鉄則その5――ライブチャットはサービスレベル・コンタクト ライブチャットは「サービスレベル・コンタクト」(注1)です。 テキストによるコミュニケーションという見かけから、メールと同類とみなし、その運営、特にワークフォース・マネジメントをメールと同じく「レスポンスタイム・コンタクト」(注2)としておこなうセンターが大半と言ってよいほど、理解が不足しています。 それでも日本では、まだライブチャットのボリュームが少ないため、結果オーライの状況にありますが、今後のボリューム増を考えると、このままでは立ち行かなくなるのは火を見るより明らかです。 昨年おこなわれた米国のベンチマーク調査では、顧客によるチャット・リクエストの何と21%に企業からの応答がないという悲惨な状況が浮き彫りになりました。 実は日本でも、いくつかの大型センターで、“つながらないチャット窓口”が出現しています。 かつての電話と同じことを繰り返さないよう、サービスレベル・コンタクトによるマネジメントの理解と実践が急がれます。 ※サービスレベル・コンタクトによる要員数算出については、ライブチャットの運営シリーズ第3回「ライブチャットのエージェント数を算出する」 をご覧ください。
注1: ランダム着信、同期コミュニケーション、即時処理、待機時間の発生、処理の重なりが発生といった性格を持つコンタクトタイプのこと。ワークロード人数よりも多くの要員数が必要で、アーランC式により人数を算出する
注2: 非同期コミュニケーション、連続処理という性格を持ち、コールセンターによるコントロールが可能。ワークロード人数と要員数が等しい 熊澤伸宏(文/Vol.24) ライブチャットの運営シリーズ 3回目は、ライブチャットのエージェント数の算出について解説します。 シリーズ1回目で述べたように、ライブチャットの運営は、そのノウハウや方法論が世界的にみても未だ確立していません。 その最たるものが、ワークフォース・プランニング、つまりエージェント数の算出です。 同時セッションの存在やAHT(平均処理時間)の測定が困難なことがそう言わしめているのですが、だからといって、いつまでもアバウトなエージェント配置のままで済むはずがありません。 そこで、コールセンターの教科書プロジェクトでは、ライブチャットのエージェント数の算出のための考え方をまとめ、その算出モデルをここに公開します。 ライブチャットのコンタクト数を予測する エージェント数を算出するためには、その元となるライブチャットのコンタクト数の予測が必要です。 ライブチャットをどのように運用しているかによって、発生の要因となる情報やデータが企業によって異なることを除けば、電話と同様に、回帰分析や時系列分析などの手法を使ってコンタクト数の予測ができます。 具体的には、『コールセンター・マネジメントの教科書』第3章や、Bizコンパスの連載記事「世界の先進コールセンターが実践する業務量予測法とは」をご覧ください。 ライブチャットはサービスレベル・コンタクト 多くの人が、ライブチャットを「レスポンスタイム・コンタクト」(注1)と誤解しています。 おそらく、ライブチャットがテキストによるコミュニケーションであり、メールに似ていることによるものでしょう。 ライブチャットは、明確に「サービスレベル・コンタクト」です。 なぜなら、ライブチャットに対する顧客の最大の期待は、「早くて簡単であること」だからです。 おそらく顧客はライブチャットに対して、電話以上に “待たされる”という発想はないでしょう。 したがって、ライブチャットのオペレーションの第一義的な使命は、「受信したライブチャットに迅速に応答する」ことであり、電話と同様にサービスレベルを設定して、アーランC式によりエージェント数を算出します。 では、ライブチャットのサービスレベルはどれくらいに設定すればよいでしょうか。 現状では日本にはその事例が皆無なので、欧米の例を見てみましょう。 「コールセンターの教科書コラム」の昨年の記事「閲覧注意!サービスレベルの標準値」で紹介した、英国のオンライン・コールセンター専門誌の発表(注2)によると、ライブチャットのサービスレベルは、「80% of Live Chat answered within 40 second」、つまり受信したライブチャットの80%は40秒以内に応答するというものでした。 日本の場合、現状では一部の企業を除きライブチャットのボリュームが少ないため、大半が「受信=即応答」の状況にあります。 したがって、あえて80/40に下げる必要はないでしょうが、今後のライブチャットのコンタクト数の予測を見て、自社にとって適切なサービスレベルを設定してください。 同時セッション数を設定し、処理ユニット数を求める アーランC式でエージェント数を算出する際に考慮しなければならないのが、同時セッション数(CNC)です。 必要なのは、ライブチャットのシステムにあらかじめ設定している「最大同時セッション数」(Maximum CNC)ではなく、オペレーションの実績に基づく「平均同時セッション数」(Average CNC)です。 平均同時セッション数もライブチャットの運用の仕方によってさまざまな影響を受けるため、きっちり正確に計算するのは困難ですが、通常は下記の計算式により、エージェント数の算出に使えるレベルの平均同時セッション数を求めることができます。 「合計ライブチャット処理時間」(Total Live Chat Handle Time)は、特定の時間帯に処理したすべてのライブチャットの応対時間(電話の通話時間に相当)、保留時間(ライブチャット応対中のサイレントやインアクティブなどの時間)、後処理時間の合計時間です。 言い換えるなら、特定の時間帯に処理したすべてのライブチャットのAHT(平均処理時間)の合計ということになります。 「合計ライブチャット・エンゲージメント時間」(Total Live Chat Engagement Hours)は、特定の時間帯にエージェントがライブチャットのオペレーションに従事した合計時間です。 アーランC式の計算には、コンタクト数が必須ですが、チャットの場合、同時セッションを考慮した件数であることが必要です。 それが「処理ユニット数」で、同時に処理したライブチャットのセッションを1つにまとめた“みなしコンタクト数”のようなイメージで、下記の計算式により求めることができます。 アーランC式で使うために、データの単位は1時間とします。 処理時間をどう測るか アーランC式の計算要素として不可欠な処理時間(平均処理時間または合計処理時間)ですが、同時セッションをはじめ、タイムアウト、サイレント、フェイルオーバーなど(それぞれの定義は前回および前々回の記事をご覧ください)の存在が、正確な測定を困難にしています。 現状のライブチャットのオペレーション・システムは、1つひとつのセッションごとにタイムアウトなどの要因を考慮した処理時間をレポートするまでには至っていません。 そのような現状において、少しでも実態に近い処理時間を測定するためには、タイムアウトなどの発生や終了などのタイミングと対処方法をすべてルール化しておくことが必要です。 例えば、最後のアクションから5分経過してもサイレント状態の場合はセッションを終了するといったことです。 すべてのセッションを統一のルールに基づいて運用することで、システムからレポートされる処理時間を、単なる数値でなく“データ”としてエージェント数の算出に利用することができます。 そうして正確な処理時間が得られたならば、平均処理時間にコンタクト数を乗じて合計処理時間を求め、それを処理ユニット数で割って「平均ユニット処理時間」を算出します。処理ユニット数1件あたりの平均処理時間というイメージです。 チャット・コンタクトのエージェント数算出モデルでは、通常の平均処理時間に替わって、この「平均ユニット処理時間」を使います。 ライブチャットのエージェント数算出モデル 以上のようにして求めたサービスレベルや処理時間などの要素に基づく、アーランC式によるライブチャットのエージェント数算出モデルを以下に示します。 この算出モデルにより求めたエージェント数が“完ぺきに正確”というわけにはいきませんが、現状のライブチャットのオペレーションをめぐるさまざまな環境や条件のもとでは、これが最も有効に利用できるツールです。 ※筆者が講師を務める「コールセンターの業務設計講座 ~リソース・マネジメント編~」では、ライブチャットの測定指標やエージェント数の算出方法に関する詳しい解説をおこないます。上記の算出モデルのExcelワークシートを入手することができます。ご興味のある方はぜひご参加ください。 次回は5月30日(木)に大阪(マイドームおおさか)で開催します。詳細はこちら
注1: メール、Web問い合わせフォーム、Fax、レターなどのように、処理の形態が連続作業であり、ワークロード人数算出モデルによる要員算出をおこなうコンタクトのこと
注2: Call Centre Helper “How to Design a Contact Centre for Important Customers” 2018 熊澤伸宏(文/Vol.23) “チャットは電話よりコストが安い”と言われます。 本当にそうなのでしょうか? 日本よりも数年早くチャットが普及した欧米のコールセンターでは、3~4年前にこの種の議論や検証が盛んにおこなわれ、一定の共通認識が出来上がっています。 ところが日本にはその知見がほとんど紹介されず、未だに多くの企業が “コスト削減” を目的としてチャットの導入を進めています。 誤った期待と使い方によって、せっかくのチャットの導入が失敗とならないよう、欧米の知見を紹介しながら、チャットのオペレーションの本質や考え方などについて考察します。 ぜひ、前回の記事「チャットの測定指標」もあわせてお読みください。 なお、ここで言うチャットとは「ライブチャット」のことです。 AIと並んで大流行の「チャットボット」は、日本ではライブチャットと同類のものとして語られますが、両者はまったく異なるツールですから混同しないようにしましょう。 チャットの方が安いと言われる理由と条件 “チャットの方が電話より安い”と言われるのは、チャットの場合、1人のエージェントが同時に複数のチャットの応対をすることができる――その分、チャットのオペレーションに必要なリソース(エージェント数)が少なくて済む――という理由からです。 このことに、コストや人員抑制の切り札として、採用難に喘ぐ日本のコールセンターが飛びついたというわけです。 確かに「同時セッション」(同時に複数のチャットの応対をすること)は、電話にはないチャットの大きな特徴です。しかし、それが額面通りの効果を発揮するのは、以下のようなシンプルな問い合わせの場合に限られます。 顧客の問い合わせ:「ウインドウを閉じる方法を教えてください」 エージェントの回答:「右上のX印を押してください」 この例のように、エージェントがあれこれ考える必要がなく、即時に明確に回答できるシンプルな問い合わせであれば、定型文のコピペで済ませるなど短時間で機械的に処理することも可能です。 だからこそ同時セッションができるのであり、このような性格から、チャットは機器の操作方法やアプリの使い方といった「カスタマーサポート系」のコールセンターで効果を発揮してきたのです。 このことが、チャット・アプリのプロバイダーやメディアにより、チャット導入のメリットとして喧伝されてきたというわけです。 同時セッションにより、AHT(平均処理時間)が増加する 同時セッションは、以下の理由によりチャットのAHTの増加をもたらします。
上述のカスタマーサポート系のコールセンターの問い合わせの場合は、内容がシンプルなためAHTの増加の影響は少なくて済み、その結果、同時セッションによるエージェント数の抑制がコスト削減効果をもたらします。 ところが、内容が多種多様で、「回答する」ことよりも顧客と「コミュニケーションする」ことが求められる「カスタマーサービス系」のコールセンターでは、事情が異なります。 欧米のコールセンターの経験値や調査によると、カスタマーサービス系のコールセンターでは、同時セッション数が2件の場合、AHTが電話の2倍になるというのが一般的な認識となっています。 3件、4件と同時セッション数が増えれば、AHTの増加の度合いはさらに高まります。 これは、AHTが倍増することで同時セッションによるエージェント数の抑制効果が失われることを意味します。 同時セッションを増やすと顧客満足が低下する 同時セッションは、AHTだけでなく顧客満足にも大きな影響を及ぼします。 欧米の多数のコールセンター・マネージャーは、顧客満足を損なわない同時セッション数の上限を、2または3件と考えています(注1)。 これは、同時セッション数が2または3件を超えると顧客満足が低下すると言い換えることができます。 なお、2件とするセンターの大半はカスタマーサービス系で、3件とするのはカスタマーサポート系が多くを占めているのはわかりやすいところです。 企業側としては、同時セッション数を増やしてコスト削減効果を高めたいところではありますが、それによって顧客満足の低下を招いては元も子もありません。 欧米でも、チャット導入の初期は同時セッション数の増加に腐心していましたが、現在では顧客満足が判断基準となっています。 その結果、カスタマーサービス系では2件、カスタマーサポート系では3件とするのが、現状の共通認識となっています。 ちなみに英語圏でこうなのですから、日本語を使う国内コールセンターの場合は、AHTの観点からも顧客満足の観点からも、より厳しい見方をする必要がありそうです。 チャットの導入は電話を減らすことに非ず チャットを導入しようとするコールセンターの多くが「電話を減らしてコストを削減する」ことを目的として掲げますが、それは大きな誤りです。 なぜなら、そう考えるコールセンターは、電話を好む顧客層とチャットを好む顧客層が異なるという認識を欠いているからです。 チャットの導入により電話が減ったように見えるのは、企業が顧客にチャットへのシフトを強制するからです。 それによって、電話を好む顧客は黙って去っていきます。いくらかの顧客はやむなくチャットを使うものの、決して積極的ではありません。その多くは満足度が下がっています。 もちろん、アプリの操作方法やクレジットカードの残高照会、通販の送料確認のようなシンプルな問い合わせの場合は、多くの顧客が電話よりもチャットを使うようになるでしょう。 しかし、それによって電話には高度で難解、あるいは相談型の時間がかかる問い合わせが集中するようになり、エージェントのトレーニングやナレッジベースの強化、質の高い人財の確保などのための新たな投資やコストの増加が必要となります。 このような本質を見逃して、表面的なコール数の減少を評価するのは、あまりに短絡的と言わざるを得ません。 よく知られているように、チャットを好んで利用するのは「ミレニアル世代」「デジタルネイティブ」などと呼ばれる若年層です。 チャットの導入に積極的に反応するのはこの世代であり、彼らの参入は、それまでコンタクトのなかった新しい顧客層の開拓をもたらすことになります。また、オムニチャネルの活性化にも貢献します。 これがチャット導入のビジネス上の本質的な目的であり、コスト削減とするにはかなりの違和感があることに気付いていただけることでしょう。 以上、AHT、顧客満足、顧客層という3つの観点から、チャットのコストや目的について考察をおこないました。 「人手とコストがかかる電話から、安くて簡単に済むチャットにしたい」といった安易な考えでは、決して目論見通りに行かないであろうことを、ご理解いただけたでしょうか。
注1: 例えば、Call Centre Helper Webinar Poll –Best Practices for Voice, Email and Webchat. September 2015によれば、顧客満足を損なわない同時セッション数は2件(45%)と3件(39%)で大半を占め、4件超は7%に過ぎない
熊澤伸宏(文/Vol.22) コールセンターの“チャットシフト”が加速しています。 顧客とのコミュニケーション起点のWebサイト化、オムニチャネルの進展などによって、もはやチャット無しには顧客の支持を得られない状況になってきたからです。 しかしながら、その運営手法やノウハウが確立されていない(日本だけでなく世界的に)ため、チャットのオペレーションの現場は、意図してコントロールされている状態とはとても言い難いのが現実です。 とりわけ、科学的管理の実践に不可欠なKPIなどの測定指標が定まっていないことが、その大きな理由として挙げられるでしょう。 そこで、コールセンターの教科書プロジェクトでは、ライブチャット(注1)の業績評価、運営管理のための測定指標を整理し、代表的な24の指標にまとめました。 以下ではまず、ライブチャットの特徴を挙げ、そのうえでライブチャットに特徴的かつ代表的ないくつかの指標について説明し、最後に24の指標を紹介します。 ライブチャットの特徴 ライブチャットは、「ランダム着信」「即時処理」「キューイング」「ワークロードをコントロールできない」といった環境から、「サービスレベルコンタクト」のひとつであり、電話(インバウンドコール)に似ています。 しかし、以下に示すようなライブチャット特有のユニークな特徴があることで、電話のマネジメント手法をそのまま流用することができません。
最大のニーズは「簡単で速いこと」 ライブチャットの利用者の主役は「ミレニアル世代」「デジタルネイティブ」などと呼ばれる若年層です。 電話やメールを敬遠し、LINEなどのインスタントメッセージングをコミュニケーションのメインとする彼らは、企業とのコンタクトにおいても、最も簡便で即時の回答が期待できるライブチャットを最も好みます。 したがって、「迅速性」と「簡便さ」が担保できなければ、途端に彼らの支持を失うことになります。 となると、ライブチャットの導入によって「ミレニアル世代」の新しい顧客層の獲得を目論んでいた企業の思惑も外れてしまいます。 そのため、企業は「迅速性」を担保できるオペレーションの態勢を整え、「簡便さ」を提供できるサイトの機能強化を図ります。 そして、それらのパフォーマンスをモニターするための指標として、「平均初回レスポンス時間」(Average First Response Time; FRT)や「初回チャットコンタクト完了率」(First Chat Contact Resolution; FCR)および「サービスレベル」(Service Level; SL)で「迅速性」を管理します。 「FRT」は電話でいうところの「平均応答時間」(Average Speed of Answer; ASA)に相当します。 「FCR」と「SL」は電話でおなじみの指標と同じです。 また、「簡便さ」を評価するために「顧客努力指標」(Customer Effort Score; CES)を用います。 やっかいな「同時セッション数」と「平均処理時間」 「同時セッション数」(Chat Concurrency; CNC)はライブチャットの最大の特徴と言えるでしょう。 これがあることで、エージェント数の計算に、単純に「アーラン式」を使うことができません。 「CNC」をきっちり正確に測定するのは困難ですが、通常は以下の計算式により、エージェント数の算出に使えるレベルのCNCを求めることができます。 平均同時セッション数=合計ライブチャット処理時間÷合計チャットオペレーション時間 ライブチャットの「平均処理時間」(AHT)が電話の2倍の長さになるのは、「CNC」の影響です。 また、「ドロップ」「タイムアウト」の発生も、「AHT」を長くする要因となり、「AHT」の予測をますます困難なものとします。 このように、計算や予測が困難な「CNC」と「AHT」ですが、いずれもエージェント数の算出のキーとなる指標であるのが、頭の痛いところです。 ライブチャット独自の運営指標 リアルタイム・マネジメントやワークフォース・マネジメントに使用するライブチャット独自の運営指標として、以下のようなものがあります。 これらは、ライブチャットの運営の仕方によって必要性が異なります。自センターのニーズに合わせて使用しましょう。
これら6つの独自指標を含めた全部で24の測定指標を下表に示します。 この中で、上記の説明にない指標の定義や使い方などは、電話(インバウンド・コンタクト)の場合と同様とお考えください。それらの詳細がお知りになりたい方は、『コールセンター・マネジメントの教科書』第6章をご覧ください。 ※この記事の内容は、2020年5月18日付のコラム「ライブチャットの測定指標(KPI)とパフォーマンスレポート」にて更新されました。
注1: 「チャットボット」と区別するために、欧米ではエージェントによるチャットを「ライブチャット」と表記するのがほとんど。「Webチャット」とする場合もあるが極めてまれ。
熊澤伸宏(文/Vol.21) コールセンターのAHT(平均処理時間)が“順調に”伸びています。 前回に続き、日本のコールセンターの先行指標となる英国の最新の調査から興味深い結果を紹介し、考察を加えます。 過去1年で半数近くのセンターのAHTが増加、減少は2割に届かず Call Centre Helper社による最新(2018年)の調査(注1)によると、46.2%のコールセンターが、「2017年に比べてAHTが伸びた」と回答する一方、「減った」とするセンターは17.9%に留まり、2割にも届きませんでした(図1)。 また、ContactBabel社による調査(注2)では、2005年から2010年には240から260秒で大きな増減がなく安定していたAHTが、2012年を皮切りに年に数パーセントの伸びを示すようになり、2015年に300秒を超えて以後も、右肩上がりの傾向を示しています(図2)。 AHTが増加する2つの理由 このようにAHTが伸びているのは、2つの明確な理由があります。 ひとつは、コールセンターに「セルフサービス」や「バーチャル・アシスタンス」(チャットボットのような)などの導入が拡大していることによるものです。 これらが、AHTの短いシンプルなコールの応対・処理をおこなうことで、エージェントが応対するコールの複雑さの度合いが高まり、そのためにエージェントのAHTが長くなるというわけです。 もうひとつの理由は、FCR(初回コール完了率)の重要性がますます高まっていることによるものです。 優れた顧客経験を提供し、顧客の手間や労力をなくすよう努め、顧客満足を向上させるためには、顧客とのコミュニケーションをより充実させる必要があります。 その結果として、エージェントと顧客との通話時間が長くなるというわけです。 これら2点は、「デジタルトランスフォーメーション」の推進、「カスタマーエキスペリエンス」の向上という、コールセンターが今最も注力する課題を反映しています。 つまり、不可抗力的な変化ではなく、コールセンターの構造変化のシナリオ通りの結果なのです。 だから、AHTが“順調に”伸びていると評価できるのです。 AHTの増加がもたらすエージェントへの投資拡大 「デジタルトランスフォーメーション」の本質的な目的は、「新しい製品やサービス、ビジネスモデルを通じた価値の創出と競争上の優位性の確立」(注3)にあります。 ところが、日本のコールセンターの多くは、「セルフサービス」や「バーチャル・アシスタンス」によりエージェントの人数を減らす、つまり採用難対策といった目先の施策の色彩が強いのが現実です。 実は、そこに落とし穴があります。 「セルフサービス」や「バーチャル・アシスタンス」がエージェントからシンプルなコールを“取り上げる”ことで、エージェントには“複雑”で“厄介”なコールが残ることになります。 それらが増えるわけではありませんが、これまではシンプルなコールと複雑なコールとで仕事に強弱をつけることができていたものが、複雑なコールの割合がどんどん増してそればかりになり、エージェントの精神的疲労が高まるのです。 そのままではエージェントが燃え尽きて辞めてしまいます。 したがって、エージェントをケアするための新たな施策の実施や強化――そのための新たな投資が必要となります。 さらに、仕事の質の高まりは、エージェントの人財の質も高めることになります。 つまり、すべてのエージェントが複雑で高度な内容のコールの応対ができるよう、トレーニングの強化、ナレッジをサポートするシステムの充実、これまで以上に質の高い優秀な人財の確保、そのための追加投資の必要に迫られることになるのです。 これらは、採用難対策やコストの軽減を目論んでいるコールセンターにとっては、真逆の状況になりかねないので、今一度、本質的な目的を理解し、長期的な視点で考え直すことが必要でしょう。 変わらぬAHTの重要性――エージェントの働き方改革に資するために これまで、AHTとは「短縮すべきもの」「生産性の評価指標」という考え方が主流を占めていましたが、顧客経験の向上のために、そのような考え方を邪道とするコールセンターが急増しています。 そのために、「AHTの測定をやめた」というセンターも少なくなくありませんが、それはあまりにも短絡的と言わざるを得ません。 なぜならAHTは、これまでも、これからも、コールセンターにとって極めて重要な指標であることに変わりはないからです。 コールの複雑性が増せば、ACW(後処理時間)も増加するのが自然です。 シンプルなコールに代わる“一息つく”ための新たなアイドル時間も必要です。 トレーニングやミーティングの時間が増えるはずです。 このようにオペレーションが変化するのですから、それに見合ったサービスレベルやシュリンケージなどを再考して、エージェント数の算出やスケジューリングなどリソース・プランニングを見直すことが必要です。 これらはまさに、オペレーションの現場におけるエージェントの「働き方改革」であり、そのためには、これまで以上にAHTを精査して、新しい環境に適した生産性目標の設定や、ワークフォース・マネジメントへの反映が必要なのです。
注1: “What Contact Centres Are Doing Right Now (2018 Edition) – How Do You Compare?”. 英国を中心とする350を超えるコールセンターに45の質問を通じて最新の動向を把握する調査
注2: “The UK Contact Centre Decision-Makers' Guide (16th edition - 2018-19)”. 英国のコールセンターに関する調査・分析会社であるContactBabel社が、200を超えるコールセンターに対して毎年実施している調査 注3: 経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」2018年12月 熊澤 伸宏(文/Vol.20) コールセンターが最も重視する評価指標は、依然としてC-SAT(顧客満足度)である一方、NPS®(net promoter score; ネット・プロモーター・スコア)は低下傾向にあることが話題になっています。 これは、英国の最大級のコールセンター・マネジメント関連オンライン情報誌であるCall Centre Helper社による最新(2018年)の調査の結果(注1)によるものです。 ちなみに筆者がこの調査を採り上げるのは、日本のコールセンターの将来を占うには、その先行指標として英国の動向が最もフィットすること(注2)、また、同社の性格から“大人の事情”によるバイアスがかかっていないこと がその理由です。 では結果を見てみましょう。 もはや伝統的指標とも言えるC-SATですが、93.1%のコールセンターが最も重要な評価指標であると位置づけており、ここ数年の調査においては、断トツ1位の座が揺らぐ気配もありません。 一方のNPSは、32.8%にとどまり、これは前年(2017年)に比べて3.3ポイント低下しました。 さらに注目すべきは、40.3%ものコールセンターが、NPSを“重要ではない”としていることです(注3)。 一時は、C-SATに取って代わる勢いでもてはやされたNPSですが、その“流行”も後退しつつあるようです。 そういえば日本でも、コールセンター関連のメディアなどで、あれほど騒がれていたNPSの話題を、最近はほとんど見かけなくなりました。 その理由として第一に考えられるのは、NPSの「この企業(製品/サービス/ブランド)を友人や同僚に薦める可能性は、どのくらいありますか?」という質問は、企業(製品/サービス/ブランド)全体に対する評価には適しているものの、コールセンター、さらにはエージェントの評価としては扱いにくいことにあるでしょう。 なぜなら、製品の包装が破れていれば、どんなにコールセンターのエージェントが完ぺきな応対をしようともNPSの良い評価を得ることはできないからです。 C-SATも、「満足いただけましたか」の単純な質問だけでは、コールセンターやエージェントに特定した評価を得られない場合がありますが、質問の内容や回答方法などをしっかりと設計することで、エージェント個人の評価にまで具体的に落とし込むことが可能です(注4)。 NPSにも「薦める可能性は・・・」のメインの質問に、個別のパフォーマンスを特定する質問を加えるなどの方法論がありますが、決して容易ではないようです。 このような両者の特徴を考えれば、まずは“自分たち”の評価を得たいコールセンターとしては、C-SATの方を重視するのは当然の成り行きでしょう。 それでも、NPSは企業全体の顧客戦略やマーケティングの観点においては、極めて重要な指標であることに変わりはありません。 顧客の購買行動など、ビジネスへの直接的な貢献度はNPSの方がC-SATよりも相関性が高いことが明らかになっていますし、その点ではC-SATでは歯が立たないのも事実です。 つまり、NPSかC-SATかの二者択一の議論ではなく、両者の性格や違いを理解したうえで、それぞれを適切に使い分けることが必要だということです。 したがって、上述の調査の結果は、“C-SATが増えたからNPSが減った”と解釈すべきではないのです。 なお、NPSが低下傾向にあるというのは、コールセンターの評価指標として導入したが期待外れに終わった、あるいは、NPSによる評価はマーケティングや企画部門などにシフトした、といったことが考えられるかもしれません。 以上のような観点を踏まえて、『コールセンター・マネジメントの教科書』では、C-SATをコールセンターの主要な23の評価指標である「オペレーショナル・パフォーマンス・メトリクス」として位置づけ、NPSはマーケティング関連指標として、「ビジネス・エフェクティブネス(効果性)・メトリクス」に含めています(注5)。
Net Promoter®およびNPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
注1: “What Contact Centres Are Doing Right Now (2018 Edition) – How Do You Compare?”. 英国を中心とする350を超えるコールセンターに45の質問を通じて最新の動向を把握する調査 注2: コールセンターの調査・統計データは質量ともに欧米が抜きんでているが、米国の場合、コールセンターのスケールが日本より大き過ぎるきらいがある一方、英国を中心とする欧州のセンターは、そのサイズ、技術、カルチャーなど日本に近い感がある 注3: この調査はC-SATとNPSを直接対決で比較しているわけではないため、他の指標の増減が両者の結果に影響していることを考慮しておくべき。つまり両者の比較ではなく、個々の独立した結果とてみる必要があるということ 注4: 『コールセンター・マネジメントの教科書』 第5章でコールセンターの顧客満足度調査の設計について詳しく解説 注5: 『コールセンター・マネジメントの教科書』 第6章 コールセンターの業績評価指標 を参照 熊澤伸宏(文/Vol.19) コールセンターだからこそ、絶対にこだわりたいもの――それは「ことば」です。 コールセンターだからこそ、「最も美しい日本語」を使いたいからです。 私たちは毎日、顧客と大量の「会話」を交わしています。 最近では、チャットやメッセージング・アプリなど「テキスト」によるコミュニケーションも急増しています。 また、顧客とのメールや、業務マニュアル、トーク・スクリプトなど「文書」の作成も大量におこなっています。 そのいずれも「ことば」で成り立っています。 したがって、質の高い「会話」や「文書」の作成のためには、「ことば」そのものを学ぶことが必要です。 以下に、そのための必携図書を紹介します。 まず、「話しことば」を学ぶには・・・・・・ 『NHK ことばのハンドブック 第2版』 NHK放送文化研究所編 NHKによる放送の「ことば」は、日常使われる話しことばの一つの規範(注1)として、国民の絶大な信頼を得ていることに疑いの余地はありません。 新人エージェントのトレーニングで、「NHKのアナウンサーの話し方を学びなさい」と指導するコールセンターも多いのではないでしょうか。 そんなNHKの放送用語委員会が、「ことば」の選択や使い分けの目安となる点をまとめ、放送関係者のみならず、「ことば」に関心を持つ多くの人たちに向けてわかりやすく編集(注2)したのが本書です。 エージェントのコミュニケーション・スキルのトレーニングやコーチング、トーク・スクリプトやQ&Aの作成などのために、コールセンターに必ず備えておくべき1冊です。 なお、本書のほかに、発音やアクセントについてまとめた 『NHK 日本語発音アクセント辞典』 も合わせて備えておくと良いでしょう。 次に、「書きことば」を学ぶには・・・・・・ 『記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集』 共同通信社編著 本書は、「分かりやすくやさしい文章、言葉で書く」「できるだけ統一した基準を守る」という原則のもと、「社会一般の文章表記に役立つ」(注3)ことを目的とし、新聞記者はもちろんのこと、ライターや編集者など、すべての文章作成に関わるプロフェッショナルの必携本として確固たる地位を築いています。 「ことば」の使い方や表記法というだけにとどまらず、実用的な文章を作成するために必要な、ありとあらゆるノウハウや情報が満載で、それらを読むだけでも、社会一般のさまざまな知識が得られる百科事典的な機能も持ち合わせています。 「分かりやすくやさしい文章、言葉」「統一した基準」は、コールセンターの業務マニュアルなどを作成するための大前提です。 そこが揺らいでいると、使い手であるエージェントにとっての読みにくさや使いにくさが生じ、マニュアルとしての機能や価値の低下、ひいてはオペレーションの品質の低下にまで発展します。 加えて、顧客との「テキスト」によるコミュニケーションが今後ますます増えることを考えれば、「書きことば」を学ぶための本書も、コールセンターに必ず備えておくべきでしょう。 なお、肝に銘じておくべきは、単純に「ことば」だけを学び、正しい使い方をしたところで、それは「マニュアル・トーク」に過ぎないということです。 例えば、『NHK ことばのハンドブック』 で学び、NHKのアナウンサーと同等のクオリティーで顧客と「会話」をしたらどうなるでしょう。 不自然です。 アナウンサーによる放送のトークと、コールセンターのエージェントによる顧客との「会話」は別物だからです。 つまり、今回ご紹介した図書は、「ことば」の使い方のルールを知るためのものであり、それだけで顧客とのコミュニケーション・スキルを学ぶことはできないということです。
注1:村神 昭 『NHK ことばのハンドブック 第2版』 はじめに より
注2:村神 昭 『NHK ことばのハンドブック 第2版』 はじめに より、筆者が一部改変 注3:共同通信社 『記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集』 まえがき より 熊澤伸宏(文/Vol.18) AI、ボット、クラウドなど、テクノロジーの驚異的進化の真っただ中にあって、どうしても“新しいもの”にばかり目を奪われがちです。 コールセンターの管理者にとって、その優先順位が高いのは当然ですが、足元のオペレーションが脆弱なままでは迫りくる大きな変化の時代に勝利することはできません。 今こそ、旧態依然としたセンター運営から脱却し、「コールセンター・マネジメントの絶対基準(基本形)」にもとづく盤石な態勢を築いておくべきです。 そこで以下に、「間違いだらけのセンター運営チェックリスト――ビジネスプロセス編」を示します。 このリストは、「コールセンターの教科書プロジェクト」の武者昌彦さんの協力を得て、コールセンターのオペレーションの中核であるビジネスプロセスに関する、数社のセンター長による発言を集めたものです。 まさに“旧態依然”を象徴するようなセンター運営の“あるあるチェックリスト”と言い換えられる内容です。
いかがでしょうか。 もしひとつでも心当たりがあれば、今すぐにあなたのセンターの運営の見直しを始めてください。 いくつかの発言は、それ自体が問題とは言い切れないものもありますが、その背景や、発言にともなう行動も含めて考えていただくと良いでしょう。 それぞれの発言に関するソリューションや「基本形」については、『コールセンター・マネジメントの教科書』で確認いただくか、「コールセンターの業務設計講座~ビジネスプロセス・マネジメント編~」の受講をおすすめします。
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