私が飛行機を利用する時に愛用しているのが、蒸気温熱マスクです。 離陸する直前に装着すれば、安定飛行に移るまでの15~20分が、早朝の眠気を覚ましたり、一日の疲れを癒すのにちょうど良い時間になるというわけです。 そのほか、長距離運転や仕事の小休止(昼寝のことです)の際にも欠かせないアイテムですね。 この蒸気温熱マスクが、コールセンターのエージェントの疲労回復に効果があることが、産業医科大学による調査(注1)で明らかにされています。 この調査は、1日4時間以上の拘束型VDT作業(注2)に従事するコールセンターのエージェントを、蒸気温熱マスク(以下「温熱マスク」)を使用するグループと温熱効果のないアイマスク(以下「一般マスク」)を使用するグループに分け、それぞれのアイマスクを就寝時に使用して、疲れ目の自覚症状の改善度合いを両グループ間で比較・検証したものです。 その結果、温熱マスクを使用したグループでは、疲れ目に関するほとんどの症状が、また、一般マスクを使用したグループでは目の疲れとかすみの2つの症状において有意な改善が見られました。 そして、目の疲れ、目の乾き、肩こりについては、温熱マスクの方が一般マスクよりも有意に高い改善が見られました。 この結果から、一般マスクでも疲れ目を軽減することはできますが、温熱マスクであれば、さらに高い改善効果が得られることがわかったのです。 さらに、温熱マスクでは、イライラや不眠においても改善が認められました。 このことは、温熱マスクには、VDT作業による疲れ目などの身体的疲労だけでなく、精神的疲労の改善も期待できることを示しています。 このように、その効果が科学的に証明されているわけですから、エージェントの健康管理や生産性向上の一助として、温熱マスクを積極的かつ安心して使うことをおすすめします。 昨今、エージェントの労働環境の改善というと、豪華な休憩室作りに走る例などが多く見られますが、それ以前に、エージェント業務のもっと本質的な部分でサポートできることがあるはずです。 多額のコストを要して作った豪華な休憩室と、1枚100円に満たない温熱マスクとでは、どちらが本当に喜ばれ、具体的な効果を見出すことができるのか、一考の余地があるかもしれません。 ちなみに、上述の調査は就寝時の利用におけるものでしたが、勤務時間内における休憩・休息時間などで利用することもできるでしょう。 温熱マスクの持続時間は10~20分ですから、1回15分が一般的なエージェントの休息時間にはちょうど良いかもしれません。 ちなみに、温熱マスクにはリラックスすることを目的とするタイプと、“もうひとがんばり”することを目的とした爽快感を得られるタイプがありますので、勤務時間中には後者を利用することをおすすめします。
注1: 喜多村紘子, 筒井隆夫, 東昭敏, 堀江正知 『コールセンターの拘束型VDT作業者における蒸気温熱アイマスクによる疲れ目対策(第26回産業医科大学学会総会 学術講演会記録)』 JOURNAL OF UOEH.
注2:拘束型VDT作業とは、コールセンターにおける受注、予約、照会といった業務のように、PCや携帯端末のようなVDT(Visual Display Terminals)機器を使用して、所定の時間、作業場所に在席するよう拘束され、自由に席を立つことが困難な作業をいう 熊澤 伸宏(文/Vol.15)
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10月1日です。 「カスタマーサービス・ウィーク」(以下「CS Week」)が始まりました。 CS Weekは10月の最初のフル・ウィーク(注1)におこなわれるため、例年は第2週なのですが、今年は10月1日が月曜日のため、第1週である今週の開催となりました。 今年のCS Weekのテーマは“Excellence Happens Here”で、直訳すれば “エクセレンス(卓越したサービス)はここで起こる”といったところでしょうか。 右のイラストがその統一ロゴです。
前々回(9月12日)のコラム「コールのオーバーハングを踏まえてインターバルを設定する」について、データの観点から少し掘り下げてみたいと思います。 大切な点は「インターバルを15分にするには、そのセンター(業務)のAHTが7分30秒以下であることが望ましい」ということでした。 さて、ではその元となるAHT(average handle time; 平均処理時間)自体は正確に把握できているでしょうか? AHTとは、1件のコールの処理(通話+保留+後処理)に要する平均時間のことで、計算式は以下の通りです(注1)。 (通話時間+保留時間+後処理時間)÷応答コール数 読者の皆さんがお使いの統計管理システム(注2)が、この計算によるAHTを標準で出力してくれるのであればよいですが、そうでない場合は自前で計算をする必要があります。 その際、2つの点に注意する必要があります。 ひとつは、保留時間です。 統計管理システムによって、保留時間が通話時間に含まれているものと、そうでないもの(保留時間が通話時間とは別に単独で出力されている)があります。 さらに後者の場合、保留1回あたりの時間である場合と、1コールあたりの合計時間(1コールの中で2回保留した場合、2回分の保留の合計時間ということです)である場合があります。 これらをしっかり確認しておかないと、計算を誤ってしまうことになります。 もうひとつ注意すべきなのは、応答コール数をカウントするタイミングです。 統計管理システムによって、応答コール数を応答開始時にカウントする場合と、応答終了時にカウントする場合があります。 そのため、1本のコールが時間帯をまたがってオーバーハングした場合、応答開始時(前の時間帯)にカウントする場合は、後ろの時間帯の応答コール数が実際よりも少なく、応答終了時(後ろの時間帯)にカウントする場合は、前の時間帯の応答コール数が実際よりも少なくなります。 つまり、実際にはエージェントが応答していても、応答コール数として件数がカウントされない時間帯があるということです(注3)。 そうなると、コール数の予測、エージェント数の算出やスケジューリング、それらの実績のレポートなどに狂いが生じるかもしれません。 なので、皆さんがお使いの統計管理システムがどのような振る舞いをしているかを、必ず確認しておきましょう。 以上をお読みになって、にわかに不安に駆られた方がいらっしゃるかもしれません。 が、コールのオーバーハングは、前の時間帯からまたがって来るものと、後ろの時間へまたがるものがあるため、通常の場合、前後のオーバーハングが相殺されることで、大きな問題にはならないのです。 したがって、時間帯のインターバルをAHTの2倍以上の長さにする――インターバル15分の場合はAHTを7分30秒以下にする――ということを守っておけばよいでしょう。 ただし、オーバーハングが一方通行で発生する場合、例えば、特殊な事情により短時間にコールが集中するケース、あるいは、営業時間の開始直後や終了直前に大量の着信が発生するケースについては、オーバーハングによる影響をきっちりと考慮してください。
注1: 『コールセンター・マネジメントの教科書』第6章参照
注2: 米アバイアのCMS(call management system; コール・マネジメント・システム)に代表されるPBX/ACDの運用管理のレポーティングをおこなうシステム。『コールセンター・マネジメントの教科書』 第11章参照 注3: アバイアのCMSの場合、応答終了時にカウントされます。ちなみに「I_ARRIVED」というデータ項目を使うと、前の時間帯で着信コール数を把握することができます 長崎 智洋(文/Vol.13) 総合職、一般職などのように、「職能」(注1)で区別をつけたがる日本の企業では、「ジェネラリスト」か「スペシャリスト」かということがよく話題になります。 例えば、どちらが出世に有利なのか、どちらのタイプの人材を採用すべきかといったことです。 では、センター長、マネージャー、スーパーバイザーといったコールセンターのマネジメント(以下、コールセンター・マネージャー)の仕事についてはどうなのでしょう。 「コールセンター・マネジメントの仕事は企業経営の縮図だ」「センター長は中小企業の社長のようだ」と言われるように、コールセンター・マネージャーには「広範な守備範囲」が求められます(注2)。 また、他の一般事務系オフィスワークと比べるとコールセンターのオペレーションは極めてユニークであり、そのマネジメントには「高度な専門性」が要求されます(注3)。 このことから、コールセンター・マネージャーの仕事を「職務」(注4)の観点で考えると、そこにはジェネラリストとスペシャリストの両方の要素が含まれることがわかります。 ところが、日本の企業ではコールセンター・マネージャーは議論の余地なくスペシャリストと決め付けられます。 なぜなら、職能で考える日本の企業では、スペシャリストのことを「特定の部署や業務の専門性を極めた人」と定義するからです。 コールセンター・マネージャーの仕事は、一朝一夕に高い成果を挙げることはできません。 それを極めるには多くの時間がかかるため、必然的にコールセンターに長期間留まることとなり、そのことが、「特定の部署に長く留まる人=スペシャリスト」という決め付けとなるのです。 コールセンター・マネージャーを担うことで、中小企業の社長のような広範な業務を経験することができても、決してジェネラリストとは言われません。 あくまでも、コールセンターという“狭い世界”の専門家という評価を超えることはできないのです。 では、日本の企業におけるジェネラリストとは、どういう人たちのことを言うのでしょうか。 一般的な定義としては、「幅広い分野の知識を持ち組織全体を俯瞰してみることのできる能力を持つ人」となりますが、 ここでいう幅広い分野とは、自社内のさまざまな組織や業務のことを意味します。 つまり、ジョブ・ローテーションにより短期間で社内の多くの部署を経験し、仕事の知識やスキルは広く浅くに留まるものの、協調性やコミュニケーション能力に長け、顔が広く、根回し上手で人望が厚いといったイメージです。 伝統的な日本企業では、このような人、つまりジェネラリストを有能と評価する一方、スペシャリストは、視野が狭い、オタク、わがまま、協調性がないなどネガティブな評価をされる傾向にあります。 スペシャリストと決め付けられるコールセンター・マネージャーも、日本企業においては後者として見られがちなのは残念なことです。 しかし、一歩、会社の外に出るとどうなるでしょう。 社内では有能とされ、出世コースの“日本的ジェネラリスト”は、社外では評価されません。 笑い話にもありますが、「部長やってました」は他社では通用しないのです。 一方、社内では色眼鏡で見られるスペシャリストは、その専門性が大きな武器となり、社外では高く評価されます。 ジェネラリストとしての広範な守備範囲と、スペシャリストとしての高度な専門性を併せ持つコールセンター・マネージャーは、“どこへ行っても役に立つ”有能な人材として、高い評価を得ることができるのです。 つまり、職務を基準に考える労働市場や諸外国では、センター・マネジメントにおける広範かつ豊富な知識、経験、スキル、見識を有するコールセンター・マネージャーこそ、特定の企業や組織に限らず、“どこへ行っても”その能力を発揮し貢献することができる人材と位置づけ、そのような人材のことをジェネラリストと呼びます。 その観点から考えると、“日本的ジェネラリスト”は、特定の企業内でしか役に立たないスペシャリストと定義づけることができそうです。 ちなみに筆者は、8つの企業でコールセンター・マネージャーとして従事しました。 日本企業的観点からは“転職を繰り返し・・・”とネガティブな意味合いで言われましたが、筆者にはそのような感覚はまったくありません。 なぜなら筆者は、30年超にわたって一貫してコールセンター・マネジメントを職とし、一度たりとも“転職”をしていないからです。 そんな経験から声を大にして申し上げたいのは、コールセンター・マネージャーはジェネラリストであり、その知識や経験、スキルは、世の中に広く大きな価値を提供できる仕事であるということです。
注1: 職能 = 仕事をするための能力。日本企業では、純粋な意味での能力よりも、年齢、学歴、経験年数、肩書といった個人の属性を能力判定の基準とする傾向にある
注2、注3: 『コールセンター・マネジメントの教科書』 序章参照 注4: 職務 = 仕事そのもの、またはその内容 熊澤 伸宏(文/Vol.12) コール数の予測やエージェント数の算出、スケジューリング、サービスレベルの監視、レポーティングなどのために、インターバルを設定します。 インターバルとは、予測や測定をするための時間の間隔のことで、1時間、30分、15分といった単位で設定します。 インターバルは、センターの規模が大きくなるほど細かくなる傾向にあります。 なぜなら、ボリュームが大きいため、できるだけ細かい間隔で予測や測定をおこなって、その間の変化を正確にとらえたり、予測と実績との誤差を少なくする必要があるからです。 ところが、コール数やエージェント数の予測を細かいインターバルで緻密におこない、実績との誤差がほとんどなく、エージェントもスケジュール通りに勤務しているにもかかわらず、キュー(注1)が発生しサービスレベルが低下するというエージェント不足の状態に陥ることがあります。 その原因の多くは、コールの「オーバーハング」にあります。 コールのオーバーハング(注2)とは、1本のコールが前後の時間帯にまたがることを意味します。 例えば、インターバルを15分とした場合、前の時間帯(9:00~9:15)に着信したコールの応答が、後ろの時間帯(9:15~9:30)に入っても続くため、その分、後ろの時間帯に必要なエージェント数が不足することになります。 この問題に対処するには、コールのオーバーハングの発生を踏まえてインターバルを設定することが必要です。 具体的には、インターバルをAHT(average handle time; 平均処理時間)の2倍以上の長さにするということです。 つまり、インターバルを15分にするには、そのセンター(業務)のAHTが7分30秒以下であることが望ましいということです。 そうしておかないと、常に多くのオーバーハングに見舞われることとなり、時間帯別のきめ細かな予測やスケジューリングが機能しなくなってしまうので、注意が必要です。
注1: キュー = 顧客のコールがエージェントにつながるための順番待ちのこと
注2: オーバーハング = 建築物の壁面や山の断崖など、垂直な面の一部が張り出している形状のこと 熊澤 伸宏(文/Vol.11) Google Trendsによるコールセンターとコンタクトセンターの検索ワード人気度比較(2004年1月~2018年8月) 左上から時計回りに日本、全世界、イギリス、アメリカ合衆国 Googleで検索されるワードの人気度(注)を見ることができるGoogle Trendsを利用して、コールセンターとコンタクトセンター、Call CenterとContact Center(イギリスの場合はCall CentreとContact Centre)の比較をしてみたところ、興味深い結果が得られたので紹介します。 コールセンターやコンタクトセンターの当事者たちの大方の予想(?)を裏切って、コールセンターの圧勝です。 私が調べたおもな20カ国の中では、オランダがそろそろ逆転しそうな傾向を見せている以外は、イギリスを除くすべての国でコールセンターがコンタクトセンタ―を上回っています。 英語以外を母国語とする国の影響も多少はあるかもしれませんが、全体的な傾向は表しているでしょう。 唯一の例外であるイギリスは、2011年8月を境にコンタクトセンター(Contact Centre)が上回るようになり、2015年以後はその差を拡げていることがわかります。 ちなみに2013年6月にコールセンター(Call Centre)が派手にスパイクしていますが、これはBBCが「The Call Centre」という番組を放送したことによるものです。 アメリカは驚きです。 言うまでもなく、コールセンター/コンタクトセンターの最先進国であり、アメリカ発の各種メディアの表記は、圧倒的にコンタクトセンター(Contact Center)で占められているからです。 日本の場合は、何か裏付けとなるデータがあるわけではありませんが、世間一般的には、コールセンターが圧倒していることは感覚的に理解できます。 とは言え、日本でも“業界的には”、コンタクトセンタ―の露出が急増しているはずですが、検索ワードではコールセンターがいまだに増加を続けているのに、一方のコンタクトセンターは2012年ころを境にそれまでよりも減少し、その後増加する気配はありません。 一般に、電話が圧倒的にメインのコンタクト・チャネルである場合はコールセンター、Eメール、チャット、SNSなどマルチ・チャネルの場合はコンタクトセンターと定義されています。 ITベンダーなど、それにこだわって両者の使い分けをしている企業も見られますが、チャネルの種類による区分は、多分に業界寄りの発想である気がしないでもありません。 世間一般的には、チャネルはどうあれ(そもそも一般消費者がそんなことを意識しないでしょう)、企業や組織の顧客コンタクトの窓口のことをコールセンターとするという単純明快な認識なのではないでしょうか。 さまざまな理由で、コールセンターとコンタクトセンタ―のどちらにするかを検討する機会があるでしょうが、GoogleTrendsのデータは、今後もしばらくの間、業界の当事者の悩みの種となりそうです。
注:人気度の数値は、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索インタレストを相対的に表したものです。100 の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50 の場合は人気度が半分であることを示します。0 の場合はそのキーワードに対する十分なデータがなかったことを示します(Google Trendsより)。
熊澤 伸宏(文/Vol.10)
「月刊コールセンタージャパン」の調査によれば、全体のおよそ半数のコールセンターが「顧客がコールセンターに電話をかける理由(=コンタクト・リーズン)を集計している」とのことです(注1)。 みなさんのセンターではいかがでしょう。 もしまだであれば、今日からすぐに集計を始めることをおすすめします。 コールセンターの運営を改善するヒントがたくさん得られるからです。 もちろん、ただ単に集計するだけでは何の価値も得られません。 いったいどのような活用方法が考えられるでしょうか。 私が在籍するセンターでは3つの目的でコンタクト・リーズンを集計、分析し、活用しています。 ① 異常値を検知する ② 応対品質、生産性を管理する ③ カスタマー・エキスペリエンス(customer experience; CX)を向上する ここで重要な点は、「コンタクト・リーズンは複眼的な視点で集計し分析すると活用の幅が広がる」と理解することです。 たとえば、①の「異常値を検知する」では、「受注」「問い合わせ」といったコンタクト・リーズンごとの平均処理時間(average handle time; AHT)を見ています。 それによると、「受注」のコンタクトのプロセスは標準化が図られているため、通常はAHTは大きく変化しませんが、年末の時期に限ってエージェントが顧客に案内する注意事項が増えるため、通常の時期に比べて「受注」のAHTが増加することがわかっています。 したがって、通常の時期なのに「受注」のAHTが増加した場合、他のプロセスで問題が起きているのでは?という仮説のもとに、即座に事実を検証し把握することができ、その改善のための機会を逃しません。 このように、コンタクト・リーズンごとのAHTを見ることで、センター全体のAHTを見ているだけでは把握できない「異常値を検知する」ことができるのです。 もしまだコンタクト・リーズンの集計をしていなければ、まずはその分類と集計から始めてください。 その上で、分類したリーズンごとのAHTのデータを取り、その増減の原因を特定してください。 さらにその原因を、「恒常的な事実」と「一時的な事実」に仕分けることで、上記の例のように、異常値が発生した時も、迅速、的確な対処が可能となります。 さらにそのデータは、コール数の予測のための貴重なデータとして有効に活用することができます(注2)。 コンタクト・リーズンとAHTを複眼的な視点で分析し、コールセンターのマネジメントに活用していきましょう。
日本企業は、技術系の分野においては世界をリードするプロセスやノウハウを持ちながら、一般事務系オフィスワークにおいてはからきし弱いと言われます。 個人の暗黙知に頼り、集団で助け合いながら仕事をするという日本流のスタイルが、個人の役割や責任をあいまいにし、それによってムリ・ムラ・ムダや無責任体質を引き起こします。 その結果、時間当たりの労働生産性が、主要先進7カ国中37年連続で最下位(日本生産性本部)に甘んじるという不名誉な状況を招いているのです。 この日本流のスタイルでコールセンターのオペレーションを運営しようとするから、上手くいかないのです。 コールセンターのオペレーションは、顧客とエージェントの1対1のコミュニケーションの集合体です。 つまり、仕事の最小単位である1つひとつのコンタクトは、1人ひとりのエージェントが他から明確に独立して仕事をしているため、そこに“集団”が介入する余地はありません。 また、個人の暗黙知に頼ることで、コールセンターの生命線である“一貫性”が損なわれ、次のような事態を招きます。
このような状態から抜け出すために真っ先におこなうべきなのが、仕事の可視化と標準化です。 可視化・標準化するのは、チームの仕事だけでなく、個人(注)の仕事についても必要です。 この、個人の仕事の役割や責任を明確にするのが「ジョブ・ディスクリプション」です。 ジョブ・ディスクリプションには、企業やセンターのミッションや目的を達成するために、各ポジションが果たすべき役割や責任が定義されています。 多くのスタッフが集う一方、1つひとつのコンタクトが独立しているコールセンターだからこそ、全員の意識と行動に一貫性を確保するために、ジョブ・ディスクリプションは必須のツールなのです。 さらに、ジョブ・ディスクリプションが存在することで、自分が担うポジションのあるべき姿と自分の現状とのギャップを具体的に知ることができ、それを埋めるためにスキルや能力の強化を図るなど、自己啓発のためのツールとしても機能します。 ジョブ・ディスクリプションは、コールセンターにとって“Nice-to-have”でなく“Must have”のツールなのです。 ※ジョブ・ディスクリプションについては、『コールセンター・マネジメントの教科書』第2章(P.74~76)で、作成の仕方について詳しく説明しています。また、代表的な7つのポジションのジョブ・ディスクリプションのサンプルを掲載(P.556~564)しています。
「コールセンターの活動に対する社内の理解がない」「コールセンターの社内における位置づけが低い」といったことが、コールセンターの運営上の課題して必ず挙げられます。
本当にそうなのでしょうか? そしてそれが課題なのでしょうか? 「コールセンターの社内認知度が低い」と多くのセンター管理者が言いますが、今の時代、コールセンターの存在自体を知らない社員がたくさんいるとはとても考えられません。 では、コールセンターのどの部分の認知度が低いのでしょうか。何を根拠に認知度が低いと判断するのでしょうか。社内の他部署との比較でしょうか・・・ 残念ながら、これらを裏付ける具体的な事実やデータを筆者は目にしたことがありません。 視点を変えましょう。 あなたは自社の他部署の仕事のすべてを、正確に把握していますか?――この問いに自信をもってYESと答えられる人は極めてまれなのではないでしょうか。 つまり、「お互いさま」なのです。 総務、広報、財務、法務……どの部署も皆、社内認知度が低いと嘆いています。 マーケティング部門が顧客にDMを発信したことを顧客から知らされたことや、知らないうちにコールセンターの電話番号が広告に掲載されていたことは、「マーケティング部門とコールセンター間のコミュニケーション不足」という具体的な問題であって、「コールセンターの認知度不足」といった漠然とした理由が原因なのではありません。 このことをきちんと認識しないで、ただ「コールセンターの位置づけが低いから・・・」などと嘆いていても、問題は何ひとつ解決しません。 そんな状態を放置している管理者は、まさに「思考停止」状態と言わざるを得ないでしょう。 つまり、「コールセンターの社内認知度が低い」(事実はわかりませんが)ことが課題ではないのです。 課題は、社内のビジネスプロセス、トレーニング、コミュニケーション、サービス・アグリーメントなどにあり、コールセンターの管理者として、問題をこれらに具体的に落とし込んで考え行動することが必要です。 では、具体的にどうすべきか・・・・・・今回は問題提起にとどめ、後日この「コールセンターの教科書コラム」であらためて述べたいと思います。 ちなみに、『コールセンタ・マネジメントの教科書』の第1章(Ⅲ効果的なビジネス・コミュニケーションを構築する)でも述べていますので、ぜひご参照ください。 熊澤 伸宏(文/Vol. 7)
コールセンターの管理者やビジネス・コントローラーが意外に知らない電話の法則があります。 『1時間の間にかかってくる顧客のコールは、正時(注1)を起点に、最初の15分で全体の40%、次の30分(15分~45分)で30%、残りの15分(45分~60分)で残りの30%がかかってくる』 というものです。 多くのコールセンターでは、営業開始時刻(9時が最多数派でしょう)に多くのコールが集中し、フロア全体にエージェントの声が広がって忙しい1日の幕が上がります。 しばらくすると、喧騒が少々落ち着きます。そしてまたしばらくすると、にぎやかになってきます。 このサイクルを、コールセンターの多くの人は、営業開始直後に集中したコールにエージェントが頑張って応答して“スイープ”(注2)したからと考えています。 そのためにコールが減って喧騒が落ち着くというわけです。 確かにエージェントは頑張りました。 しかし、落ち着きの真の理由は、顧客のコール自体が減ったからなのです。 もしスイープが理由であるならば、(そしてベース・エージェント数(注3)がその後も変わらなければ)その後も落ち着いた状態が継続するはずです。 ところが、営業開始から45分経ったあたりから再びざわつき始め、1時間経過し次の時間帯になると喧騒が復活します。 なぜでしょう・・・。 これを説明してくれるのが、冒頭に記した「人は正時に電話をかける」法則です。 電話に限らず、人は何か行動する時に、「〇時になったら◇◇をしよう」という風に正時を起点にすることが多いのです。 最初に、「9時になったらすぐに電話しよう」と営業開始を待っていた顧客が集中します。そして「10時になったら・・・」「11時になったら・・・」という風に続きます。 多くのコールセンター関係者がこの法則を知らないのは、コール数を1時間単位でしか見ていなかったり、ベース・エージェント数が時々刻々と変化するため気付きにくいからでしょう。 しかし、この法則を把握していることで、コール数の予測の精度が高まり、エージェント数やスケジューリングもより的確なものになるはずです。 規模の大きなコールセンターでは、その効果は大きいでしょう。 だからこそ、コール数を15分単位で見ることに大きな意味があるのです。
注1: 正時 = 9時、10時など、分や秒といった端数のつかない時刻
注2: スイープ=特定の時間帯に集中したコールの応答がすべて完了して、コールセンターのフロアに静寂が訪れ、あたかもエージェントがすべてのコールを掃除してなくしたかのような状態 注3: ベース・エージェント数 = 電話オペレーションなど、顧客コンタクト業務をおこなうために配置された実働人数 熊澤 伸宏(文/Vol. 6) |
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